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”研究のはじめ方”の手引き(2)サーベイって、なーに?

新大学院生にむけて、博士課程3年目の私が「もっとはやく気づいていればよかったー!!!」なことのなかから、”研究”にまつわる初歩的な重要事項を記す連載です。(初回の記事はこちら

2回目の今日は、「サーベイ」というものについて記します。

【補足(1回目と同じ)】私の研究分野は経済学ですが、それ以外の分野も、細かいところは違っても大枠の捉え方は同じなんじゃないかなあ、と思っています。(違ったら、コメントしてくださいませ。)
また、記事全体での”大学院”や”大学院生”という記述は、法科大学院やアカウンティングスクール、MBAなどの”専門職大学院”をのぞきます。

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前回のポイント:研究とは、「誰も答えを知らない問いを立てて、それを検証すること」

・研究とは:「新しい何かを発見すること」「誰も答えを知らない問いを立てて、それを明らかにすること」、またその一連の作業のこと。(文系でも理系でも同じこと)
・大学院生は、その”研究”活動に片足をつっこむ。少なくとも”修士論文”では、この”研究”をしないといけない。

”新しい”と言うためには、”これまで”を知らないといけない

「研究とは、新しい何かを発見することだ」「誰も答えを知らない問いを立てて、それを明らかにすることだ」

なんていうと、なんだか宝探しのようなイメージが浮かぶかもしれません。
スコップ持って、ヘッドライトつけて、地図持って。気分はさながら、洞窟探検。一緒に、あるかもしれない埋蔵金を探しましょう。

さあ、洞窟についたぞ!埋蔵金はどこかなー?と、いきなり闇雲にそこらへんの壁を掘りはじめるのも、実際の洞窟探検ではいいかもしれません。

でも、忘れてはいけないのは、これは”研究”だということ。
「新しい何かを発見する」ために、洞窟を掘るのです。

”新しい何か”を発見するということは、「いままで誰もやったことがない」「他の人の研究とは違う」と言わないといけません。
だから、人と違う”新しい何か”を主張するためには、すでに言われていることを把握することが必要不可欠なんです。

これが、先人たちの書いた論文や本(=先行研究)を読む意味です。

先行研究と呼ばれる、先人たちが書いた論文や本には、その人たちが見つけた「何か新しいこと」が書かれています。

「この条件ではこうなったよ」「この場所ではこんな結果が出たよ」などなど、
洞窟のここにはこんなことがあったよと知らせてくれています。

この、先行研究から得られる情報をもとに、自分が研究する”誰も答えていない問い”を探していきます。

サーベイってなーに?

一般に、先行研究を読むことを”サーベイ(survey)”といいます。
でも、文字通りのただ”読む”では、ありません。
たくさんの関連する先行研究を整理して、自分が研究するための”地図”をつくっていくのです。

それぞれの先行研究からわかる情報は、あくまで断片的な情報にすぎません。
「こういうときはこうなったよ」「こうだと考えられるんだよ」というある種の”条件付きの”情報にすぎません。

洞窟の中の、ある地点の断片的な情報をたくさん集めただけでは、いまいち洞窟の全体像はわかりません。
同じように、個々の先行研究を単に集めただけでは、その分野全体で「どこまでわかっていて、どこがわかっていないのか」を把握することは難しい。

だから、それぞれの情報(先行研究)をつなげたり、付け足したり、新しい情報に更新したり、といった”整理する”ということを自分でやる必要があります。個々の情報を集めて、吟味して、自分で”地図”をつくっていかないといけないのです。

これが、”サーベイ”です。
読んで、整理して、自分の研究のための”地図”を作るのです。

「ぽんっと誰かが地図を渡してくれたらいいのに」なんて思うかもしれませんが、実は、地図に近いものを得ることができたりします。Handbookと呼ばれるものです。(他の分野にもあるかな?)
経済学の中の細かい分野に分かれて、この分野でどんなトピックがあるのか、そのトピックに関する研究ではどんなことが言われているのかを記してくれています。「Handbook 分野名(英語)」で検索すれば、Handbookがある場合には出てくると思います。(例えばマクロ経済学だったら、Handbook of macroeconomics, Handbook of monetary economicsなど)

地図づくりのコツ:「違いを見つける」

”Find the Gap”
いろんな人に、ことあるごとに言われた言葉です。

直訳すれば、「差異を見つけろ」
”サーベイ”における文脈は、「先行研究同士の”違い”を見つけ出せ」「やられていることとやられていないことを区別せよ」です。
サーベイをするときに、大前提として意識しておきたいことは、この2つです。

仮に同じ”テーマ”であったとしても、違う論文であれば、当然、違いがあるはずです。
それぞれの先行研究は、それぞれ”新しい何か”があったから、論文になったはずです。だから必ず、それぞれの論文には明確な新しさ、人とは絶対に違うところがあります。

地図づくりであるサーベイにおいて大事なことは、その”違い”をきちんと把握すること。すでにやられているそれぞれの研究の内容と”違い”を理解すること。

またその上で、”やられている箇所”と”やられていない箇所”をきちんと色分けできること

この2つが、サーベイをするにあたってとっても重要なポイントです。

この”Find the Gap”は、サーベイの文脈だけじゃなく、”自分の新規性を確立する”というちょっと先の話でも出てきます。物事を考えるときに意識しているといい言葉です。

「サーベイの意義はわかった。調べ方もわかった。でも、どうもうまくいかないのは、なんで?」:次の記事に

「さあ、地図をつくるぞ!」と思ったら、まずは論文や本を探しましょう。

「文献を探す」という、サーベイの技術的なtipsはたくさんネット上にあります。Google scholarやらCiNiiの使い方、などなど。(なので、こうした技術的なことは、この連載では書きません)

論文の管理の仕方(Mendeley, BibTeXなど)や、読んだ先行研究の記録の付け方も、たくさんネット上にあります。エクセルで先行研究の”差異”を管理したり、ノートをつくったり、いろんな人がいろんな工夫をしています。

でも、「調べ方」がわかっても、「まとめノートの作り方」がわかっても、地図づくりであるサーベイがうまくいかないことがあります。

原因として考えられるのは、主にこの3つじゃないかなと思います。

1. 先行研究同士の細かなGap・差異に囚われすぎている。
 → それぞれの先行研究には細かな差異が山ほどあって、その逐一を把握しようとしてパンクする。

2. 新しい何かを発見すべく立てた”問い”の範囲が広すぎる&十分に具体化されていない。
 
→ (社会科学系にありがち?)漠然とした「こんな社会がいいなあ」的な広くて抽象的な問い・理想からスタートしてしまい、興味のある関連研究が膨大すぎてうまく絞れず、途方に暮れる。

3. 「なんか、私が思った疑問や知りたいことって、もう全部やられてね?」
 → 先行研究をたくさん読んでるのに、自分が研究する”問い”が見つからない。先行研究を読んで、「なるほど!」と思って、満足しちゃう。本当に満足したならもちろんOK!でも、あまりに全部「へーそうかあ!」とただ単に”勉強する”だけだと、”研究”が始まらない!

この3つは、私がやらかした3つです。
(こんなことやらかしているの、私だけだといいな……でももしも私以外にいた場合のために、書いておくよ……)

次回は、そんな「サーベイがうまくいかないよう!」なときのおはなし。



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