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シビウ演劇祭ストリーミング配信作品紹介

コロナ禍を受けて、ルーマニアで毎年開催されているシビウ国際演劇祭がオンラインでの開催となった。期間は6/12〜21まで(現地時間)。

※追記:各演目に付き2回の配信スケジュールが発表されていますが、3回目の配信が、演劇祭終了後に行われるという噂もあります。

2015年にこの演劇祭のボランティアとして参加して、ファンキーなルーマニア人上司と一緒にすごく重たいプロジェクターを運んだり、乱暴な運転でビビらせてケタケタ笑うこいつはほんとは馬鹿なんじゃないか? と思ったり、スキあらば下ネタを教えようとするし、集合時間に行っても絶対来ないし……という経験をした。きっと向こうも日本から来た青瓢箪で英語もろくにできないし無愛想だし、動きも悪いしと、使い勝手に困っただろう。

と、言葉にするとなんだか最悪なのだけど、総じて彼は優しい奴だし仕事に関してはきっちりやるし、楽しかった。いいテクニシャンだ。親父さんと一緒につくっていた手作りの家はもう完成しているだろうか?

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さて、僕は裏方付きなので10日間のフェスティバル期間中、20〜30本弱くらいの芝居をまさに浴びるように見ていた。この上司にとって作品の上演中は休憩時間でスマホゲームのレベル上げに勤しむ貴重な時間なわけだが、こっちは芝居を見たいから来ているわけで休憩なんぞいらないから芝居を見に行かせてくれと交渉したのだった。おかげで多数の作品を観ることができたし、舞台稽古から観察することもできて、こういう作り方してるのかあ、といい勉強になった。日替わりで演目が変わるって、当時は全く意味が分からなかったのだ。

正直、この演劇祭で上演される作品の多くはインディペンデントで実験的なものが趣味な僕の好みを外したものが多いし、実は結構いろいろな問題があるのではないかと個人的には思っている(例えば、街ぐるみで演劇祭を待望している一方そこにロマ人は含まれていないとか、いまだに白人男性中心を引きずっているのでは? とか、あるいは、こういう場で言うと各方面に喧嘩を売ることになることなど)。

しかしまあ、それはそれとしてとても魅力的なので、機会があったらぜひシビウに行ってほしい。以前はEUジャパンフェストからの出資でボランティアを派遣してたが、現在は、コカコーラのスポンサードでボランティアが派遣されている。ボランティアじゃなくても、普通に、演劇なんか全く興味ない人が観光で行っても楽しめる。シビウは美しい街だし、ご飯も美味しい(と、他の人も言ってる。僕は基本的にごはんに興味がないから正直よくわからない)。6月のシビウは暖かく、乾いていて、まるで天国みたいな気候だ。そんな街で「町おこし」みたいなケチ臭い文脈じゃなく、真っ当な意味で演劇祭に盛り上がっている姿は、なかなかに感動的である。

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シビウの思い出についてはいくらでも書けるのだけれどもそんな前置きはおいといて、30宿30飯のお礼に今回配信されるオンラインプログラムを紹介する。

結局、オンライン配信って、いくら見れる環境にあっても説明とか文脈を知らないと見る気にならない。しかも、シビウのストリーミングは膨大な量があるのでなおさらだ。

時間は日本時間。特記しているもの以外、ほぼ全て英語字幕付き。

シルヴィウ・プルカレーテ作品

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シルヴィウ・プルカレーテ(Silviu Purcărete)という演出家は、この演劇祭を運営しているラドゥスタンカ劇場の大規模な作品をたくさん手掛けている演出家。日本でもリチャード3世をやったりしているし、公演中止になってしまった桜姫東文章も彼の演出。毎年、フェスティバルのメイン作品として位置づけられてる「ファウスト」も彼の演出によるもの。僕自身はファウスト4回か5回見て、あと彼がやったオイディプス王も2回見ているだけだが、悪夢みたいにちょっとグロいのと、ドーン、バーン、という(サーカス的)快楽が特徴なのだろうか。それが好きかと問われたら口をつぐむしかないが……。彼の作品は、「桜姫東文章」「リチャード三世」「ゴドーを待ちながら」などが配信される。

