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不動産売買の適正な時価①〜個人から法人への売却〜

 今日は前回ご紹介した個人から法人へ不動産を譲渡する際の適性額について争われた裁判例をご紹介します。

 


名古屋高裁 昭和50年11月17日判決

1.事案の概要
  昭和35年5月18日に個人Aが所有する土地2筆を以下の(路線価方式によ
 って算定)とおりその主宰法人S(株)へ譲渡し、確定申告をしたところ、国税
 当局から低額譲渡であると指摘され時価課税されたことに対して争われた事案。

      所在地   面積    譲渡対価   時価課税額  その他
 土地X 愛知県一宮市 240坪    259万円   1,805万円  譲渡時に
 土地Y 愛知県一宮市 124坪   (X・Y合計) (X・Y合計) 借地権有
 ※S(株)はその取得の1.5ヶ月後に更地にしたうえで他の法人へ土地Xを
  1,712万円(坪7.5万円)、土地Yの一部を764万円(坪10万円)で譲渡してい
  る
 ※この当時の1ヶ月あたりの土地の時価上昇率は3%と認められる

2.裁判所の判断
  ①「その譲渡の時における価額」(時価)とは、当該譲渡の時における客観的交
  換価値(市場価値・時価)、いいかえれば、自由市場において、市場の事情に
  十分に通じ、かつ、特別の動機をもたない多数の売り手と買い手が存在する場
  合に成立すると認められる価格
をいうものと解するのが相当 
 ②土地の時価を算定するにあたり各事案毎に相当な方法によつて算定すべきであ
  り、本件については売買実例(転売取引)を基礎とする市場資料比較法による
  のが相当。
 ③市場資料比較法の計算
                     転売価額 時点修正 借地権考慮
  土地X  1,712万×(1-0.045)×50/100=817万円
     転売価額 時点修正 
  土地Y  764万×(1-0.09)=695万円+未転売部分293万=988万円
 ④転売した価額が時価と認めれる根拠
  イ 土地Xの近隣成約事例
   昭和35年2月に坪8万円で成約(215坪の角地だが土地Xより駅から遠いい
   ため価格差はないためこの単価が時価と考えられる)
  ロ 土地Yの近隣成約事例
    昭和36年5月に坪25万円で成約(108坪で幹線道路沿いの角地と、土地Y
    より遥かに良い条件の物件のため、それぞれの土地の固定資産税評価額の
    価格差や時価上昇率の時点修正等を乗じて坪11万円程を時価と算出)


 この裁判例から土地の時価を算定するにあたり大切な要素としてはまず、裁判所の判断①、②で示した時価の定義とその算定方法です。

 定義については、「自由市場において市場の事情に十分に通じ、かつ、特別の動機をもたない多数の売り手と買い手が存在する場合に成立すると認められる価格」とし、その算定方法は各事案毎に相当な方法としています。

 なんだか抽象的で結局あまり参考にならないのでは・・・とも見えるのですが、算定方法については各事案ごとに相当な方法、すなわち不動産鑑定評価ならOK、固定資産税評価額ならOK、財産基本通達によって算出した価額ならOKといった話ではないということがまず読み取れます。

 実務においても、「同族関係者間での土地の売買価格どうしようか〜。固定資産税評価額を70%で割戻した価格でいっか!」なんて話をたまに耳にしますが、たまたまこの価格が当てはまる場合もありますが、画一的に「この方法なら大丈夫」という方法は存在しないということが言えるため、価格を決める際は常に多角的に検討すべきということが言えます。

転々と売買される場合は市場資料比較法?

 そして、この時価算定方法の選定の仕方として今回の裁判で採用されたのは売買実例を基礎とした「市場資料比較法」です。
 これは、「同じ土地を近い期間に特別な事情がない第三者間で売却していればその価額こそ時価」なのだから、その時価から時間的な修正をしたものを時価とするという理屈なので、時価の定義に照らしても非常にしっくりきますね。

 もっとも、今回のケースのように同一の土地が短期間に転々と売買されるというケースはあまり多くないでしょうから、多くの土地売買で採用できる方法とは言えないですが、こうした転々売買が見込まれる場合には最終的に誰にどのタイミングでいくらで売却される予定なのかを把握できれば適正な時価の算定に近づけることができるのではないかと思います。

まとめ

 思わぬ時価課税による追徴税額を免れるために、同族グループ間での土地売買を行う場合には、ケースバイケースで時価を多角的に検討する必要があります。
 
 しかし、「どのような場合にどのような時価の算定方法が良いか」という点は最も難解な点であり明確な答えもないので、過去の裁判や裁決の個別事例に数多く触れることで要素を掴んでいく必要があります。
 
 今回のような転々と同一土地が売買されるようなケースであればこの裁判例は参考になるので活用をお勧めします。

 次回以降は今回と異なるケースでの裁判例を取り上げてみたいと思いますので、またご覧いただければと思います。


 最後まで読んでいただきありがとうございました^ ^

 

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