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【小説】とあるおウマさんの物語(15話目:GⅡ競争 狙い通りと思いきや)

前回までのあらすじ

理念は「2着こそ至上」。能力はあるけど、上は目指さず気ままに日々を暮らしていた1頭の芦毛の競走馬:タマクロス。

なんだかんだで4連勝し、それと同時に失恋もしてしまう。それでもそこから立ち直り、いよいよ馬生初の重賞へと挑んでいく。


本文

天高く馬肥ゆる秋。
 
まさにその言葉通りの澄んだ青空の中、高い位置に雲がぽつんぽつんと浮かんでいる初秋の天気。
まだまだ気温は高いものの、時折吹いてくる風が気持ちいい。そんな中、俺はパドックと呼ばれる楕円形の広場をたらたらと歩いている。
 
流石に重賞ともなると、パドックという前見世の段階でも観客が大勢いる。一緒に周回している馬たちも、筋肉隆々かつ毛色も艶やかで、みな強そうだ・・・(汗)

(こりゃ、場違いだよね~)

半ば諦め気味の俺は、レース情報が載っている電光掲示板を見上げてみた。
すると、なんと3番人気と割と人気があることに驚く。
 
更に歩いていると、小さな女の子を抱きかかえている一組の親子がおり、その小さな女の子が俺に手を伸ばしながら『タマクロ~~~』なんて応援してくれている(多分)。

そんな可愛い声援に対し俺は、

「ふっふっふ、お嬢さん。俺は芦毛だからタマ『クロ』じゃなく、タマ『シロ』なんだよ。」

と軽くセクハラ発言を試みる。むろん、通じてないけど。
 
(しかし、俺って割と人気あるのね。)

と、素直に思う。こりゃ応援してくれるこの子にいいところを見せるために、張り切っちゃおうかな~と思い、今日のレースを頭の中で組み立てみる。
 
スタート上手に決めて、良い位置取って、最後は流れに任せる。
・・・これだけ。もう終わってしまった・・・。
 
おっと、初心忘るるべからず。目指すは2着。ありえないけど勝ってしまうと次は最高峰のレースG1になってしまう。人もたくさん来るだろうし、そんな所でドベになって恥はかきたくないから。

(・・・きっと、こういうところがジンロ姐さんが言ってたことなんだろうなぁ。)

でもしょうがない、こういう性格はすぐに変われる訳はないのだ。

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なんだかんだで発走時刻となり、ゲート入り。2番という偶数枠を引いた俺は、後からゲート入りし扉が開くのを待つ。鞍上はいつもの通り小坊主だが、何だかいつもと雰囲気が違ってガチガチに緊張しているのが伝わってくる。そういえば重賞初挑戦だったっけ、俺もだけど。
 
「スタートしました!」
 
ゲートが開きレースが始まる。俺は余計な事を考えていたせいか、はたまた小坊主の緊張がうつってしまったのか、少し出遅れてしまった。
慌てて取返しにいくも、さすがはGⅡ。序盤の位置取りですら厳しいものがあり、各馬お互いに譲らない。
 
さらに小坊主も隣の老練な騎手の『どけぇ!』の一喝に怯えたせいか、位置を下げてしまい、中盤後方に取りつく形になってしまった。
 
(こりゃやばいな。ま、でもこんなもんよ。)

と思いつつ、流れが速いレースに身を任せる俺。
しかし、『どけぇ!』はないよね。同じ土俵で勝負してんだから。大体、小坊主も小坊主だ。

言われたら、『うるせぇ、おっさん!』と言い返すとか、放屁をかますなりして勝負根性みせろってんだ!(怒)
 
そんな事を考えて走っていたら、レースはあっという間に終盤へ。最終コーナーで外目に膨らんだ俺は、少しでも前に行こうとスピードを上げていく。
幸いにも、前回のレースで体感した『背中に羽が生えたような状態』は今レースでも効果が持続しており、次々と前の馬を追い抜いていく。
 
「ラスト200mを切りました。先頭は13番のアイムファインに変わった。・・・おおっと、ここで大外から2番のタマクロスが追い込んできたぁ!」

ぐんぐんと先頭に迫っていく俺。

(お、これは抜けるか?)

と感じた瞬間、悪魔がささやいてきた。
 
「おい、いいのか? 勝っちまったら次はG1だぜ? バケモノ住まう世界にようこそだぜ?」

(そうだった! よくぞ気づいた悪魔タマ!)

俺は悪魔に従い、速度を緩めようとする。すると、今度は天使タマがささやいてくる。
 
「何、言ってるの。ここで勝てば重賞ウィナーよ。鈴木厩舎初の重賞ウィナーよ。栄光を掴んで、あんたもバケモノの仲間入りするのよ!」

背中を押しているのかそうでないのか、微妙なもの言いをする天使タマ。
 
とにもかくにも悪魔タマと天使タマが言い争いをするのに合わせ、俺も速度を上げたり下げたりしていたが、流石は重賞参戦の強者。俺が葛藤しながらも迫ってくるや、先頭の馬は更に速度を上げ、そのままゴール板を駆け抜けていった。
 
結果、鈴木厩舎初の殿堂入りは逃し、惜しくも2着となったが俺は大満足。るんるん気分で『2』と書かれた区画に向かっていく。鞍上の小坊主はさぞかしがっかりだろうなぁ、と思ったら意外に喜色満面の大喜び! 

俺から降りた後も、オーナーの鈴木のおっさんや調教師とハグしたり、背中を叩かれて喜んでいる。その様子をみた俺は、そうか! ついに俺の理念『2着こそ至上』が通じたのかと一人勘違いしていた。

普段着に着替え、ふんふ~~んと鼻歌交じりに馬房に向かっていくと、ジンロ姐さんとマックが興奮した様子で駆け寄ってきた。
 
「やったじゃない、タマ! これで、次はいよいよGⅠね!」

「おめでとうでござる、タマジロウ殿! 某も同期として鼻が高いのでござる!」

二人してお祝いの言葉を言うもんだから、俺は「へ?」となってしまった。
 
「何言ってんですか姐さん、それにマック。2着ですよ? GⅠの訳ないじゃないですかぁ。」

それに対し、ジンロ姐さんが衝撃の一言を放つ。

「何言ってんのはタマの方でしょう! あのレースは2着までにGⅠの優先出走権が与えられるのよ!」
 
(・・・はい? ゆうせんしゅっそうけん? なにそれ? どっかのマンガに出てくる必殺技のなまえ?)

思考が停止してしまう俺。

「ちょ、ちょっと大丈夫、タマ?」

「喜びのあまり、声が出ないようでござるな。まぁ、無理もないでござる。」

心配そうに覗き込むジンロ姐さんと、勘違いするマック。
 
(2着まで出られる、次はGⅠ、バケモノの住まう世界・・・)

認めたくない言葉が頭の中で渦巻いている。

(なんで、なんでこうなるんだろう。)

ぐるぐると色んな事を思い浮かべながら、俺の意識は遠のいていくのだった。
 
5連勝は逃すも見事GⅠ出走権獲得!
タマクロス 芦毛 5歳 17戦6勝 内2着8回

つづく

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