CARNIVAL STUFF
14日20時半〜/15日8時半〜

ゴドーを待ちながら 
15日23時〜/16日11時〜 

リチャード3世  
18日2時〜/18日14時〜

桜姫東文章  
20日2時〜/20日14時〜

ルーマニアの現代劇

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もちろん、ルーマニア人がプルカレーテのような規模の大きな作品ばかりを作っているかといえばそんなことはない(そもそも金のない国なのだから、そんな予算はないはず……)。Radu Afrimという人はよく名前を聞く人で、調べたら50歳くらいの演出家。僕が行ったときには学校の体育館を使った劇場で「TATOO」という作品を上演していた。端正な現代劇で好感を持った記憶がある。

そして、もう少し下の年代だとBogdan Georgescuという人がいる。たしか30代後半くらいだったはずで、2015年にはSNSをテーマにした、学生が登場人物の作品「ANTISOCIAL」を上演していた。これも、微妙な関係性がきっちり作られた小さな室内劇だった。エンディングにシガー・ロスを使ってて、僕が提唱している「とりあえずシガー・ロスをかけておけば大抵の作品は丸く収まる説」がルーマニアでも立証された。

Radu Afrim 作品
THE DRUNKS
13日 21時45分〜/14日 9時45分〜 

Bogdan Georgescu作品
ANTISOCIAL
15日20時〜/16日8時〜
(ただし、ルーマニア語の音声のみリーディングパフォーマンス……)

ダンス作品が多い

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英語が堪能な人ならいいけど、やっぱり、英語字幕を追うのは大変なので、ダンスは観るのが楽。シビウ演劇祭がダンスについてはあまり強かったという印象はないのだけれども、今年のストリーミングを見たら、アクラム・カーン、シディ・ラルビ・シェルカウイ(森山未來と一緒にやっていた人)、サシャ・ヴァルツ、金森穣といった名前も観ることができる。フェスティバル自体が変わったのかそれとも、オンラインだからなのかはよくわからない。

上記の他にAmir Kolbenやフラメンコのロシオ・モリーナ、ダンスといっていいのかあんまり良くわかってないのだけどニードカンパニーなど。これはダンスだけでなく演劇でもそうだけれども、シビウでは最先端の刺激的なもの、というよりも、評価が定まった作品が上演される印象がある。しかし、毎年100作品以上が招聘されていて、いかんせん数が膨大なので、中にはとんでもなく毛色が違う作品も混じっていた。自分が見た範囲で言えば、ギリシャのダンサーのソロ作品は、圧倒的に実験的で魅力的だった。きっと間違って呼んでしまったんだろうと思う。

アクラム・カーン
CHOTTO DESH
16日 1時〜/16日13時〜

サシャ・ヴァルツ&ゲスト
KÖRPER
14日 1時〜/16日13時〜

ロシオ・モリーナ
CAÍDA DEL CIELO
16日4時〜/16日16時〜

シディ・ラルビ・シェルカウイ
DUNAS
20日0時55分〜/12時55分〜

ルーマニアのダンス

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ルーマニアにもコンテンポラリーダンスはもちろんあって、例えばブカレストにはNational Dance Center Bucharestなんていうのもある。ただし、ルーマニアのダンスシーンはね……と語れるほどこちらは知悉してない。

よく名前を聞くジジ・カチュレアーノについても、あんまりよく分からないのだけれども御年78歳で、きっと大御所のような位置づけなはず。作品を見たことがあるような気がしたのだけれども、調べてみたらどうも別の振付家だった。

ジジ・カチュレアーノ振付
TRAGICOMEDY
16日23時50分/17日11時50分

↓別の作品だけど、トレーラー


日本の作品も配信される

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わざわざ日本からボランティアを派遣しているのもあってなのか何なのか、日本のカンパニーは毎年いくつか呼ばれている。例えば山の手事情社青年座(青年団ではない)燐光群などが呼ばれていたはず。だいぶ前だけど、かつては地点もシビウで上演している。日本枠みたいなものがあるんじゃないかと思うけど、詳しくは知らない。業界政治的な事情があるのかしら?

