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祭りとラムネと静かな構内

どこかで聞き覚えのある曲が響く中、神輿を担ぐ声と笛の音が聞こえる。小さな街が人でごった返している。家を出てすぐに街のにぎやかさを目の当たりにして、そうかもうこんな季節か、と思う。

毎年この時期に開かれるこの街のお祭り。駅からまっすぐにずっと伸びる大通りを歩行者天国にして、神輿を担いだり、花笠音頭やよさこいを踊ったりしている。その大通り沿いには屋台や街の店の出店が並び、食べ物から本、古着、雑貨、文具、挙句には窓や便座、システムキッチンまで、なんでも売っている。

数年前までは、私の通う大学も、この祭りと全く同じ日程で学園祭を行っていた。この大学は、お祭りの中心である大通りに面しているから、本当にこの街まるごとお祭り気分になっていた。小さな街だけれど歩き回れば結構な距離になるため、あちこち出店をめぐったり学園祭をのぞくうちにへとへとになったことをよく覚えている。それでももちろん楽しくて、息抜きになったものだった。

2、3年前から大学のスケジュールが変わってしまって、学園祭の時期がずれてしまった。しかも今日は”祝日授業日”だ。なんなら学部生はテスト期間ですらある。

試験期間でいつもよりピリピリしている学生が多い中、街は毎年恒例のお祭り気分に浸っている。大学は学生や教職員以外を立入禁止にし、門のところにいつもはいない警備員を置いて見張りをしている。だから、すぐ目の前の大通りは人でごった返して喧騒につつまれているのに、大学構内はいつも通り静かで、授業の合間以外人はまばらだ。
その温度差が、少し奇妙で、面白く、でも正直学生側にとってみれば、ちょっと迷惑ではあった。(人混みで駅からなかなか移動ができなかったり、騒音でテストに集中できないなどの問題がでている)

博士課程で授業がゼミくらいしかなく、目立った実害のない私は、ゼミの後、のんきに友人と屋台を回った。なぜかこの街の屋台の焼きそばは、どこも容器から大きくはみ出すくらい大盛りで食べきれないので、友人と分け合って食べた。100円で袋に詰め放題だった古本(!)を買い、「祭りといえばこれでしょ」とラムネを買い、いつもは歩けない大通りの車道の真ん中を闊歩して、大学へとまた戻ってきた。

大学はやっぱり静かで、祭りの気配などかけらもない。その静けさに安心する一方で、ふいに、そとの喧騒から取り残されているように感じて、ちょっと寂しく思う。手に持つラムネだけが、そとの祭りの空気をまとっていた。友人と別れ、一人研究室に入り、ぽこんと蓋を押して、ラムネの栓を開ける。しゅわあ〜〜と炭酸がはじける、いい音がする。ごくごくっと飲んで、机の上に置く。文具や本、論文で散らかっている机の上で、ラムネは少し場違いに陽気に見える。

あーあ、やっぱり学園祭も一緒にやらないとだめだよ。なんて思いながら、勢いよくラムネを飲み干して机の下に置き、ゼミで受けた指摘について考え始めた。

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