”研究のはじめ方”の手引き(4):自分の興味を具体化して絞っていく
新大学院生にむけて、博士課程3年目の私が「もっとはやく気づいていればよかったー!!!」なことのなかから、”研究”にまつわる初歩的な重要事項を記す連載です。
初回では「研究とは何か」ということを、2回目では「サーベイとは何か」ということを書きました。
今回は、前回説明した「サーベイがうまくできないとき」の2つ目の理由について記します。
【補足(毎回共通)】私の研究分野は経済学ですが、それ以外の分野も、細かいところは違っても大枠の捉え方は同じなんじゃないかなあ、と思っています。(違ったら、コメントしてくださいませ。)
また、記事全体での”大学院”や”大学院生”という記述は、法科大学院やアカウンティングスクール、MBAなどの”専門職大学院”をのぞきます。
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前回のポイント:論文を読む際は、「問い・問いの背景・方法・結果」を理解する
・サーベイとは(2回目の記事):これまで先人たちがやってきた研究(先行研究)を把握して整理すること。
・サーベイがなんだかうまくいかない理由①:先行研究同士の細かなGap・差異に囚われすぎている。
・”木を見て森を見ず”にならないために:先行研究の「問い・問いの背景・方法・結果」をまず理解する。
・この4つを把握した後は:その論文にツッコんで見たり、その論文の研究の先についても想像してみる。
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「サーベイのやり方がわかっても、なんだかうまくできない」考えられる2つ目の理由
前回の記事で、サーベイのやり方(論文の検索の方法など)がわかっても、うまくできない理由として考えられるものを3つ挙げました。
1. 先行研究同士の細かなGap・差異に囚われすぎている。
2. 新しい何かを発見すべく立てた”問い”の範囲が広すぎる&十分に具体化されていない。
3. 「なんか、私が思った疑問や知りたいことって、もう全部やられてね?」と思ってしまう。
今回は2つ目の、「新しい何かを発見すべく立てた”問い”の範囲が広すぎる&十分に具体化されていない」について記します。
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”テーマ”から”問い”へ、具体化を進めよう
大学院に来る人は、必ず、何かしらの”気になること”を持っていると思います。「絶対に知りたい!!!明らかにしたい!!!」から、「興味あるなあ、知りたいなあ」まで、人によって度合いは様々ですが、何かしらの”気になること”があるから、大学院に来たのだと思います。
「不況の影響を少なくするにはどうしたらいいのかなあ」
私の場合は、これでした。途方もなく、大きな話でしょう?
こんなような、「〜〜について知りたい」だったり、「〜〜について興味がある」という大きな話は、”テーマ”といえるでしょう。
それこそ、人生をかけて知りたいようなこんな大きな話は、それだけ切り口も分析方法もモノの見方も、多岐に渡ります。関連する論文や本は、下手したら何万冊となってしまう。少し大きな本屋さんや図書館に行ったら、”不況”や”危機”に関する本なんて、ごまんとあります。
目的が”本を読んで知識を得る”だけであったら、仕事の合間などに興味のままに数々の本を読んでいけばいいのでしょう。でも、大学院に来ると、一応の”成果”を期限内に仕上げないといけません。(その成果は、修士課程の学生であれば、修士論文かなと思います。)
初回の記事「研究って、なーに?」で書いた通り、研究とは「誰も答えのわからない問いを明らかにする行為」。だから、新しいことをほんの少しでも言わないといけない。
しかも、所定の期限内に。本を興味のままに読む時間は、意外とない。(※)
だから、”大きなテーマ”から”小さなテーマ”、”さらに小さなテーマ”、と、まずは論文を書くための興味の範囲を絞っていって、今回自分がやる研究で明らかにする”問い”のレベルにまで絞っていく必要があると思います。サーベイ をするときは、そのイメージを頭の片隅に置いておくといいかなあって思います。
”絞る”の言葉に抵抗があるようであれば、”具体化する”のイメージを持ってみてください。
「不況の影響を少なくするにはどうしたらいいのか」という壮大なテーマから、考える物事を具体的にしていくのです。
「不況時に最適な政策はどんなもの?」
「そもそも不況の影響ってどんなものがどれくらいあるの?」
「どうして不況ってものが起こるの?」
などなど、数多ある具体化案のなかから、自分の興味に従って選んで、その先でまたさらに具体化を進める。最終的に、自分の研究で明らかにする”問い”にまで具体化を進めていく。そんなイメージがサーベイの際は必要なのかなあと思っています。
(※)もちろん、興味のままに本を読む時間は、余暇としても、今後の研究のためにも大切です。が、すべての時間をそう使っていて、それで論文が書けるかと言うと、”問い”を見つける姿勢が備わっていなければ、難しいのではと思っています。その姿勢を、大学院入学時に当たり前に(先天的なレベルで)持っている人と、持っていない人がいます。(私は後者でした)
