ふたりだけの幸せのために

小さいころは本を読んでは、ワクワクしながら余韻に浸り、とにかく本を読むのが大好きだった。でも、それは私だけの世界で、他人に共有したいとも思わなくて、人と感想を話し合うことも苦手だった。おかげで、言語化する能力が自分は弱い、そんな気がする。言語化以前に、考える力がないというのもあるけれど。そのため、これからは乏しい語彙力であっても、チープな感想であっても、これからは何かを書き綴ろうと思う。

今回読んだのは『流浪の月』という本。好きな女優さんが映画をするとのことで、手に取った。少女が誘拐されるお話と聞いていたから、とても残価国で重たくて、暗いお話を想像して、実際そうだったけどそれでも温かい物語であった。流浪の月...さまよう月。居場所が見つけられずにいる二人の物語。

とはいえ、二人は物語の序盤で居場所を見つける。二人の世界は、互いにとっての居場所で、二人は幸せを感じている。さらに言えば、誰も傷つけていない。それなのに、二人だけで完結する世界は、許されない。認められない。

「真実と事実は違う」という言葉はこの小説に幾度も登場する。そういえば今放送中のドラマ『ミステリーというなかれ』でも似たような言葉はあったっけ。「事実は一つでも、真実はたくさんある」「人によって真実は違う」。いずれも印象的な言葉であり、核心のついた言葉だと感じる。

私たちは人の見た目、もう少し踏み込んだとしても言動で人を判断してしまう。言動の裏を読むなんて私たちはエスパーではないから不可能なのだ。文は更紗を無理やり家に連れて帰ったわけでもなく、雨に打たれ居場所のない少女に同情して声をかけた。更紗にとって文は恩人であったのに、外観だけから判断すると、文は更紗を誘拐した犯罪者。この事実が二人を引き離す。この小説はとても大事なことを訴えようとしていた気がする。

個人的には更紗と文の心理描写が好きだった。序盤は三人称、その後ほとんどは更紗が一人称で物語が進む。最後の方にやっと文の気持ちや真実が明らかになるが、そんな構成もまたよかった。そして、何より、終わり方が好きだった。ハッピーエンドといっていいだろう。

本の終わり方ってすごく難しいと思う。本来はその後続く物語をどう終わらせるか、難しい。読者の手に委ねられる物語も嫌いじゃない。いろいろ考えさせられる。だけど、その場合どうしても着地点を見つけるために妥協したり、あきらめたり。逆にハッピーエンドってもはや逃げな気もするけど、それでもこれも嫌いじゃない。

ページをめくるにつれて、表紙からの厚みが増え、終わりへと近づくのを感じる。紙の本を読むのってすごく楽しいなと改めて思う。とはいえ、アニメを視聴する方が楽だから、そっちに引っ張られてしまうけど...。

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