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口の悪さに救われることも、あるもんだ

来年度より新しい生活を始めるべく、しれっと就職活動をしている。

と言っても、受けているのは1社だけ。

ここに落ちたら、これまで通り”博士課程の学生”として学位取得を目指す(あと2年はかかると思っている)。
受かったら、”社会人大学院生”として、働きながらそのまま博士課程に在籍し続け、学位取得を目指す。

会社勤めの方が途中から大学院に入学するケースは多くあれど、博士課程在籍中の学生が途中から企業に就職して、大学院も続けるケースは、たぶん稀だ。

いま、私は博士課程3年目。”単位取得退学”をして、博士卒として就職活動を行うこともできる。
でも、分野的に論文博士(あとで論文を書いて学位を取得すること)はあまりいない。そのため、課程博士(博士課程に在籍し続けて、学位を取ること)を目指すべく、2年前に取った修士の学位を使って、就職活動をしている。

そんなことをしようと思ったのは、金銭的な安定が欲しいと思ったのが一点。もう一点は、”実務の視点”というものも理解して、アカデミックと実務の双方を知る人材になりたいと思ったから。(受かったら、このあたり詳しく書きたいなあと思う。受かったらね。)

いま受けている企業は、私の関心ごとに非常に関連していて、勉強になること間違いなし。いろいろ大変なことはもちろんあるだろうけど、いい経験になるよと、周りの先生方も賛成してくれている。

が、それだけすごい企業ということは、それだけ優秀な人たちがたくさん受けるということ。
私より2、3年年齢が若くて、優秀な人たちがたくさんいる。私の場合、博士課程在籍って言ったって、”頭の優秀さ”では正直すんごい劣ると思っている。興味が自分の専門領域に偏りすぎているな、とも思う。

落ちたって、またいまの生活が続くだけだから、”本当に就活している人”とは比べ物にならないくらい、気楽な身分じゃないかとも思う。
でも、それでも、その企業に行きたい気持ちが大きくあるから、「落ちたら嫌だ」の不安や、どこから湧いてくるのかわからないプレッシャーが、ある。

そんな張り詰めた気持ちを和らげたのは、非常に口の悪い先生だった。

若くて、年の近い男の先生。すごく親身になって学生の研究相談に乗ってくれるけれど、”親身”という言葉からは想像できないような、口調の強さと荒さが特徴の先生だ(失礼)。

この先生は、以前も「うるせえ、とっとと仕事しろ」という言葉で、私に喝を入れてくれた。

「落ち込んで考え込むのが一番時間の無駄だから。ごたごた言ってないで、『うるせえ、とっとと仕事しろ』だよ」

以来、どんよりな気分のときは「うるせえ、とっとと仕事しろ」と自分に向かって喝を入れている。気分を切り替えさせてくれる、魔法の言葉だ。

そんな口が悪いけどいい先生に、スカイプをかけた。

「就活して、受かったら来年度から社会人やりながら、学位取得を目指そうと思うんです」
そう伝えると、あっさりと「ああ、いいんじゃない」と返ってきた。
「いい経験になると思う。業務内容とも関わるような論文書けたらいいね」

「でも、受かるかわからないので」
自信なさげに言うと、「そりゃ、そうでしょ」と先生は続けた。

「そりゃ、そうでしょ。偉い人に向かって、『うるせえこのハゲ○ね』とか言ったら落ちるでしょ

「そりゃそうですよ!!そんなこと言いませんよ!!!」と言いながら、笑ってしまった。

すっと肩の力が抜けた。なんだろう、ちょっと安心した。

どこか心の中に、「博士課程生だから受からなきゃ」とか、「先生方も応援してくれているから受からなきゃ」とか、そういう変な気持ちがあったのだ。
それをあの口の悪い先生は、笑い飛ばしてくれた気がする。(もちろん本人にそんな気は全くなかったと思う)

「偉い人に『うるせえこのハゲ○ね』って言ったら落ちるでしょ」
この言葉は、私には「博士だろうとなんだろうと、落ちることはあり得るでしょ」と聞こえて、”ああ、まあ、そりゃそうだよね”とプレッシャーから解放してくれたように思う。

変に「大丈夫だよ」と言われるよりも、よっぽど心が楽になった。

まだエントリーシートの結果も来ていない。昨今の状況で、いろいろと遅れているようだ。ドキドキだけど、落ちるかもしれないけど、でもできることをやるだけだね。

それにしても、あの先生のこの返しは、ほんと変だ。

普通はさ、「大丈夫だよ」とか「落ちるかもだけど、そのときはそのときだよ」とか「まあとにかく頑張ってみなよ」とかじゃない?
なんなの、「偉い人に『うるせえこのハゲ○ね』って言ったら落ちる」って。

私には到底思いつかない返しだ、と思いながら、その口の悪さに心の中で感謝するのだった。


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