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工藤 弥生
2017年2月12日 21:34
悪夢でも夢のひとつに変わりなく、黒い歩兵が歩き続ける。街並みはいつも通り口を噤んで、次の密告者とその被害者の影を隠し通そうとしている。彼らが蠢きつづけているうちは、まだ世界は存在するらしい。「あなたは、だあれ?」「あなたは、なあに?」幼子の皮を被った狼が微笑みながら近づいてくる。私の影は私の足を石畳に止めて、その場から離してはくれないのに。目の前が白く眩む。その瞬間を彼らは逃してくれない