見出し画像

思想の広め方 – 反出生主義を念頭に

1. はじめに

 反出生主義とは、子どもを産むことは非道徳的であるとする哲学的立場である。本投稿では、反出生主義の詳細な紹介や思想の是非については述べず、その思想の広め方(啓発活動)についてのみ考察する。したがって、反出生主義とは関係ない何らかの思想などを広めたいと思っている人にとっても本投稿は参考になりうるし、なってくれれば幸いだ。啓発方法に実現性があるか否かはなるべく読者の判断に委ねたいと思っており、かつ実現性はなくとも何かのヒントになれば幸いと思っているため、実現性が乏しいと筆者が思っている方法を含めて可能な限り幅広く検討した。

反出生主義を広めたいと私が思った動機については、以下の過去の投稿をご参照ください。
https://note.com/mo_toko/n/n32426991335a 『反出生主義を知ったきっかけ』

2. 概要

啓発活動とは
 反出生主義の思想を広めること。また、広く社会の全階層・全世代において反出生主義の認知度を誤解が少ない形で高めること。かつ、世代交代や人間の記憶力を考慮するに、継続的か断続的かにかかわらず長期的な活動になることが想定される。期間は最低でも提唱者と賛同者ら本人、つまり啓発活動開始の第一世代の生涯に渡って、できれば人類滅亡まで活動が続く見通しになることが望ましい。
 思想を広めることと、反出生主義者の数を増やすことは異なる。反出生主義の受け入れ是非はあくまで各人の判断による。本活動の目的は、反出生主義が社会的にその是非を問われる段階にまで至らせることである。
 日本国外への啓発活動は、現時点では英語版サイトの開設に留めたい。将来的なグローバル化とIT化のさらなる進展に期待したい。

目標
 合法的手段によって反出生主義の基本的な知識を社会に広める。基礎的な知識の具体的イメージとしては、反出生主義に関する基礎知識(簡単な○X問題を想定)を7割以上の人が7割以上の問題に正答すること。例えば、LGBTやヴィーガンに対する社会認識と同程度の認知度を反出生主義が得られれば目標達成相当と言える。

○X問題(仮)
・反出生主義とは、子どもを出生しない方が豊かに暮らせるという思想のことである。(X)
・反出生主義は、子どもを出生させることは非倫理的であるということを主張している。(○)
・反出生主義は、子どもを妊娠/出産できる女性に焦点をあてた思想である。(X)
・反出生主義は、子ども本人のことを慮るなら、子どもを産まない方が良いという思想である。(○)
・既に子どもを産んだことのある親は反出生主義者にはなれない。(X)
・反出生主義の主流派は、安楽死を推奨している。(X)

対象者
一般対象者:日本国内の15歳以上の男女
重点対象者:出産適齢期(20~35歳)の男女、子どもを産む能力があって、かつ子どもを産む意思がある男女(子どもの妊娠・出産前が前提)

 「孫の顔を見たい」や「お子さんはいつ頃?」という社会的圧力も存在するため、啓発対象者は全世代としているが、特に出産適齢期(20~35歳)の男女への啓発に重点を置きたい。哲学的な思考ができる年齢であることも重要なため、高校生以上(15歳以上)への啓発としたい。(出生推奨側は、意識的にせよ無意識にせよ教育などを通して幼少期から出産への肯定的イメージを植え付けているが、これは悪く言えば洗脳である。我々反出生主義側は同じ轍を踏まないように心がけたい。)

 年齢以外の要素を加味すると、子どもを産む能力があって、かつ子どもを産む意思がある男女(以下、重点対象者)であることが一つのポイントになるだろう。つまり、子どもを産む能力がない、もしくは子どもを産む能力はあるが子どもを産む意思がない人は、反出生主義を知ろうと知るまいと子どもを産まないため、子どもの出生という結果のみに着目するなら反出生主義を認知させることによる直接的な効用はない。もちろん、元々子どもを産む予定がなかった人であっても反出生主義者にはなれるし、なって良い。また、元々子どもを産む予定がなかった人や既に子どもを産んでいる人も含めてなるべく多くの人が反出生主義を知っている方が、重点対象者が反出生主義を知る機会も増えるだろう。