持っていない人が大学院に来て、”答えを教えてくれる”ことを期待して本ばかり読んで、どれだけ知識をたくわえられたとしても、いい論文を書くことは難しい。
「研究の視野を広げるために、たくさんの本を読む」は、”ただ本を読んで知識を仕入れて満足する姿勢”から、”問いをたてるということへの意識を持つ”・”仕入れた知識を自分のものとして、応用して使う”といった姿勢に変わるまでは、遠回りかなと個人的経験から思います。
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具体化するには、知識が必要
「関連する論文がたくさんありすぎて、どれから読めばいいのかわからない」
もしそんな悩みにぶち当たったのなら、前述した”具体化”が足りないということになります。
でも、この”具体化”の難しいところは、「ある程度の知識がなければ具体化も何もできない」。
私の例です。
「不況の影響を少なくするにはどうしたらいいのかなあ」のぼんやりとした壮大なテーマから、「危機を予測できたらいいなあ」ということに興味の対象を絞りました。(学部4年くらいだったかな)
予測できたら、何かしらの手段でもって回避できる。そんな思いからです。
次の具体化はこれでした。「そもそも平常時の経済を、どれだけ理論で正しく説明できてるんだろう」。得てして危機は”想定外”なので、予測は難しい。そもそも、”いつもの状態”をどれだけ理論で説明できているんだろう。”いつもの状態”を説明できなければ、予測も何もないよね、な気持ちからでした。(のちに、そうとも限らないなと学ぶこととなります)
これでもちっとも具体化されていないと(少なくとも経済学をやっている人間は)思いますが、この水準の具体化に至るまでにも、結構な”知識”を使いました。
・分析には実証分析と理論分析と、(私の分野では)応用理論といって、実際のデータを説明するために理論モデルをたてるというものがあること。
・理論モデルを立てて、政策のシミュレーションを行うことができること。
・短〜中期の経済情勢のことはビジネス・サイクル(景気循環)といって、そのビジネス・サイクルのデータが持つ様々な性質や特徴、理論との矛盾を説明しようとしている人たちがいること。などなど
本当に些細で、この分野にいる人たちにとっては当たり前で、もはや常識的なことばかりです。でも、”全く知らない”状態では、こういうことすらもわかりません。
自分の興味の対象を具体化して絞っていく際は、当然に、知識が必要です。
その知識は、教科書に載っている事柄であったり、その分野の重要論文の内容であったり、先行研究の内容だったり。具体化を進めていけばいくほど、さまざまな”知識”が必要になってきます。
問いの具体化が足りなくて、サーベイがうまくいかない。でも、具体化するには、必要なの知識を仕入れないといけない。その仕入れる作業もまた、サーベイ。
具体化することと知識を得ることは、「卵が先か、鶏が先か」の難しい問題です。そのバランスが大事だと思うのですが、博士3年目になった私でも、うまくできないなあ、難しいなあ……と思っています。
そんな難しさを前に、大事なことが1つだけあります。
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先生方や先輩を正しく頼る:次の記事へ
うまく具体化できない。テーマはあるけど、次の一歩をどうしたらいいのかわからない。
そんなとき、自力で調べたり考えたりすることも、もちろん大事です。でも、「どうしたらいいのかわからない」ときは、先生方や先輩を頼るのも、すごく大事な手です。
自分でなんとかしようと迷走し続けて、時間ばかりが過ぎてしまうことも、往々にしてあるので。
先人である先生方は、それだけ多くの物事を経験し、知識を蓄えてきています。先輩方だって、先生方には劣るかもしれないけれど、大学院にいる年数分だけ、やっぱり知識を蓄えています。
そうして、先生方も先輩方も、たくさんの失敗をしてきています。この記事を書いている私のように「もっとこうしておけばよかった」な後悔は、大小様々、きっとあります。
だから、遠慮なく先生方や先輩方に頼って、先人の知恵を借りてみてください。
でも、みんな自分の研究や雑務で忙しいので、やみくもに頼りにいっても迷惑になっちゃうこともあります。だから、”正しく”頼りましょう。
大学院で研究のことに関して人に頼るときには、まず第一に当たり前に守らないといけない暗黙のルールがあります。
それは、「わからないことが何かわかっている」こと。
「自分がわからないということがわかっている」ではなく、「自分がわからないものはなんなのかがわかっている」です。
「サーベイがうまくいかない」の3つ目の理由に行く前に、次回は「先生や先輩に頼る際に気をつけたほうがいいこと」について記します。
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