映画視聴記録:MEN同じ顔の男たち(ネタバレあり)

MEN同じ顔の男たち、A24ということで鑑賞。
男性批判であると同時に、一部のフェミニズム批判なんじゃないかと感じた。
彼女ははじめ間違いなく被害者であるのだけど、だからこそ男性だからというだけで相手に同じ顔を見てしまう(≒そのような見方しか出来ない)本来なら個々であるはずの一人ひとりを見ずに、自分の領域を侵犯する加害者としての男性しか見ていない。だから同じ顔なのではないか。村の男性たちから彼女が加害を受けたとき、その理由や原因は個々に違う。が、そういった部分は見ようとしないし、被害を受けている彼女からすれば見る謂れなんてないと感じるだろう。だから同じ顔に見えてしまう。だが、それが更なる悲劇を産んだのではないか。
医学分野は門外漢だが、彼女は神経耗弱から来る妄想・幻覚に囚われているように見える。男性側に問題はあった、でも彼女にも問題はあるのだ。それは、耳元で囁かれる打ち明け話のように繊細に扱わなければいけないもので、映画中盤までは狂っているのは村の人々ように見える。何故なら、彼女は被害者なのだ。被害者を責めるなんて恥ずべき行いだ。彼女の振る舞いも正常の域を出ない。しかし、心に秘めた種が芽吹くように、終盤狂気の華が咲き乱れる。彼女は加害者に転じ、自らを追い詰めてきた者たち(だと、彼女が認識したもの)に報復の刃を向ける。その悲劇を避けるためにシフターフッド的な女性の連帯は全く意味をなさなかった。むしろ、その男性に対する目線こそが引き金になってしまったとも言える。ライリーへ電話した時点で逃げ出していれば、その後の悲劇は起きなかったのだ。
男性が男性を産むシーン。あれは、性別としての女性が産み落とした男性ではなく、ホモソーシャルな社会が産んだ「男性らしさ」こそが彼女の恐怖の対象だった…という暗喩ではないだろうか。それらを始末し、恐怖が取り除かれ、全て手遅れになった後、彼女は夫が求めていたものはただ愛であったのだと知る。自分を脅かす事がなくなったからこその許しにも諦めにも見える表情。もしかしたら、あともうすこしよく見ることが出来たのなら、すべての悲劇は避けられたのかもしれない。そんな印象を抱いた。それが、彼女に降りそそぐ罪の果実だったのではないだろうか。

トンネルを抜け自らに迫りくる男、家に侵入しようとする男、心の繊細な領域に踏み込み土足で自説を押し付ける神父。などなど、性交の暗喩のようなシーンや痛そうなシーンが多くて、ちょっときもちわるくなってしまい見返したくないんだけど、結局のところ殺されたのは誰かってのがとても気になる。ライリーが血の跡を目撃しているから、暴力行為があった事自体は現実であると思う。それがどの範囲なのかというのが疑問だ。ジェフリーは確定だと思うけど、神父とかお面の少年ってどうなんだろ。ジェフリー変なやつで気味が悪いのもわかるけど、殺されていい人じゃないよね。家の周辺見回りしてくれたり、彼女にとってはそれも下心ありの行動に見えてしまったのかもしれないけれど、属性ではなく相手を見ることの重要さ…みたいなのはすごくかんじた。神父は殺ってよし!(ひでえ…)

大切かなって思いついたので追記。
ハーパーの夫はライリーをクソ女とか罵っていたよね。彼は彼で酷い奴ではあるのだけど、ハーパーが自分に向き合わずライリーの言葉ばかりに耳を傾け、女の連帯の中で除け者にされる事に酷く傷ついた事は間違いないと思う。そうして自分に目を向けさせる為の最大の暴力行為に向かったのだと思う。ここでも、ライリーは引き金に加担している。思い返せばライリーはライリーでそこそこ自分勝手な奴だと思う。屋敷の紹介も自は分に都合の良いタイミングに合わせさせ、逃げたいという彼女に自説を押し付ける。そうして「助けに」きたライリーは妊娠している事を鑑賞者は知る。
ちょっと意地悪い見方をすると、自分の言葉でハーパーを思い通りに動かせることに快感を覚えていたとも言えなくない。私は、実際にあった孤独な有名タレントと彼女達から金を搾り取る占い師や霊能力者との関係を重ね合わせて思い出してしまった。連帯に見えていたものは果たしてそうなのか。ある種の女同士の誘導によって(男が男を産んだように)女が女を産んだとも言える。つまり、凶行に及ぶハーパーというモンスターを。女が産むのは生き物として当然だから、言葉に出しにくいことを視覚的に伝えるために男が成人男性を産む…という表現になったのかな。
嫌な言い方をすれば、ライリーはハーパーを横目に男とよろしくやっていたのだ。結局、人というのは一人ひとり違う。そう考えたときに、タイトルの「MEN」という冷たい肌触りに改めて戦慄する。

追記の追記、うーん…でもライリーもあのお腹でハーパーのとこまで来てくれてるからね。臨月に三時間車でぶっぱなすとか、下手したら陣痛起こってもおかしくない。すごいお腹に響くし。監督にそのあたりの知識があったのかわかんないけど、嫌なところもある、思いやりもある、どちらかしかない人なんていないから、決めつけよくないね。そーゆー取り扱い注意!の繊細で微妙なラインを描こうとしてるんだろうな。ちょっと上の追記の見方はミス・マープル的ないじわる視点だったと反省。

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