要検討事項
合法性、費用面での合理性、伝播性、思想の正確性、社会の受容容易性

手段
1. 反出生党の設立と政治活動
2. デモ活動
3. 反出生主義者各人による周囲への啓発活動
4. 両親または行政に対するロングフル・ライフ訴訟
5. インターネット、書籍などでの広報活動
6. 財団法人やNPO団体による活動
7. 著名人になって宣伝する
8. 少子化、育児放棄に関するヤフーニュースへのヤフコメ投稿
9. 環境問題、世界的な人口増加問題を議論する場における告知
10. 恋愛、婚活、または育児の場における告知

※本啓発活動において、「反出生主義」というワードを直接的に出すべきか否かについては場面々々において検討が必要だろう。つまり、社会への受容容易性に着眼するなら「反出生主義」というワードを出すことによる一定の社会的な拒絶感は否めない。一方、「こんな社会じゃ子どもは産めない」や「産まない方が子供のためなのでは?」は社会にも比較的受け入れられやすい言論だろう。やや扇情的な表現も含めると「生まれてきたくなかった」や「生まれないに越したことはない」などもある。しかし、基本的には反出生主義という思想を知って、そこからその思想の詳細を各自が知った方が良いため、「反出生主義」という単語を入れた上での啓発活動が中心になるだろう。

3. 手段一つひとつへの検討

さて、本項では前項で挙げた10の手段について、その一つひとつを検討したい。

1. 反出生党の設立と政治活動
 このアイディアの元となっているのは、イギリスにあるとされる「The Anti Natalist Party」、和訳すると反出生主義党である。インターネットで検索しても情報が出てこないので、現時点では活動していないのかもしれないが、日本において同様の政党を設立するというのが一つ目のアイディアである。日本における投票率の低下が叫ばれて久しいが、とは言え政党活動は皆メディアを通じて目にするので、伝播効果は高いと言えるだろう。

 掲げる政策としては、各種少子化対策の段階的縮小と人口減少に対応した社会の構築である。少子化対策には、子どもがいる世帯への税制優遇も含まれていると考えているが、いずれにしても既に産まれている子どもにまで不利益が及んでしまってはいけないため、十分な時間的な猶予を持たせた上での施行になることに留意したい。また、政党名に「主義」が入るのはくどいので、「反出生党」の方がスマートだろう。

 このアイディアの最大の問題点は、費用対効果が悪い(悪いと予想される)ことである。もし、反出生党が政権与党になれれば、反出生主義の理想実現のためにこれ以上ないほど良い状況だが、それはあまりに非現実的だろう。恐らく全員落選、よくて1-2議席だろう。地方選や国政小選挙区でのみ立候補してもアナウンス効果が低いし、当選は不可能である。となると、比例区という話になるが、比例区に立候補するためには以下の条件のいずれかを満たす必要がある。
(1)現職の国会議員5人以上
(2)直近の衆院選か参院選で2%以上得票
(3)衆院選ならブロック定数の2割以上(約36人)、参院選なら選挙区と比例区で計10人以上立候補する

 現時点において(1)と(2)は満たされないので、(3)しか残されていないが、衆議院選で36人擁立しようとしたら、供託金だけで1億円以上かかる。参議院選の10人の場合でも、最低3,300万円かかる。ここに選挙費用が加われば、最低でも5,000万円はかかるだろう。一人ぐらいなら当選するかもしれないし、たとえ全員落選しても日本全国津々浦々の投票所に「反出生党」の名前が出るのは悪くはないと思うかもしれない。

