日本の防衛装備移転について

日本でも防衛装備移転三原則の見直しが、自民党、公明党の与党協議という形で行われ、政府に対して提案が行われた。第三国との共同開発で開発された兵器の輸出制限の緩和という点を除けば、自民党、公明党間で意見が割れ、おおくがこのような意見があるという曖昧な形の部分が多く、政府内での検討も秋以降に持ち越されることとなった。

世論調査でも8割近い人が殺傷兵器の輸出には反対という結果も出ている。防衛装備移転問題は日本の安全保障政策との関係も深く、こういった議論は20年以上にも渡って続けられているが、安倍政権時代に行われた部分的な緩和以外に大きく変化はしていない。

安全保障政策にどのように関わっているかという点については、一つは国内防衛産業の縮小という問題。顧客が自衛隊のみであり、採算が取れないことが大きな原因になっている。また、自衛隊向けの少量生産のため、兵器の調達コストも平気の高度化が進むに連れて大きく上昇している。

また、近年では日本周辺を取り巻く状況も色々問題を抱えており、北朝鮮の核保有及び弾道ミサイルの開発。中国は日本の尖閣諸島を自国領であるとし毎日のように武装した哨戒艦による侵入を繰り返しており、台湾問題もここでは詳しく述べませんが大きな課題となっています。

日米同盟の強化と共に、周辺地域との協力関係の強化も喫緊の課題になりつつあり、防衛装備の移転を行うことで周辺諸国との関係強化し、その大きな経済力と拡大し続ける軍事力を背景に南シナ海、東シナ海で拡張政策を推し進める中国に対する抑止力を強化する必要があるという意見もあります。

政策という意味では一つの事例によって考えるべきではないという意見もあるが、やはりウクライナへの兵器移転問題も全く考慮しない訳にはいかない。ウクライナ情勢は日本にとっても全くの他人事とは言えない。例えば、北朝鮮はロシアとの距離を縮めつつあり、中国もまたロシアよりとみなされており、両国ともアメリカ都の対立関係を深めています。

殺傷兵器移転に反対するものとしては、やはり日本で作成された兵器が人を殺傷することが受け入れられないや、そもそも防衛装備移転に反対といった意見が多い。日本人は過去の経験から自国が再び侵略戦争を起こしてはならないという点については深くコミットしています。コミットと言うよりは最早、強迫観念に近いものかもしれませんが。

ただし、日本人は「(他国にも)侵略戦争を起こさせない」、「認めない」という点についてはあまり深くコミットしていないと思われます。政府の見解としては力による現状変更は認めないという立場を表明していますが、日本国民がそれにコミットしているかといえば、現状を見る限り否と言わざるを得ないと感じます。

報道を見ていると安全保障を美化しないでほしいと言うような意見も寄せられていました。現状に向き合って真剣に議論している方々は「美化」などはしていないでしょう。むしろ現状を鑑み、日本の安全のためにも「侵略戦争を起こさせない」という点を強く意識し、そのために必要と思われる議論、考察を繰り返しているだけで。

戦争反対、武器はいらないと声を上げ続けることは私も正しい行いであり、総主張し続けることは必要なことだと思っています。ただし、日本人が戦争反対、武器はいらないという言う時には、「日本には」という枕詞がついているように、言葉にしていなくても感じられます。

台湾問題では日本もまた直接攻撃対象を鳴る可能性が予想されています。また、ウクライナでは現在進行系で都市部が攻撃対象となり子供を含む多くの一般人も死傷しています。また、現在、紛争が起きているのはウクライナだけではなく、シリアでも終結しておらずISIL(日本ではイスラム国とも呼ばれていた)が占領地域をすべて失ったのは2023年3月と、つい最近のことであり、中央アジア、中東、アフリカでも紛争、内戦は去年から今年にかけても複数の地域で発生しています。

それでも安全保障に関して議論することが、(軍事の為の)「美化」と感じるのは、やはりそれらの事実は日本には関わりのない遠くの出来事であり、非現実的な出来事に過ぎないからではないでしょうか。もちろん、それを語った人と直接話したことはありませんので、これは私のただの推測に過ぎません。

日本もまたアジアに位置する一国である以上、現在のアジアを取り巻く環境に無関係ではいられず、逆に日本の政策はアジアの情勢に影響も与えます。これは日本人が望む、望まないに関わらず起きることです。

