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「早期退職時代のサバイバル術」~都市史からの居場所も考えられる良書~

今回読んだ本は小林祐児氏の「早期退職時代のサバイバル術」です。小林さんは最近書店でよく見かける「罰ゲーム化する管理職」の著者の方です。

この書籍、「早期退職」と聞いて、FIREや老後のマネープランの本なのかなと勝手に想像していたのですが(私だけ?)雇用制度、賃金制度について書かれた本でした。

働かない問題~WIndows2000~

本書のメインは「働かないおじさん」問題です。窓際で年収2000万という「Windows2000」というワードは今でも頻繁に聞きますが、その背景にある制度などについて、本noteでは取り上げてみます(余談:「Windows2000」は10年以上前から聞きますが、最初にこのワードを考えた方は天才だなと改めて…)。

「キャリア自律」はや20年

最近、ことあるたびに「キャリア自律」と謳われていますが、今に始まったものではないそうです。
その中ではしりとされて紹介されているのが「エンプロイアビリティ」です。言葉の通り「雇用される能力」を指しています。
自身でも調べてみたところ、厚生労働省が2001年に「エンプロイアビリティの判断基準等に関する調査研究報告書について」をまとめています。

実に20年の歴史です。1997年、山一証券が自主廃業し、終身雇用が崩れだし、自らも守られるだけではなく雇われる能力を磨いていくべき、という考えに舵を切ったということなのでしょう。
人事はトレンドワードが多い世界ですが、キャリア自律もまた、「歴史は繰り返す」が如く言葉を変えて提唱されているものなんですね。

都市、住宅がもたらす「居場所」と4つの「分離」

もう一つ、個人的に興味深かったものが、居場所についての記述です。
「帰らない」も働かないおじさんの問題です。働かないのに、帰らない。矛盾したかのような言葉ですが、帰らないことは「居場所のなさ」があります。
ここでの居場所のなさは、心理的というよりは空間的なものです。その居場所のなさは様々な「分離」によって進められてきました。
まず、日本では1910年頃から主に大都市圏において、鉄道会社が形成化した郊外化により、働く場所と住む場所の分離、すなわち「職住分離」が進んでいきます。
働く場所が分かれることで、男性は日中家にいなくなります。そうすると自然に「家庭は女性」「職場は男性」という分離が進んでいきます。男性は一家の大黒柱として、妻の分まで残業してでも働く。一家における労働の集中が「残業分離」となります。
また、郊外化された家は、居室の変化ももたらします。元来の家については寝る場所と食事をする場所は一体になっていました。寝るときには布団を広げる。食事の時は布団をしまい、ちゃぶ台(巨人の星の星一徹でおなじみ)を出す、というスタイルです。ところが西洋化により、ベッドが入ることで動かしづらくなることから別々の空間となっていく。「寝食分離」です。
そして、子供が大きくなったら子供に個室を与えるようになり、親とは別々に寝るようになる。これが「就寝分離」です。

住宅の55年体制~そして居場所がなくなった~

とりわけ、寝食分離と就寝分離を推し進めたのが「住宅の55年体制」(初めて聞きました)と言われる「郊外のマイホーム」「公団住宅」「公営住宅」です。これらの住宅においては「リビング・ダイニングキッチン」(LDK)が備わり、その標準モデルが「(家族人数-1)LDK」となりました。「家族人数-1」の「-1」とは実質的に父親を指しています。こうして住宅という空間で父親の居場所がなくなっていったわけです。

テレワークでの居場所はどこ?

ところが時代は流れ令和を迎え、コロナ禍、テレワークの浸透により、この「-1」スタイルによる問題が浮き彫りになりました。感染対策も相まって、長年続けられてきた「職住分離」ができなくなったとき、「-1」の空間下で父親はどこで仕事をするのでしょうか。リビングやダイニングは仕事に不向き、寝室もベッドに占領、という状況です。本書では旭化成ホームズ社の調査結果として「共有個室で仕事をする機会が多い」が取り上げられていますが、快適性という意味では今一つになってしまっています。

おわりに

タイトルには入りきらない内容も詰め込まれており(もったいない!)、特に働く居場所(心理的にも、空間的にも)の勉強にもなる良書です。パーソル総研の方らしく、データや参考文献も豊富です。とりわけ居場所については本書内で引用されている「住まいと仕事の地理学」(中澤高志氏著)など次に読んでみたいなと感じました。では。


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