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創立記念パーティー費用は福利厚生費?交際費?①

 今日は会社の創立記念パーティーに係る費用が福利厚生費となるか交際費となるかについて争われた事案を取り上げたいと思います。
 ちなみに先に結論を言うと、今回の費用は交際費等に当たるとして会社が国税に負けているのですが、その理由がそもそも今回の創立記念パーティーには社外の下請業者が含まれていたため、この時点で福利厚生費該当性が否定されてしまっているのですが、裁判所は福利厚生費と認められる場合であったとしたら妥当かどうかというような仮のパターンの見解も示しており、実務上の判断をする上で参考になる要素が多い事案です。


東京地裁昭和57年8月31日 判決

1.事案の概要
  電気工事業を営むD(株)が創立30年を祝い一層の飛躍を期するとともに、従
 業員及びその家族並びに下請業者の労を慰める等の目的の下に、一流宴会場で以
 下のとおり、各拠点ごとに開催した創立記念行事に係る費用合計590万円は、福
 利厚生費ではなく交際費等に当たるものとして、税務署が更正した事案。

 開催場所        金額   従業員 家族 下請   一人当たり単価
 東京本社(八芳園)   410万  228人 125人 33人    1.3万
 大阪支店(太閤園)   125万   77人  26人  15人    1.3万
 名古屋支店(国際ホテル) 54万   48人  9人  12人    0.9万 
 ※内容(各拠点ほぼ共通)
 記念式典を行い、社長挨拶、永年勤続社員等表彰及び協力会社表彰(下請業者の
 中から選ばれた二、三の優秀業者の表彰)をした後、引き続いて本件祝賀会に移
 り、プロの楽団や芸能人等が加わった余興を楽しみながら飲食(酒類も含む)を
 行う(約3時間)。 

2.裁判所の判断
 ①従業員に対する慰安行事が交際費等から除かれるには、もっぱら従業員の慰安
  のための行事の費用であると同時に、当該行事が法人が費用を負担して行う福
  利厚生事業として社会通念上一般的に行われていると認められるものであるこ
  とを要するが、下請事業者も参加していることからもっぱら従業員の慰安のた
  めの行事ではないため従業員及び下請従業員に対する接待行為と言える

 ②下請業者の従業員で当該法人の工事現場等において専属的ないし経常的に業務
  に従事している者は、従業の実態においては当該法人の従業員と大差ないとい
  えるから従業員に含める余地がないとはいえない
が、今回参加した下請業者
  は各現場の従業員ではなく、その下請業者の代表が各一名参加しており、下請
  業者の約半数はD(株)の注文にほとんど依存していたとはいえ、随時他の業
  者等から工事を請負うことも自由な立場にあったため、従業員と同視し得るも
  のということはできない。
 ③10年に一度開催される創立記念祝賀会に係るものであることを考慮しても、
  総額590万円、一人単価1.2万円
(家族の招待は従業員に対する慰安に含まれ
  るため、従業員及び下請業者の数で平均額を見る)でわずか三時間前後の短時
  間に行われた行事の費用としては相当に高額
であり、一流宴会場においてプロ
  の楽団、芸能人等を招いて催されていることを総合勘案
すると従業員の慰安の
  ため法人において費用を負担するのが相当なものとして通常一般的に行われて
  いる程度のものとは到底いえない。
 ④開催場所が社外であるということのみで当然に交際費等に該当するとはいえな
  いであろうが、開催場所は重要な判断材料といわざるを得ない


 創立記念行事を行う際の目安となる要素が色々と散りばめられているので、以下ポイントを列挙して説明していきます。

1.福利厚生費とするなら原則社内の人間のみが対象

  まず、裁判所の判断①で言われているとおり、福利厚生費となるには”もっぱ
 ら従業員の慰安のための行事
”の費用であることが前提としてあるため、取引先
 等社外の人間が参加しているとその全体に対する接待交際費となってしまうた 
 め、福利厚生費としての処理を行うにはまず参加者の線引きをしっかりとすべき
 です。
  もっとも、裁判所の判断②では、社外の人間であっても専属的ないし経常的に
 業務に従事している下請従業者
なら社内の従業員に含める余地があるとしてお
 り、この具体例としては検針員、集金員等が挙げられていますが、本事例につい
 て裁判所は「今回参加した下請業者は各現場の従業員ではなく、その下請業者の
 代表が各一名参加しており・・」と、「実際に現場に専属的に従事していた者が
 出席してないんだからダメでしょ」と言っていることから、逆に言えば「実際に
 現場に専属的に従事していた者が出席していれば従業員と同視する余地がある」
 と言うことができるように読めますので、どうしても下請従業者を出席させたい
 のであれば一つ参考にすべきでしょう。

2.開催時間3時間で一人当たり1.2万円は高い!?

  この点は、今から約40年前の物価や社会情勢に基づく一裁判官の判断なので、そのまま基準にするべきではないのですが、実務の感覚として「一人当たり1万円以下にした方が良い」なんていう税理士もちらほらいるようなのですが、その金額の根拠はこの1.2万円からきているのかもしれません。
 ちなみに、この価格を「少年ジャンプ」の価格をもって現在に換算すると約2万円(1.2万円×290円/170円)と算出されますが、注意すべき点として裁判所は一人当たり単価だけを言っているのではなく総額の要素も合わせて高額であると言っているので、参加人数が増えれば増えるほどこの単価は気を付ける必要性が高くなるとも言えます。
 なお、一人当たり単価を算出するにあたり従業員家族を出席させる場合にはその家族分はその従業員分に含めて計算をすることになる点も留意すべき点です。

3.会場は有名どころを選ばない

  最後に、裁判所の判断④にあるとおり開催場所も重要な要素になるという点で
 すが、今回はいずれも一流宴会場で行われているという点が挙げられています。
  何をもって”一流”というのかは明確ではないですが、今回一流と言われた八芳
 園や今はなき太閤園といったようなところに類似する場所を思い浮かべれば大体
 合致するのではないでしょうか。
  一流の会場で行うというのは「従業員に対する純粋なおもてなし=交際費」と
 いう考えに繋がりやすいようですから、開催場所を選ぶ際はあまり有名どころで
 高い会場を選ばないことも必要です。

まとめ

 以上のことから、会社の創立記念パーティーを福利厚生費として行うには、私見としては会社近隣のシティホテル等の宴会場において、会社の役員・従業員のみを出席者として料理と酒を振る舞い、一人当たり1万5千円程までにおさえておくことが無難なやり方ではないかと思います。


 なお、次回は題材としては今回同様に記念式典費用が福利厚生費か交際費かで争われた事案ですが、今回とは逆で福利厚生費と認められた事案をご紹介したいと思います。


最後まで読んでいただきありがとうございました^ ^


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