集団的自衛権の行使について、これは米軍との相互防衛協力を実効性のあるものにするための憲法解釈の変更で、協力関係を深めることで抑止力を高め地域の安定を促す目的もあると思われますが、これに反対する意見で多く聞かれたのが他国の戦争に「巻き込まれる」というものでした。やはり、自国主体で互いに守り合うと考えるよりも先に、巻き込まれることをに対する懸念のほうが強いようです。その反面、自国が攻撃を受けた場合はどうするのかということに対しては、日米同盟があるからアメリカが反撃してくれると解釈していたりります。

日米同盟によるアメリカの支援はエスカレーター条項(状況が発生したら、自動的に発動する条項)ではないため、無条件で支援が得られるというものではなく、反撃すると言うことは犠牲者が出ないわけがなく、米軍の兵士もアメリカの国民であるという事実はどう受け止めているのでしょう。

日本政府がはじめてPKO活動に自衛隊を出すと決めた時。後方地域での治安維持目的でしたが、やはり強い反対意見が出ました。これらを見る限り、やはり日本人が強い拒否反応を見せるのは、日本が直接的に関わることと考えられます。

これらを振り返ってみると、日本は憲法第9条をを遵守するために
 ・(日本の)武器が他者を殺傷するとは容認できない。
 ・(日本が)武器を輸出することは容認できない。
 ・(日本が)他国の戦争に巻き込まれたくない。
 ・(日本の自衛隊が)他国の紛争地域で活動することは容認できない。

すべてに日本が、日本のという点が争点になっており、他国のように実際に紛争が発生している地域に対する貢献という視点は存在していません。もちろん、日本がすべての紛争地域に何らかの関与すべきとか、自衛隊も直接戦闘に参加すべきと言うような極端な話をしている訳ではありません。

私が例に上げた意見が全てであるとは言いません。あくまで私がよく聞いたつまり、メディアを通してよく耳にした意見を例として取り上げているに過ぎませんが、メディアがかなりの偏向報道を行っているのではない限り(現代の日本ではそのようなことないでしょう)、そう言った意見が少なくないというのも事実だと思われます。

日本人は自国が再び侵略戦争を起こしてはならないという点については深くコミットしているが、「(他国にも)侵略戦争を起こさせない」、「認めない」という点についてはあまり深くコミットしていないと感じるのは、こういった点からです。

他国への侵略という点については、過去、日本人自身が経験したことですが、逆に今のウクライナのような他国から侵略を受けると言った経験は、歴を振り返ってもほぼ経験がないことも無関係ではないかもしれません。

歴史を振り返った時、日本本土が他国から直接侵略を受けたのは、鎌倉時代の元寇程度しか思い浮かびません。あとは内乱か、日本近海で行われたものを含めてのも大陸での権益をかけた戦争(日露戦争など)でしょう。太平洋戦争については日本自身が侵略を行った結果として戦場となったという認識でしょう。

日本本土が他国から直接侵略を受けた経験が少ないのは、日本が島国であるという地理的な条件も大きいのでしょう。近代に入るまで海を超えての出兵は、簡単なことではありませんでしたから。

島国という環境から日本人は長らく隔離された環境で過ごしてきました。グローバル化やインターネットで世界が繋がった現代でも、海によって物理的に切り離された環境で生活している日本人には、自身を含めて世界を俯瞰してみるということが苦手なのかもしれません。他国の事をどこか非日常的に捉え、問題を考える際に常に自身がどうしたいかという点が主眼になりがちなのかもしれません。

さて、日本の防衛装備移転について、私個人は特段反対ではありません。もちろん、無条件でというわけではありません。ウクライナで起きていることや、現在のアジアの情勢を鑑み、個別に検討していくべきと思います。しかし、日本の兵器は実戦経験がなく、実践を想定していないとまで言われており、実際に輸出できるようなものかと言う点はありますが。元自衛隊の将官の方も、自衛隊の装備は演習で動けばいいよという程度にしか考えられていないとも言ってましたね。

冷戦が終わり、大国が領土的野心を持って他国に侵略を行うようなことは、もう起こらないだろうと多くの人達が考えていたため、ロシアがウクライナへ侵攻したことは大きな衝撃を持って受け止められました。結局のところ、20世紀に行われたような戦争は、現代でも起こり得るのだと。

