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母から聞いた怖い話 壱

私の母は、いわゆる「視える人」だ。

本人曰く、どちらかというとそこに残っている記憶を読むので「サイコメトラー」らしい。
私自身は、全然何も見聞きしないし感じもしないので、その違いは全くわからん。私からしたら、人ならざるものが見えることには変わりないと思う。

幼い頃からいろんな話を聞いてきた。
せっかくなので、今まで聞いた不思議な話や怖い話を文章として残しておこうと思う。
体験談なので、物語的なオチがあるわけではないことはあらかじめご了承いただきたい。

今回は手始めにちょっとしたエピソードを箇条書き的に羅列してみる。

上野公園

私の母は、北海道生まれの北海道育ちだ。
父が東京生まれで北海道にやってきて出会ったので、結婚前後になって、東京に行く機会が増えたそうだ。
そうして、初めて行った上野公園で、とても怖い思いをしたと言う。
そこでは、たくさんの日本兵が戦っている姿が見えたらしい。
その場所を離れた後で父に話を聞くと、彰義隊が戦っていたのがまさにその場所であったと知ったそうだ。

北海道と比べて人の住んでいた歴史の深い関東は、さまざまな記憶が色濃く残っているようだ。


古書店の視線

母と父は互いに読書好きで、昔から一緒に図書館や古本屋巡りをすることが多かった。
初めて訪れたある古書店で、手に取った本を立ち読みしていたところ、ふと視線を感じたという。

その店の本棚は背板がついていないタイプで、本の上部にできる隙間から向こう側が見えるものだったらしい。
初めは、父が悪ふざけで覗いているのかと思ったそうだが、すぐにそうじゃないと気づいたという。
その視線からは、背筋がゾワゾワするような、嫌な感じ——悪意とか敵意のようなものを感じたからだ。
視線の主とは目を合わせないようにしながら本を棚に戻し、慌てて、店内を歩いていた父を探して、すぐに店を出よう、と訴えそのまま店を後にした。
父も、店の奥の方が嫌な感じがすると感じていたらしい。
結局、その視線の正体はわからないままだ。


家の隅の霊道

これは母が幼い頃の話。
昼下がりに2階の部屋で昼寝をしていると、ざわざわと何かの気配がしたそうだ。はっきりとは聞き取れないが、人の話し声のようだった。
他の家族は下の階で仕事をしている時間だったのだが、家族の誰かが覗きにきたのとは違う気配だったという。
母が寝ている布団の脇を、ゾロゾロと人がたくさん歩いているようなのだ。
その行列には、日本兵のような服を着た人や薄汚れた着物を着た人たちなど、時代劇に出てきそうな格好の人が多くいた。
青白い顔をした女の人が、寝ている母の顔を覗き込もうとしていたらしい。
それはちょうど、お盆の時期だったという。

その後も、たびたび寝ている時に人が通る気配を感じたそうだが、その行列は決まって家の隅を斜めに通っていき、進行方向もいつも決まって同じだった。
後から調べてわかったことらしいが、どうも母の実家を霊の通り道がわずかに掠めているのだそうだ。


庭好きのおばあちゃん

両親は古い家が好きで、借家を転々としていた時期があった。
その家も見るからに築年数が経っていて、実際話を聞くと住み始めた頃には築100年近い歴史があったという。
ただ、その家はもともと借家として住人を募集していたわけではなく、家を気に入った両親が、大家さんに直接交渉して貸してもらえることになったのだ。

その家は一階建の平屋で、家の周りを広い庭が囲んでいた。その家を見つけた時は、当然庭の手入れなどはされておらず、草があちこち生え放題だった。その庭に、小柄なおばあちゃんがしゃがみ込んでいるのが見えたらしい。どうも庭仕事をしているようだった。
ちょうど隣の家の奥様がその家の持ち主だったのだが、当時彼女とその姉妹たちには、その家を誰かに貸し出すつもりは毛頭なかったらしい。
けれど不思議なことに、その家を気に入って持ち主を探していた母が話を聞こうと大家さんの家を訪れた時、「この人たちになら貸しても良いかも」と思ったそうだ。
結果的に、その家には5、6年住むことになったのだが、初めて家を見つけた時に見かけたおばあちゃんは、どうやら大家さんのお母様で、庭をとても大切にしていた人らしい。
母曰く、おばあちゃんは、荒れ果てた庭をどうにもしようとしない娘たちのことを嘆いていたそうだ。
父がもともと土いじりが好きなので、庭のことは任せてください、とおばあちゃんに伝えると、おばあちゃんは安心したように笑っていた。

築100年の家だったけれど、内装は昭和の終わり頃に改装したらしく、住むには特に不便なことはなかった。
時々、屋根裏部屋で足音がしたり、誰もいないはずの廊下に誰かの気配がする、ということは多々あったのだが。

父が庭に駐車スペースと家庭菜園を作り、もともと植わっていた木や花など、満遍なく世話をするようになってしばらく経った頃、ある日庭におばあちゃんが現れ、母を見ると笑顔で一礼して姿を消したらしい。
それ以降、父も母も、おばあちゃんの姿を見ることはなかったという。
庭を丁寧に世話してくれる人間が現れて、きっと安心したのだろう。

その後、老朽化によるいろいろな問題が出てきて住み続けるのに支障が出てしまったため、その家を出ることになったのだが、もともと倉庫代わりに使っていたその家を大家さんは手を加えて管理すると言っていた。
私たち一家が無理やり頼み込んで住んだことで、結果として良い結末に落ち着いたような気がするが、そのことを、母は「家に呼ばれている」と言っている。



もっと手短にまとまるかと思ったのだけど、なんやかんやでダラダラと書き連ねてしまった。
他にもまだちょっとした話のストックがあるので、また別の機会に紹介がてら書き留めていきたい。
その前に母にも電話でヒアリングしておこうと思う。

私自身が登場する話は少ないのだが、1個だけ、私が重要なポジションにいる話があるのでその話もいずれまとめてみたい。
ちなみに、その話は私の中でもはや鉄板ネタになっている。



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