今までに読んだことのないタイプの小説
『小説の小説』(著:似鳥鶏)を読んだのだが、面白いというよりはトリッキーだな、という感想だ。いや、もともとそういう本だとはわかっていたんだけど、事前に想像していたよりも10倍はトリッキーな小説だった。
いわゆる「メタ・フィクション」と言われる、「小説の約束事を利用した小説」の形式をとっていることが「まえがき」で断られている。
縦書きは上から下へ読む、一行空いたら場面や視点が変わる(ことが多い)、といった本を読んでいくうえでは至極当たり前の約束事さえもネタとして弄ばれている。
【注意:この作品を読むとき、「常識」は捨ててください。】の帯文は伊達ではない。
たった2ページの「まえがき」にさえ仕掛けがあって、気づくと「ああ、こういうことね」と思わされた。
本書は、「立体的な藪」「文化が違う」「無小説」「日本最後の小説」の4編からなる短編集である。以下本書の触り程度のネタバレも書いてしまうが、ネタバレしたとしても十分楽しめると思うし、むしろどんなものなのか興味があったら是非自分の目ですべて確かめてほしい。
立体的な藪
ジャンルでいうとミステリかな。もはやこの本においてジャンルが意味を成してるのかは置いておくが。
読み始める前は、東野圭吾の天下一大五郎シリーズのように、探偵のお約束事をネタとして弄ぶ類の話かと思っていたが、全く違う趣向だった。
小説文章のあり方をネタにしつつ、ミステリの真相が二転三転(いや、二転三転ではないな、単純に上書き更新されていく感じ?)。
最初の方は普通に読めるのだが、途中からは「何読まされてるんだろう」という気持ちになっていく。一例だけ挙げておくと、文章のルビ部分が本文となって話が展開されていく。これだけでも意味わからない感じは伝わるはず笑
こういった仕掛けが重複して襲ってくる。
最後に一つ。「これが真相である」と地の文に書いてあり、そこに「うそである」とルビが振られている話。こんな話を私は読みたくない!
文化が違う
4つの話の中では、メタフィクションとして一番わかやすく楽しめるし、話としても面白いかなと思う。
この話を一言でいうと、
『サザエさんの指示のもと、ゴリラと一緒に新卒くんを倒しに行く異世界もの』かな。プリッツ対ポッキーのぶつかり合いが一番の見どころだったと思う。
読みたくなったでしょ笑
読んでる途中、何度か衝撃(笑撃)が大きすぎて、いったん本を置いて心を落ち着けなおしたりしながら読んだ。
たぶんどんなに感想を尽くしてもネタバレにならないし、細かい説明を求めるくらいならとりあえず読んでほしいと思う。
アマゾンのリンク置いときますね笑
これもメタフィクションではあるけど、実際に最近読んだ本で同じような体験したばかりだったので、「読書あるある」としても結構共感できるところはあるんじゃないかなと思う。
無小説
この話がある意味究極のメタフィクションと言える気がするけど、やっていることと生み出したもののバランスが悪い作品でもあると思う。
ざっくり言うと、引用多めの話。引用も多用すると逆にオリジナリティが出るんだなと思った。ただ、作品として面白いかというと、個人的には4つの中で一番下だと思う。アイデアとチャレンジ精神は褒めたい笑
後半部の引用元の本のタイトルが、「余はベンメイす」「悪筆」「茶番によせて」「悪夢」「無駄骨」「あたまでっかち」とかそういう名前の本ばかりになっているのもたぶん本作における趣向というか、自省というか、やけっぱちというか、そういう気持ちになったんだろうなと想像させられた。
曰本最後の小説
この作品はノンフィクション寄りのフィクションと言えるのかな。
思想に対する検閲がどんどん強化されていく曰本で、どうにかして自分の作品を世に出していこうとする小説家とそれをサポートする編集者の物語。
(登場するキャラが、ヒトではないのは、別の似鳥作品で見た気がするぞ)
どうやって検閲をかいくぐるか、というところにメタフィクションが絡ませてあり、最初は伏字(「■してやる!」、みたいな)から始まり、そのやり方がどんどん加速していく(つまり、検閲も厳しくなっていく)。
これもかいくぐる趣向の面白さを楽しむ作品ではあると思うけど、こういう検閲世界がフィクションだけではなく現実になることもあるかもしれないなと思わされ、そういうシニカルさも含んだ作品だなと思った。
まとめ
紙版はカバーにも組み合わせて読む形の短編が組み込まれていて、これでもかという形でメタフィクションが折り込んである(ちなみに、電子版と紙版でおまけが違うらしい)。
純粋に物語を楽しむ本ではないため、万人におススメしづらい作品ではあるが、読書好き、特に趣向を凝らしたミステリが好きな人には是非読んでほしい。この感想文をここまで読んだ方は、少なくともたぶん読書好きなはず。
ほらほら、下のリンクをぽちっと押してみて笑
以上
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