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子宮を泳ぐ

今日が沖縄最後の朝。
起きるとまた新しい虫刺され。
僕はO型なのかと疑いたくなるほど最近よく刺される。
B型だってば。

相変わらず早起きな彼女の車にシュノーケルとフィンと一緒に僕も詰め込まれて着いた先は小さな海。
これからここに潜るみたい。
今日、僕は初めて僕自身の足を漕いで遠く海の中へ。

一度溺れた時のフラッシュバックが身体にしがみついたまま、なかなか前に進めない僕を彼女が、「海の中は任せて」とゆっくりゆっくり僕の手を引いて、遠く、魚と珊瑚礁たちのもとへ連れ出してくれた。

この前まで大きな決断を決めきれずにクヨクヨしてたその子に久しぶりに会ったら、良い顔をしてた。
だから言ったでしょ「カイなら絶対大丈夫」って。
1年と半年ぶりに会ったのにやっぱり貴女は貴女らしくて貴女のままなんだけど、ずっと逞しくなって、余計に優しくなって、一段と綺麗になってた。

海の中を不自由なく泳ぐ貴女に気がついたら目を奪われてて。生まれて初めて見た珊瑚よりも、見たことない綺麗な色をした魚よりも貴女に見惚れてたことは秘密にしておいて。

貴女との今この瞬間があまりに嬉しくて、凄く幸せで、だからつい口角が上がっちゃって、シュノーケルのマウスピースの隙間から海水が入りこんできて慌てて口を結ぶ。
「笑ったら口の中に海水入ってくるから気いつけてね」ってあんなに言われてたのにね。
だって嬉しいもん。

あんなにも怖かった海のことをすっかり忘れていたのは貴女がずっと手を繋いでくれていたから。

「もも、体の力抜いて」と言われて、抜ける力が身体中に隠れていたことに気づく。
僕ってばいつもこんなに体に力を込めてたのね。

空気を吸いたい時に吸いたいだけ吸える世界をずっと生きてきたのに、もういい大人になったのに、未だにうまく息を吸えないことがよくあって、でもそんな事で悩んでいたのが嘘みたいに空気たちが僕の中いっぱいに広がって、そして空の中へ消えていく。

身体が海のなかに溶けていくみたい。
海の中のひとつになったみたい。
生まれる前、おかあさんのお腹の中はこんな風に心地が良かった気がする。
こんなに優しさで溢れた海は生まれて初めて。

空気をいっぱいに抱きしめて、身体の力を抜いて、
だいすきなその子と2人ぼっちで泳ぐ朝の静かな海はどこまでも美しかった。

最後まで手を離さないでいてくれてありがとう。
手もこころも繋いだままにしてくれる貴女のことがやっぱりだいすきだなと思うの。

綺麗なものを沢山みたこの旅のことを僕はこれから先、ふと思い出して、その子のことを考えながらあの海を想うのでしょう。

また会う日まで。

此処で今を生きると決めた貴女へ愛を込めて。

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