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修士論文の「はじめに」に書いたことを載せてみる。(注:書いたのは2000年代)

富野由悠季氏(以下富野)原作の作品、『機動戦士ガンダム』が最初に放映されたのは 1979 年 4 月 7 日。それから現在に至るまで、『ガンダム』という物語は新たな作品を生み出しな がら、今もなおその存在を示し続けている。なぜ『ガンダム』という物語は、今もなおそ の存在を示し続けることができるのだろうか。 『ガンダム』の魅力について語られたものは様々なものが存在している。けれど、それら の多くは一つのベクトルから語られているものがほとんどであり、より統合的な視点で語 られているものは少ない。さらには、純粋に研究としての学術論文に目を向けてみると、 私が調査をした限りでは全くと言っていいほど、『ガンダム』に関する学術論文は存在して いない。

昨今では、京都精華大学のマンガ学部の設置、大学などの教育機関でもアニメを学問として取り上げるようになり、『機動戦士ガンダム』に関する講義も「ガンダム創出学」と題 したものが、金沢工業大学にて二年にわたって行われるなど、アニメの学問としての需要 が高まっているといえる。
そのような中で、2009 年には誕生から 30 年を迎える『ガンダム』だが、未だにその存 在感が衰える気配はなく、むしろ存在感が増しているといえるのではないだろうか。

今回、論証するにあたっては、以下に挙げる三点の作業仮説を設定し、論証するものとする。

1.物語構造として、全てのガンダム作品は最後には∀ガンダムに帰結するという同一時 系列上に存在している。それゆえにガンダム作品世界の共通となる世界観、設定を除けば、 時代状況や要求に応じて、半永久的に様々な種類の物語を創り続けることが可能になる。 そして、映画や小説、OVA などのクロスメディアの手法で、今までのガンダム世界を補完、 またはリフレインさせ、ガンダムの世界観をより深化させることが出来る。つまり、『機動 戦士ガンダム』シリーズの物語構造は、全体から鳥瞰したとき、拡大と再生産を繰り返しているということが出来る。

2.映画や、小説、OVA1などのクロスメディアの手法と並んで『機動戦士ガンダム』シリ ーズにとって大きいのが、『ガンプラ』(ガンダムのプラモデル)である。二次元的な作品世界を、現実世界である三次元に持ち込むことによって、受容者自身が『ガンプラ』を使い、ガンダム世界を再現、または自分だけのガンダム世界を作り出すことが可能になり、 それが受容者の普遍的な所有欲求を刺激し、より一層ガンダムを身近な存在として定着させることが出来た。それは単に、主人公のガンダムが人気だったから、というだけではなく、その他のキャラクターの『ガンプラ』のバリエーションの多さとそれに対する人気も要因になっている。また、『ガンプラ』も『機動戦士ガンダム』シリーズ作品が新しく制作されるたびに新しい『ガンプラ』が制作され、製造技術が上がるたびに再生産されることから、ここでも拡大と再生産が行われているといえる。さらに長年続くことによって、世代間における消費も喚起され、より安定した構造を作り出す。

3.ガンダム登場以前、一般的なヒーロー像といえば、人格的にも行動的にも優れている 人物という描かれ方が一般的だった。しかし、『機動戦士ガンダム』で登場する主人公は、 未成年であり、全くそれまでの正反対と言ってもいいほど、人格的にも行動的にも優れていないアンチヒーロー的なキャラクターといえる。その主人公が、戦争という過酷な状況 の物語の中で、様々な困難を乗り越え、周囲の人間とともに社会的、また人間的に成長し ていくことで、受容者は普遍的な欲求を刺激される。いわゆるスーパーマン的な主人公で はなく、現実にどこにでもいそうなキャラクターが主人公であることが、相似性また、近隣性をもたらす。さらには、主人公の周りにいる同じように成長しきれていないサブキャラクターが、主人公とともに成長していく様子や、主人公とは対照的な魅力的なキャラク ターを敵や味方として登場させることで、受容者自身が、より物語に感情を投影しやすくなり、最終的には物語を通して、受容者の普遍的な成長欲求が充足されることになる。
以上の三点を統合的に検証していくことによって、なぜ『ガンダム』が今日までのアニメにおける象徴的な存在になりえたのかを解明していく。

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