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東大生の米談義 番外編 -最近のお米動向- #4

Podcast「東大生の米談義」の番外編となるお米News #4です。


先日Podcastの配信を開始しました。
(毎週土曜日16時頃更新)
ご興味・関心等ございましたらぜひ!(Instagramも更新中!)


棚田サポート

和歌山県紀美野町には、美しい棚田があった。

高野山金剛峯寺が寺領の村へお米の徴収を割り当てた記録「天野社一切経会段米納日記」から600年以上の歴史があるとされる「中田の棚田」は、生石高原の麓に広がり長さ600mの灌漑用水路「竜王水」を水資源とする。
長い時間のなかで地域の原風景として親しまれたこの棚田にも、耕作放棄は止められない流れであった。

平坦地の水田に比べて「労力は2倍、収量は半分」と言われる棚田では、米余りによる生産調整(減反政策)が始まった1970年以来棚田の転作・放棄が続いてきた。次第に棚田地域では過疎・高齢化が一段と進み、集落そのものも小規模・高齢者集落(限界集落)となり消滅の危機が問題となり始めた(参照:特定非営利法人棚田ネットワーク)。

一方で棚田には、土砂流出・洪水防止、水資源かん養、生態系保持といった様々な公益的な機能価値のほか、独特の景観形成といった文化遺産の側面もある。

そこで「美しい棚田の自然と農業文化を次世代に残したい」と5年前に和歌山県紀美野町で始まったのが、「中田の棚田再生プロジェクト」。

プロジェクトチームには和歌山大学観光学部の大学生も参加して荒廃した棚田などを再生し、太陽と水と大地の力だけで農作物を育てる「自然栽培」に取り組んでいる。
棚田サポーターズという制度を設け、町外や県外からの活動参加もあるという。

Npo | よこね田んぼ 日本の棚田百選 | Japan

こうした活動は当然”食育”としても素晴らしい効能を持つ。
10日、長野県飯田市では「日本棚田百選」にも選ばれる「よこね田んぼ」にて千代小学校と千栄小学校の全校児童、竜東中学校1年の生徒ら計約120人で田植え体験が行われた。

田植え体験のニュースは全国で見られるが、棚田で行われる田植え体験は格別な感動をもたらすこと請け合いである。どうかこの試みが、普段目にするお米からかけ離れた苗の田植えだけでなく、夏には緑、秋には黄金色となる棚田を見てのピクニックや、実際に自分が植えたお米を食べる体験など、残したい形や手に取る形での伝え方をして心に残るものになることを願っている。

こうした活動が棚田への興味の種となって、果ては大人になった際の棚田米の購買、棚田支援の芽となろう。


ドローン直播

2021年のクリスマスイブ、海外産コシヒカリの栽培に30年前から米国・カリフォルニア州で挑戦を続ける田牧一郎さんが「ドローンによる直播栽培を日本で成功させるために必要なこと」という連載記事が公開された。

なぜ日本では空からの直播栽培が普及しなかったのか、水田が小さく大型機械が使用できない稲作はどうすべきか、そしてドローン播種のための今後の栽培技術についてを語るこの記事から3年経ち、今もなおドローンによる省力化はホットなトピックとして取り上げられ、先ほど取り上げた棚田があるような田植機が入り辛い中山間地域での試用も多い。

10日、旭川市の郊外では省力化のため田植えをせずにドローンを使用して種もみを田んぼに直接まく直播(ちょくは、じかまき)が行われた。

取材を受けた市川さんはシンガポールなど海外にもコメを輸出しており、円安の影響によるインバウンドの増加で国内でも需要が高まっているため今年は去年より120キロ多い600キロのコメの収穫を目指すそう。

直播は鳥に食べられたり土中での窒息、土に根を張れず不安定、苗ぐされ病のリスクがあったため移植栽培が一般的となっていたが(*)、農薬等で種子をコーティングすることでそのハードルを乗り越えている。

「重り成分で種子が浮いてこない」「酸素供給成分で泥に埋まっても窒息しない」「殺菌・殺虫剤成分で病虫害リスクが軽減可能」「苗立ちを安定化」といった様々な機能を持つコーティングの発展でドローン直播は今後も農業の省力化を進めるだろう。


アイガモと赤米おはぎ

度々登場する食育のテーマについてだが、田植え体験ニュースの中に一際目を引くものがあった。

千葉県長生村で行われた「園児によるアイガモ放鳥」である。

長生村本郷の水田ではアイガモ農法で米作りが行われていおり、村内のこども園と小中学校では給食に使っているそう。
近くの高根こども園の年長児25人がアイガモ約30羽を放鳥し、南部アイガモ農法研究会から給食の米を守るアイガモの働きを学んだという。

