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短歌・随筆「立川」

「立川」

その瞬間ノイズキャンセルを突き破る托鉢僧の鐘に振り向く

駐車場しか使ったことない病院 君しか見えてなかった車内

全員が俺を社会に連れ戻すためにスーツを着て歩いてる

いつの日かあの子を撮った歩道橋 そこに唾吐く老人が今

創作がすべてだこんな汚らしい街の手元でそう叫ぶ本

精神と身体はたまにすれ違いもつれる脚のようだな おっと

涙なしでは持たせてももらえないのか愛ってやつはやけに重いし

雨降りで楽譜となった背もたれにあなたの残した旋律を見た


立川。それは誰にとっても遠い街。

立川周辺に住んでる人もいるんだから、そんな訳がないのはわかってる。
むしろ、僕にとっては昔から、そんなにアクセスも悪くない場所だった。
でも、誰かに立川の話をしても反応は大体決まっていた。
「中央線の果てでしょう」「吉祥寺より奥はみんな山だ」
そうやって一蹴されてきた僕にとっての立川は、誰にとっても遠い街。

「誰にとっても」と言ったのは、他ならぬ僕もそう思っていたからだ。
決して物理的には遠くないけれど、わざわざ行く理由もない。雑多でいかがわしい街。まさに「何でもあるけど何にもない」だった。

そんな立川にもいくつか思い出がある。バンドでライブしにいったこともあるし、昭和記念公園なんかは高校1年の遠足でも行った。デートで行ったこともあるし、IKEAなんかには折々で家具を買いにいったりしていた。
ただ、そのどれもが素直に「楽しかった」と一言でまとめられるようなものでもなかった。それに、立川に降り立つたびにどうしても、雑多な喧騒やいかがわしい汚れた街並みにその思い出を上書きされるような、どうしようもない嫌悪感を感じてしまう。
立川が好きな人には申し訳ないが、僕にとっては心の距離もなんとなく遠い街なのだ。

バランスを取るために、立川の好きなところもあげておく。
まず一つ目は、「立川まんがぱーく」。市営の漫画喫茶のような施設で、床は畳張り。個人スペースも蔵書も多く、一日中いても大人400円と破格の安さ。大体立川の話をするときは、この施設のレコメンドである。
つい先日久々に訪れたまんがぱーくは、雨の降る平日だったこともあり閑散としており(それにしてもしっかり人は来ていたが)とても快適だった。平日に行ける場所の近い人、となるとやっぱり限られてしまうけど、都合さえつけば絶対に行ってみて欲しい場所だ。

もう一つ、立川はバンド赤い公園のホームでもある。赤い公園は自分にとって特別なバンドの一つ。やっぱり、好きなバンドが過ごしていた街というのは特別に思ってしまう。だからといって何がどうということもないけれど、この景色をみていたのかな、と思いながら歩いたりする。

結局、そこそこに思い出も、好きも嫌いもしっかりあって、確かに自分の過ごした街。きっとこれからも「ちょっと遠いけど」と人に話し、「なんだか遠いなあ」と思いながら通りすがるんだと思う。そういう街がもっと増えればいい。


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