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美術館が好きな私のセブンルール

私は美術館によく行く。土曜日に行くことが多い。展示会の込み具合や期間次第で、美術館に行くためだけに有休を取ることもある。なぜ私は美術館に行くのか。先日、じっくり向き合う機会をいただいた。インタビューを受けたのだ。心理学の研究をしているのだとか。言語化してなんだかすっきりした。どこかに残しておきたくなった。だから今日ここに書く。

美術館に行く私のセブンルール


なぜ美術館に行くのですか。そう聞かれて、私はすぐに答えられなかった。そんなとき、聞き上手なインタビューアーさんは角度を変えた。では先に、美術館に行くこだわりはありますか?あれば教えてください、と。それなら、ある。

1.展示会の感想は無理に言語化しない。作品を見て感じたものを大事にしたいからだ。言語化したら、自分の語彙の範囲に収めるしかない。でも、作品を見てなにか感情を得たけれど、それを表す言葉が分からないときが多い。無理に言葉をひねり出しても、なんかちがう。なんかちがうのに、その言葉は記憶に強く残ってしまう。でも残したいのは作品の記憶なのだ。だから、言語化をやめた。ふわふわした気持ちや空気感そのままを胸にしまっておく。人に感想を伝える際も、良かったとか素晴らしかったとか、抽象的なポジティブワードでごまかしておく。

2.ひとりで行く。自分のペースで進みたいから。素敵な作品の前でしばらくじっとしていたいときがある。逆走してさっき見た作品をもう一度確認したいときもある。そんな自分の”こうしたい”に私は従いたい。以前静岡市美術館のピーターラビット展に、当時の彼氏と友人と出掛けた。そのとき彼らは私と異なるペースだった。彼らが早くて、私は遅い。誰かを待たせてまで自分のペースを守る勇気は、私にはない。だから私は、それ以降いつもひとりで行く。

3.まず先に絵を見る、後からタイトルを見る。作品をじっくり見て、こんなことを表現しているのかなと考察する。自分の考察に満足してはじめて、タイトルを確認する。まず誰かの導きなしに作品と私だけが向き合って、自分自身の力やセンスだけを頼りになにかを感じ取りたいのだ。だから、私はまず作品を見る。無題だったときの裏切られた感も悪くない。

4.解説はできるだけ見ない、聞かない。作品をじっくり見て、感じ取りたいからだ。以前シャネル展に行った。三菱一号美術館は混雑していて、長い行列状態のまま順路を進んだ。見づらかった。そのとき私は、解説を読み切ることに必死にだった。結果、シャネルへの理解は進んだ。でも作品に対する印象が自分に残っていないのだ。そんな自分が嫌だった。私はまず作品と向き合いたいのだ。そしてどうしても欲しいときだけ、解説を見るようにしている。作品ファーストにしたら、素敵な作品がいくつも記憶に残るようになった。そのときの自分の感情や気づきと共に。

5.映えた写真を撮ろうとしない。以前はインスタで美術館アカウントなるものを運用していた。当時の私は映えた写真を取るのに必死で、レンズ越しの見た目ばかり気にしてしていた。展示会を選ぶ際も、写真撮影の可否をまず確認していた。そんな自分が嫌だった。作品と私が向き合いたいのだ。そのあいだに、スマホは要らない。どうしてもメモ的に残しておきたい時だけ、パシャっとさっと撮る。1作品1枚以下だ。

6.1日1展示会だけ。どんなに時間があっても、1展示会だけ。だって、複数の展示会をはしごする体力が私にはないから。足が疲れちゃう。疲れると頭もぼーっとして、作品からのインプット量が減ってしまう気がする。それがもったいないから、1日1展示会だけにした。ひとつの展示会で、それぞれの作品とじっくり大切に向き合う。

7.最後に復習をする。出口のサインが見えたら、逆走させていただく。戻ると、ああこの作品の前でこんなことを感じたな、と復習できる。復習すると、感情記憶が定着する。大切に自分にしまいこむことができる。混雑しすぎた展示会ではそれが難しい。だから事前にリサーチして、有休を取って平日の午前に行ったりする。逆走、おすすめだ。幸いなことに、今のところ怒られたことはない。

私が美術館に行く理由


自分の7つのこだわりを口にしてみたら、ひとつの共通点が見えてきた。私にとって”自分が作品から感じ取ること”が一番大切なのだ。それが最優先。

”感じ取る”には2種類ある気がしている。ひとつは、作品について。この作品はこんなシーンかな、作家はこんな感情だったのでは。肖像画にはこんな役割があるんだな。この作品とあの作品はこんな共通点があるかもしれない、など。

ふたつめは、自分について。あ、私これ好きだ、私ってこんな色が好きなんだな。私は前はこんなテイストが好きだったけど、最近こっち系にも興味が出てきたな。絵を飾るってこういう意味があるのかもしれない。今日の私やばいな、全然作品に集中できない、頭の中は上司のあの言葉がぐるぐる、気にしているんな。この作品病んでる風だけど、私の今の心はこんなにヤバくない、まだ大丈夫だ。など。”感じ取る”というより、”気づく”に近いのかもしれない。

新しい感情を得たり、新しくなにかが分かったり。それは、自分が一歩前に進めている感覚をもたらす。少し成長できているような。そして、そんな自分が私は好きだ。だからつまり、私は美術館での自分が好きなのだ。美術館に行く理由を一言で表現するなら、これだ。

私は美術館での自分が好き、だから美術館へ行く。


Raoul Duffy展。この作品から気づいたことをあとで手帳に書き写したかったから、とりあえずでメモ目的でさっと撮影した。上海の西岸美術館にて。




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