ほかほかお弁当と、ニコニコ顔のおじいさん
「いらっしゃい」
ちょっとおんぼろなドアを開けると、ニコニコ顔のおじいさんがむかえてくれる。
「えっと、じゃあ、”唐揚げとナスとピーマン炒め”を、持ち帰りで」
「はい、ナスピーマンね。そこ座って待ってて」
ニコニコ笑顔をたやさずに、おじいさんは奥にひっこむ。
言われた通り、椅子に座って待つ。
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お世辞にも綺麗とはいえない見た目の、個人経営のお弁当屋さん。
「あそこ、絶対おすすめ!店主のおじいさんニコニコで最高だし、味もすごい美味しい!」
と、友達におすすめされたのは、確かこの街に来て1年くらい経ってからだったか。
入るのに勇気のいる店構え。えいやと入ってみたら、噂通り、ニッコニコのおじいさんに、どこか懐かしい手料理のお弁当。すぐさまガシリとこころを掴まれたのだった。
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待つこと5分。ほんのり、甘酸っぱい香りがただよってくる。と同時に、おなかもぐぅと鳴る。
「はい、お待たせ」
お金を支払って、出来立てほっかほかのお弁当を手にとる。ああ、早く食べたい。
「気をつけてね」
最後までニッコニコのおじいさんに、こちらも思わずニッコリ。
「また来ます」
あったかく真心のこもったお弁当を手に、研究室まで少しばかり早足で帰った。
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お店を出て歩くこと3分。やっとついた、と席に座って、お弁当のプラスチックの蓋をあける。
ほかほかごはんに、主菜の”ナスピーマン”に、副菜が2つも。
ごま油かおる和え物に、カレー風味のたまごサラダ。
たまごサラダには、ブロッコリーにニンジン、ゴボウにハムまで入っていた。
これでたったの550円。
丁寧につくってくれているんだなと、お弁当を頬張りながら、あのニコニコおじいさんの顔を思い浮かべる。
今日もとっても美味しいです、ありがとう。
美味しい優しいお味に、おなかもいっぱい、こころもあったか。
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美味しいものと笑顔は、人をしあわせにする。
ニコニコ顔のおじいさん、いつまでも元気で、お店つづけてくださいよ。
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