 しかし、私が懸念しているのは、実はそこまでやってもアナウンス効果があまりないのではないかということである。いわゆる泡沫政党と呼ばれる党で、上記のように参議院選挙において比例区の議席獲得を目指している政党は多い。有名なところだと、「NHKから国民を守る党」だが、その他にも「安楽死制度を考える会」、「幸福実現党」、「オリーブの木」、そして「労働の解放をめざす労働者党」という党もある。私は政治に関心が高い方だと自負しているが、それでも最後の2つ「オリーブの木」と「労働の解放をめざす労働者党」はその存在すら知らなかった。5,000万円もかけて、その2つの政党に「反出生党」が名前を連ねてもしょうがない。まして、供託金の3,300万円が少子化対策に使われたら笑い話だ。

 もちろん、「NHKから国民を守る党」のように議席を獲得できれば世間の注目度は一気に高まり、反出生主義の知名度向上にも繋がるだろう。しかし、資金、時間そして労力に余裕がある人なら兎も角、この勝算の低い戦いに一般庶民が挑むのはあまりにハイリスクと言わざるを得ない。

2. デモ活動
 政党活動が厳しいのであれば、デモ活動をするのはどうだろうか。主張する内容は、政党活動と同じく「各種少子化対策の段階的縮小と人口減少に対応した社会の構築」である。特に、人口減少社会に対応した社会の構築は、現時点においても考慮すべきことなので、比較的受け入れられやすいと考える。(反出生主義者が考慮する人口減少社会は、よりドラスティックなものではあるだろうが。)

 私はデモ活動には疎いが、違法なことを主張している訳ではないのだから、デモ活動そのものは届けを出せば認められるだろう。さて、問題となるのはデモ活動によって認知度が上がるのかや、反出生主義に対する世間の目が良くなるのかである。私も東京に仕事や遊びで赴くと、度々デモ活動を目にして、無視しない程度には関心を持つのだが、彼らが何を概ね主張しているのかを理解したことがない。また、許可された活動とは言え、公道や車道を大勢の人が大挙して歩くのは、迷惑だと思う人はいるだろうし、恐怖感を覚える人もいるだろう。

 私が考えるデモ活動の意義とは、デモ活動そのものではなくて、その活動がメディアによって報道されることにあると思う。LGBTや温室効果ガスに関するデモ活動はその典型と言っていいだろう。私はメディアの人間ではないので想像でしかないが、反出生主義のデモ活動があったとして、メディアはそれを大々的はおろか、中規模程度にすら取り上げないのではないかと思う。反出生主義を推し進めれば経済規模は間違いなく縮小するのだから、育児・教育関連の企業を筆頭に、企業の業績は落ちていくだろう。その企業には、当然メディアのスポンサーも含まれているのだから、私が報道社の社員なら間違いなく尻込みする。

3. 反出生主義者各人による周囲への啓発活動
 啓発活動というとやや大げさだが、要はカミングアウトである。私は、自身が反出生主義者であることをこのnote上で発信しているが、現実社会においても明かしている。自身の親兄弟、彼女、彼女の両親、友人5名(既婚未妊1、未婚4)、そして最近勇気を出して会社の同僚3人(未婚者)にも明かしてみた。計14人に明かしたが、やはり誰も反出生主義のことは知らなかった。しかし、意外にあまり否定的な反応はかえってこなかった。私に気を使って装っているだけかもしれないが、少なくとも私は強い否定的な感情は感じなかった。

 これは説明の仕方にもよるだろうが、まず、自身が子どもをほしいとは思っていること、そして、子どもが不幸な人生を歩むリスクがそれなりにある以上、子ども本人のことを考えるなら産まない方が子ども本人のために良いのではないかと考えていることを伝えると、反発的な感想は返ってきにくいと思う。また、上から目線になってしまって大変恐縮だが、カミングアウトして強く反発されるか否かは普段の自身の行いにかかってくると思う。普段から周りに優しくしている人であれば、その優しさの延長として、未だ妊娠すらしていない子どもにまでその優しさが及んでいるのだろうと周囲も思ってくれるだろう。しかし、周りに気遣いができない優しくない、反出生主義を自己正当化や他者批判のための武器にしているような人がカミングアウトすれば、「お前が結婚できないだけだろ」とか「現実の人にすら優しくない奴が何を言っているんだ」と反発されても仕方がないだろう。