一部に欧米のウクライナへの武器供与が戦争を長引かせているのではという意見もありますが、たしかに欧米が武器・弾薬の供与を停止すれば戦争自体は現状予測されているよりは短い期間で集結するかもしれませんが、戦争自体はより凄惨なものとなる可能性があると思われます。なぜなら、欧米の武器供与が停止した場合、弱体化するのはウクライナ側であってロシア側ではないからです。

武器・弾薬の供与が停止されれば、ウクライナ軍は短期間で弾薬が欠乏し継戦能力を失い、ロシア軍の攻勢は激しくなるでしょう。なぜならロシアの指導者は勝てると予想したからウクライナへの侵略を開始し、戦況が不利になると部分動員令を発動、既にロシアの経済は戦時体制へと移行しており、現状でもウクライナへの軍事侵攻を停止する様子は見られません。そのような指導者が、はたして勝てる状況となったときに侵略を停止するでしょうか。

少なくとも私はそのようには思えません。これまで報道されていた内容を考えれば、ロシア軍が攻勢を強め占領地域を拡大していけば、戦争はより凄惨なものとなると考えられ、民間人を含む被害者の数は更に大きなものとなることが予想されます。仮にキーウが陥落し実質的にウクライナがロシアの占領下となったとしても、ウクライナ人は各地でゲリラ活動を継続する可能性があります。そのような事態になれば、ロシアはウクライナ人への弾圧を更に強めることとなるでしょう。

平和裏に停戦させるには人が多く死にすぎたと思っています。当事者の心情を無視して停戦させたとしても、その停戦は長続きしないでしょう。2014年、2015年に半ば強引に停戦にもちこみ、そこで結ばれたミンスク合意は結局のところうまく機能せず今日に至ったのですから。

一旦始まってしまった戦争を終わらせることは非常に難しいとい。その事を考えれば、戦争を起こさせない努力、つまりそれを抑止する努力は行わなければならない。だから防衛装備移転も許容すべきということではなく、日本自身も含む地域の安全と安定のために、手段の一つとして強すぎる縛りは見直したほうが良いのではないかと思われます。

安全保障はイコール軍事とみなされたり、軍備ではなく外交をという意見もありますが、そもそも安全保障は外交、情報、軍事、経済の政策手段の総称であり、それらを通じて自国、地域の安全を守るというもので、有事に備えて軍備を整えるからと言って、外交が軽視されるわけではありません。
自国の兵器が他国で使用されることは有効な外交ツールとなっている事も事実です。インドは非同盟を国是としており中立的な立場を取っていますが、インドの兵器の多くはロシアからの輸入品が多く、ロシアとの関係も重要だからという点も指摘されています。

中立であるスイス、最近まで中立主義をとっていたフィンランド、スウェーデンも武器輸出国です。これらの国は中立、つまり非同盟であるため自国は自身で守るという国民の意識も高く、武器輸出は自国の安全保障にとっても重要な外交ツールの一つになっています。

なぜなら武器の供給国と敵対することは、その供給が絶たれるということで輸入国は該当国と対立すること自体が自国の不利益になるという考えからです。さて、皆さんはスイス、フィンランド、スウェーデンといった国家にどのようなイメージを持っているでしょうか。

逆に対立する国家の兵器が大国に採用されるということは、その国の影響力が輸入国に対して強まるということです。自国の装備移転はこのように、外交政策とも無関係ではありません。残念ながらとしか言いようがありませんが。

最後に、ウクライナへの殺傷兵器の供与ということに関しては、本来なら防衛装備移転とは切り離して議論すべき事柄ですが、防空ミサイルについては供与する方向で検討していただきたいと思っています。(残念ながら秋以降に検討は延期されましたが)日本も装備・弾薬が不足している現実は理解していますが、ロシアは都市部の民間施設を攻撃対象としており、子供を含む大勢の一般市民が犠牲になっていることを考えれば。

2023年7月23日
2023年8月03日 改定

<参考資料>

令和4年度 防衛白書 
資料61 防衛装備移転三原則

資料61 防衛装備移転三原則の運用指針

内閣官房
防衛装備移転三原則について



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