アイガモ農法(10アール当たり15~20羽程度)利点は4つ。
①田んぼの害虫や雑草を食べる
②泳いで田んぼの土をかき混ぜ光合成が抑えられ雑草が育ちにくくなり、同時にイネの根に酸素を与える
③フンが肥料になる
④農薬・肥料代を節約し大きくなったら食用に売れ収入増加につながる。
(参照:農水省-なぜ田んぼにアイガモを入れるのですか)

こうした動植物の互恵関係は生態系そのものとも言え、アイガモ放鳥という類を見ない体験と共にいつか思い出され、お米や農業への関心と繋がると良いなと思う。

ちなみにアイガモ農法の歴史は浅く、16世紀の安土桃山に太閤秀吉がアヒルの水田放飼を奨励したとの伝承があったことから水田での水禽利用は古くから存在することは推測できるが、アイガモは人間がマガモとアヒルの交雑交配で飛べなくした鴨であり、アイガモ農法の試み自体は1980年代の農薬多用、環境問題、食料の安全に対する関心の高まりから1991年の全国合鴨水稲会とともに本格的に開始されたそうだ。(林 2006)

また静岡県静岡市の城南静岡高等学校・中学校「地域貢献部」の取り組みも素敵である。

「登呂遺跡とこの部活を知ってもらいたい」という気持ちから登呂遺跡の復元水田で育てた“赤米”を使用した「ユメおはぎ」を生徒たちが知恵を絞りながら開発した。
協力したのは静岡のソウルフード「しぞーかおでん」を販売する天神屋で、30店舗全店販売し好調な売れ行きとなり、11日感謝状を同部活へ贈った。

登呂遺跡と言えば受験頻出ワードで、板付遺跡、菜畑遺跡、砂沢遺跡、垂柳遺跡とともに日本での水田耕作の起源を知る上で重要な遺跡の一つである。

日本に最初に伝わった稲とされる赤米を使い弥生時代の水田跡を伴う登呂遺跡のPRを図るのは理にかなっており、また古代米は生命力が強く荒れた土地で肥料や農薬などを与えなくても簡単に育てられる点でも学生によるこの試みの設計はよく出来ていると感心した。

お米は奥深い。生態系や歴史、様々な視点で今後も学び続けたい。


市役所で米粉

岡山県倉敷市で先月の市長選挙で再選した伊東市長の公約にも掲げられる「米粉普及」。
その表出として市を挙げて取り組んでいるのが、パンフレットの作成と小中学校への配布、ホームページ立ち上げ、米粉商品の販売イベント、そして「米粉製粉所の設置」である。

一見ATMにも見える米粉製粉所は、去年10月、住民票などを自動交付していた施設を改装して作られ「市民が持ち込んだ米を無料で米粉に製粉するサービス」を提供する。
先月末までに1056件、2600kg以上を製粉したといい、設置は3月末までを想定していたがニーズの高まりを受けて延長したそう。

小麦価格の高騰により米粉価格が相対的に手頃になっているとは言うが、依然として店頭価格は安くない米粉を「家のお米」「残ったお米」によって製粉できるのは確かに魅力的である。

また米粉を使った新しい商品も、円安と小麦の高騰で第2次米粉ブームと言われる2024年は目白押しだろう。

福岡県直方市のお米農家であり一児の母である山本貴絵さんは「米粉の笑笑(クスクス)」という商品で特許を取得し、2023年度「福岡県産米粉商品開発支援事業」に入賞した。

自宅で水と塩のみを使って開発したという「米粉の笑笑」のクスクスとは、北アフリカや中東・ヨーロッパ・ブラジルで愛される、デュラム小麦の粗挽粉から作る粒、またはその食材で作る料理。おかゆ・離乳食としてや、ふりかけなどその用途は多様で、簡単に調理できるように加工している。

「米粉の笑笑」を販売する「米貴」は’お母さんが子どもに食べさせたいお米’を目指すちいさな農家。
魚粉を利用して作られた有機肥料「人魚姫」により化学肥料を使わず生産し、HPでは美味しい食べ方や豆知識なども投稿する。

「米粉の笑笑」はユニークかつコンセプトもしっかりした優れた商品で、今年はこうした米粉のイノベーションが起こる転機となるだろう。今後も米粉商品の動向には注目しよう。


ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回もお楽しみに!

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