 約1年前だっただろうか、家族以外にもカミングアウトすべきかについてネットの掲示板で相談したことがあるが、相談に乗ってくれた反出生主義者はカミングアウトには否定的だった。理由を要約すると、社会的に不利益を受けるからだったと記憶している。彼または彼女は私のことを気遣ってそのように言ってくれたと思うので悪い気はしないのだが、同時にそれではいつまで経っても反出生主義の認知度は高まらないだろうなとも思った。多くの反出生主義者は、反出生主義の認知度が高まってほしいと願ってはいるはずだ。そうなら、まずは自分の周りから率先垂範して、認知度を高めていくことがあるべき姿なのではないか。これは過大な要求なのかも知れない。しかし、カミングアウトした者として、他の反出生主義者の皆さんにも勇気を出して一歩を踏み出して頂きたいと思う。

4. 両親または行政に対するロングフル・ライフ訴訟
 ロングフル・ライフ訴訟とは、自分にとって、生まれてきたこと自体が損害であるとして、親や医師などへ損害賠償訴訟を起こすことである。米国やインドでは訴訟が実際に提起されているので、興味がある方は検索して頂きたい。訴訟相手が親はわかりやすいとして、医師の場合だが、これは先天性の障害を持って産まれてきた場合に、出生前診断などにおいて医師が親に障害のリスクを適切に説明しなかったケースを念頭に置いている。

 私は健常者のため、医師を訴える要件は整っていないが、両親の他に少子化対策を推し進めている行政を訴えることは、理論上、不可能ではないだろう。言うまでもないことだが、何もこの訴訟を通して勝訴を勝ち取ろうとは毛頭考えていない。訴訟額も1円でいいと思っている。ポイントは、ロングフル・ライフ訴訟を通して、世間に反出生主義という思想が存在していることをアピールすることである。費用は、裁判所手数料と弁護士費用を合わせて100万円程度なので一般庶民にも手が届く、比較的リーズナブルな手段と言える。

 3点、懸念されることがある。まず、ロングフル・ライフ訴訟を提起することによって、世間からの強い反発が想定されることだ。反出生主義の知名度は上がるかもしれないが、第一印象が悪いために反出生主義の本当の中身にまで人々がたどり着けない懸念がある。2つ目に、この民事訴訟は日本において提起可能なのかということである。私は法学部生ではないため良くは分からなかったが、「民事訴訟 訴訟要件」などで検索して調べた限りにおいては、ロングフル・ライフ訴訟は日本においても提起可能と思った。訴訟前に法律の専門家に要確認である。ただ、実際に米国やインドで提起されているのだから、訴訟が可能であるという蓋然性はある。3つ目に、民事訴訟は顕名が必須となっているため、訴訟の原告が誰なのかが世間に明らかになってしまう。これは、私のような勤め人や就活を控えた学生などにとっては心理的・社会的な負担が大きいだろう。

5. インターネット、書籍などでの広報活動:サイト開設、SNS・ブログ投稿、書籍出版
 私が反出生主義を知ったきっかけはヤフー知恵袋のような場所だったし、今でもこうしてnoteに投稿しているので、インターネットに対しては過去の実績という意味では評価している。ただ、インターネットや書籍の最大の弱点は、そもそも反出生主義的な考え方を持っている人しか、反出生主義にたどり着けないという点である。恐らく、本投稿をご覧頂いている方の多くは既に反出生主義を知っている人だと思っている。