今年配信されるのは、串田和美、野田秀樹、金森穣、山本能楽堂など。串田氏はこのフェスティバルの中心となっている国立ラドゥ・スタンカ劇場と共同制作をしていて、かつて、安部公房の「友達」をルーマニアの俳優を使って上演していたのを見た。 ※調べたら「幽霊はここにいる」の間違いだった

野田秀樹
ザ・キャラクター
12日21時〜/13日9時〜

串田和美
MAN EQUALS MAN(作・ブレヒト)
13日17時50分〜/14日5時50分〜

山本能楽堂
土蜘蛛(THE GROUND SPIDER)
21日 18時半〜/22日6時半〜

金森穣
R.O.O.M. – RANDOM. ORGAN. ORIENTED. MONSTER.
- Experimental dance series vol.1
19日4時20分〜/19日16時20分〜

ドイツの作品

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シビウは12世紀にドイツ人がつくった街ということもあり歴史的にドイツとつながりが強く、ラドゥスタンカ劇場でもドイツ語演劇部門があるくらいだ。だからなのか、ドイツから招聘している作品も多い印象(あくまで印象かもしれない)。オスターマイヤー(ただし、これはロシアの劇場の製作)、ペーター・シュタイン、前述のサシャ・ヴァルツなどなど。

トーマス・オスターマイヤー
令嬢ジュリー
19日2時40分/19日14時40分

ペーター・シュタイン
三人姉妹
17日2時半/17日14時半

レジェンド枠

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西洋演劇史の教科書に載っているようなレジェンドの作品も配信される。ロバート・ウィルソンは「浜辺のアインシュタイン」などで有名な人で、80年代に「ポストモダン演劇」「イメージの演劇」などと呼ばれ一世を風靡した。昨年、利賀村で公演をしていた。

ユージニオ・バルバはデンマークでオディン劇場というのをやっている人。グロトフスキーの演劇実験室で学び、南米やアジアを旅しながらそれまでとは異なった身体のあり方を生み出した。

ユージニオ・バルバ
UR-HAMLET
18日 0時45分〜18日12時45分〜

ロバート・ウィルソン
MESSIAH
22日3時40分〜/22日15時40分〜

舞台作品以外のジャンル

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劇場作品じゃないストリートパフォーマンスやヌーヴォーシルクみたいなものもやっていて、それも配信されるのだけれども、そちらに関してはさっぱりわからない。

フェスティバル期間中は、いろんなことが行われていて広場で野外映画の上映も行われていた記憶があるし、多分フェスティバルの公式じゃないけれども、バーみたいなところでなぜかPULP(90年代ブリットポップのバンド)のドキュメンタリー映画を見た。

今回、ふじのくに世界演劇祭でも上演されたミロ・ラウのHATE RADIOという映像作品が配信される。コロナ禍の中で、あちこちで演出家のインタビューを見ていたのだけれども、いちばん顔を見たのがミロ・ラウだったような気がする。

ミロ・ラウ
HATE RADIO
19日5時5分〜/19日17時5分〜 

その他

この他に、シェイクスピアは「尺には尺を」「コリオレイナス」をやったり、チェーホフは「三人姉妹」「結婚申し込み」などをやったりしている。推測だけど、テキストを解体したり、テキストの核を掴んで翻案したり系ではなくきっちり戯曲を上演するものだろうから、邦訳を参照しながら見れば、ある程度楽しめるんじゃないかと思う。あるいは、毎日子供向けの作品も配信している。

その他にもフォーラムが開催されたり、オンラインの特別作品みたいなものもやられるっぽい。

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