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【ミステリという勿れ】陸太さんの気持ち

毎週月曜日9時から放送しているドラマ「ミステリと言う勿れ」
原作の漫画から大好きで、ドラマも見ている。

価値観に一石を投じてくれて、見る人によって感じ方がそれぞれ違うのではないかと感じるストーリーが盛りだくさんで、毎回楽しみに見ている。
2月14日(月)と2月21日(月)放送の第六。七話で、登場したサングラスをかけた青年、陸太(ろくた)さん。

【以下、ネタバレ。お気をつけください。】

香音人さんを刺した時の、陸太さんの気持ちが、「わかる」と強く感じた。
たぶん瞬時に、「捨てられる」「要らなくなったんだ」と感じたんだろうな、と思う。
わたしなりの解釈で、陸太さんの気持ちを想像してみる。

要る人間、要らない人間という発想

親を燃やす目的を持った“炎のマーク”を壁に書くか、書かないかを決めた時点で、陸太さんは、自分の親を「要らない」と考える選択肢を持ったのだろう。
整くんが、「陸太さんに、決めさせたんですか?」と引っかかっていたのは、子どもに殺していい存在を選ばせたことを言っていたのかもしれない。
陸太さんは、香音人さんとの出会いをきっかけに、自分の親を燃やして捨てるという概念を持った。
自分の親を「要らない」と判断させられて、自分を選ぶ側と錯覚していた。
要る人間と、要らない人間を決められるなら、自分もそうされる可能性があるということだ。
特に、じぶんと血の繋がった親を「要らない人間」と定義するのは、どうしても自分の存在への解釈に影を落とすと思う。
距離を取るために自分とは価値観の違う人と定義づけるのは、必要な時もある。
でも、存在自体を否定すると、「自分もその血を継いでいる」と思って辛い。
その葛藤を抱えて、考えるうちに、自分も要らない人間だと思えてくるかもしれない。
陸太さんは、小さな頃から、お兄ちゃんに比べて要らない子と言われ続けていたみたいだし、自分を否定するのに理由はいくらでも見つけられただろう。

大好きな人が見えなくなる

家族を失って、ひとりになって、香音人さんを異様なくらいに慕っていた陸太さん。
助けてくれた人だからと純粋に慕う気持ちもあったかもしれないけど、陸太さんにとって香音人さんは拠り所だったんだと思う。
相手を拠り所とすることに意味があって、相手を尊敬する気持ちは二の次になってしまう時ってある。そうなると、どうしてこの人じゃないといけないか分からなくなる。
唯一の拠り所の香音人さんには、ずっと拠り所になってもらわないと不安だっただろうな。そこに、香音人さんが幸せかどうか、という視点はあったのかな。
陸太さんは、見捨てられる不安が一番先に立っていたように見えた。
きっと誰よりも、陸太さん自身が自分に「要らない人間だ」と言い続けてきたと思う。虐待されなくなっても、考え方はずっと残るから。

捨てられる恐怖

そんな陸太さんが、苦痛を引き起こす赤いものを買って、二人の家に持ち込んだ香音人さんを見た時、どれだけ怖かっただろうか。
一番に湧いた感情は、「捨てられる!」という恐怖だったんだろう。

アップルパイを作ろうとしたことから、香音人さんは、香音人さんのやり方で、陸太さんを大切にしてきたと分かった。香音人さんが「ろくちゃん」と呼ぶ声は、優しかった。ふたりの生活には、優しい時間もあったはずだ。
それでも、その優しさが思い出せないくらいに、不安は強かったんだろう。
自分の不安や安心を通してしか、香音人さんが見えなくなっていたのかもしれない。
香音人さんがどうしてリンゴを買ってきたのか、陸太さんに苦痛を与えるために赤いものを買ってくる人なのか、冷静に見ればわかったはずだと思う。でも、冷静になるより先に恐怖が勝ってしまうのが、人の存在に「要らない」「捨てられる」概念を持っているからこその、悲しみなんだろう。やるせない。悲しい。

「要らない子」無言のメッセージ

暴力、暴言、否定、放置、条件付きの承認。
形や程度は違っても、家庭の中で「要らない子ども」と無言のメッセージを感じ取って育つ人はきっとたくさんいる。
そんな家庭の外で、表面的でない人間関係を築くとき、「自分なんて要らない人間だ」と思う気持ちが邪魔をする。
陸太さんのように、不安と恐怖から直接危害を加えてしまう場合もある。そうでなくても、自分なんて相応しくないと関係を切ってしまったり、相手を信じられなくて疑い続けて壊してしまったりもする。
人間関係が築ければ、救われるところもあるはずなのに、それすら上手くできない。

「おまえは要らない人間だ」と、価値観をぶつけてくる相手から離れても、小さい時に身につけた考え方のパターンは、意識して訓練しないと変えにくい。

人間関係を築く方法の前に、自己概念や自己理解、認知などほかの方向からのアプローチで「要らない人間だ」という気持ちを薄めていくしかないのかな、と思う。

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