 反出生主義が日本においてホットなテーマになったのは2019年頃らしいので、まだまだこれからというところではある。しかし、私の周りにいる性別・年代・国籍も異なる多様な社会背景を持つ14人中、反出生主義を知っていた人が誰もいなかったことから推察するに、やはり反出生主義の知名度はIT化が進んだ現代おいても相当に低いと言わざるを得ない。彼らにネット検索で「反出生主義」と打ち込ませることは、ネットの世界の中からではほとんど不可能である。こうして反出生主義のことをnoteに投稿してはいるが、これは自分の意見整理やコメント欄を通した意見交換が主目的なので、反出生主義を広めようという意図はあまりない。

6. 財団法人やNPO団体による活動
 2番目のデモ活動と似ているし、重複する部分もあるだろうが、組織化して活動するという点で異なる。デモ活動やインターネット上での投稿と同様に、反出生主義を社会一般に広く認知させられるのかについて私は懐疑的に見ている。ただ、反出生主義が社会にある程度認知されるようになる状況を仮定すると、今以上に反出生主義の誤情報が飛び交うようになるだろうから、何らかの公式団体のようなものがあった方が良いとは思う。

7. 著名人になって宣伝する:起業家、大企業の社長、政治家、芸能人、スポーツ選手、社会貢献者、叙勲受章者、宗教家、ノーベル賞受賞者、芥川賞・直木賞受賞者、高額宝くじ当選者
 そもそも著名人になることが難しいこともさることながら、基本的に著名人は人気商売、名誉職、そして責任ある立場であったりするわけだから、世間や特に少子化対策を推し進めている政府に対して楯突くような発言をするのは職業柄困難だろう。卵が先か、鶏が先かの議論になるが、社会にある程度反出生主義が浸透し、受容されるようにならないと7番の手段はその手段を行使する人にとって不利益や負担が大きすぎると思う。

8. 少子化、育児放棄に関するヤフーニュースへのヤフコメ投稿
 ヤフーニュースに限らずコメントが投稿できるニュースサイトなら何でも良いのだが、知名度や閲覧者数を考慮して具体的にヤフーニュースとした。ヤフーニュースも5番のインターネットに含まれるとは思ったが、ブログやSNSとの違いとして反出生主義的な考え方を持っていなくても、少子化や育児放棄に関するニュースをヤフーで目にする人は多いため項目を別に設けた。

 懸念事項は2つある。まず、これは他の手段にも言えることだが、効果測定が難しいことである。自分の投稿を何人の人が見たのかはよく分からない。したがって、効果が出ているかが不明瞭な状態で投稿し続けるのは苦かもしれない。もちろん、好きで投稿する分には問題ないのだが、ヤフコメを閲覧するだけの私からすると、少子化や育児放棄のニュースをわざわざ探しに行って、いち早く投稿しようとするのは、週課だとしても大変そうだ。

 2つ目に、反出生主義を題材にしてヤフコメの上位に表示されるような投稿が可能なのかという点である。キャッチコピーなどを考える職業の方の得意分野なのだろうが、発案者として一応考えてみた。(あまり自信はないです。ごめんなさい。)
・育児放棄や自殺に関するニュースなら「こんなニュースを見るたびに、子どもを産まない方が良いという反出生主義の主張が正しいんじゃないかと思ってしまうよ」、
・整理解雇のニュースなら「頑張ってきた結果がこれじゃあ、生まれないに越したことはないな」
・少子化のニュースなら「政府は頑張って少子化を止めようとしてるけど、そもそも子どもたちにとって生まれてくることが良いことなのか、一度立ち止まって考えた方がいい」
あたりになるだろうか。

9. 環境問題、世界的な人口増加問題を議論する場(国内外の会議体、ニュース、ネット上の議論など)における告知
 一部、ヤフーニュースやデモ活動とも重なるところがあると思う。ただ、私は環境問題や人口問題に縁がないので、ここでは紹介に留めたい。

10. 恋愛、婚活、または育児の場(民間主体の出会いの場、ニュース、ネット上の議論など)における告知
 恋愛や婚活は基本的にポジティブな場所なので、別に悪いことではないのだがネガティブな話である反出生主義を持ち出すのは難しいかもしれない。反出生主義者自身がその場に参加者として居る場合に、「明るく振る舞いたい」「モテたい」と思うのは至極当然な心理であって責めに帰するところはない。しかし、そのような動機が働いている状況下で反出生主義を広めることは難しいように思う。ただし、子どもを希望しない人は少数派なので、その場に子どもを希望しない異性がいるなら反出生主義者であることは重要なアピールポイントになり得るだろう。

 私は未婚で子どももいないので、育児の場がどのようなものか実体験としては知らないが、ネットの閲覧経験からするに婚活と比べると育児はネガティブな側面で話し合いが行われているような気がする。例えば、「育児が大変でどうしたらいいか分からない」や「配偶者が協力してくれない」といった相談が多いように思う。ただ、大きな問題点として「育児」という言葉からも分かるように、既に子どもは生まれてきてしまっている場合が多い。そこに反出生主義の話を持ち出すのは、ただでさえ追い詰められている養育者にさらに追い打ちをかけることになるだろう。たとえ、どんなに配慮した言い方をしたとしても。

4. まとめ

 読者の皆さんに判断して頂いていいし、10項目に新たな手段を加えて考えて頂いても良いのだが、一応、私が良いと判断したものを順に列挙したい。
・反出生主義者各人による周囲への啓発活動(3)
・少子化、育児放棄に関するヤフーニュースへのヤフコメ投稿(8)
・インターネット、書籍などでの広報活動(5)
・両親または行政に対するロングフル・ライフ訴訟(4)

 反出生主義者が今の日本にどれだけいるかは知らないが、仮に0.1%だとすると約12万人である。その人たちが周囲の10人に反出生主義を伝えれば、120万人が知ることになる。さらにその120万人がと都合良くはいかないだろうが、もし伝えられれば1,200万人だ。この規模の人が知れば、世間でもある程度知られているレベルといっていいだろう。反出生主義という思想があることを教えればいいだけなので、相手を反出生主義者にする必要はない。これであれば、とある反出生主義者の一生のうちに10人に伝えることはそこまで高いハードルではないと思う。

 ただ、私も自分と彼女の両親を除くと、子どもがいる親に反出生主義の話をできたことがない。相手を傷つけたくないという思いもあるし、職場ならセクハラで訴えられかねない。(一般的なセクハラと比べて、加害者・被害者の関係が子どもの有無の点で逆ではあるが、まあそこは関係なかろう。)重点対象者の観点から考えても、2人目、3人目の子どもを考えている既婚者という例外を除けば、基本的に子どもがいない既婚者か未婚の結婚適齢期の男女に反出生主義を伝えることが効用は大きい。既に子どもがいる人に反出生主義をわざわざ伝えるメリットが、デメリットを上回ることはあまりないと思うので、ことさら意図して子どもがいる親に反出生主義を伝える必要はないだろう。

 最後に、周囲への啓発活動の利点を加えて述べたい。それは、インターネットなどで自分とは何の関わりもない遠くにいる100万人の人々が反出生主義を知ったとしても自分の人生にはあまり影響がないという点だ。(もちろん、マクロ的には遠い100万人でも意義はあるが、あくまで仮定の話なのでミクロ的に考えて頂きたい。)世界は世界として存在はしているが、自分の世界や人生とは、自分の家族や友人、恋人や同僚、趣味や仕事であって、遠くにいる誰かとは間接的に繋がっていると頭では理解していても、実感として日常で感じることはほとんどないだろう。つまり、自分の家族や友人、恋人や同僚などたった10-20人程度に反出生主義を伝えれば、あなたの世界は大きく変わるということだ。残念ながら、良い方向に変わると保証はできない。しかし、反出生主義の認知度を高めたい、そして世界をより倫理的にしたいと反出生主義者の皆さんが真に願っているなら、まずは自分の周りから始めるのが自分の世界・自分の人生を変える意味で最も近道ではないだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?