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小説『夜明けのすべて』

 苦しさに、痛みに、不安に、そんなものに苛まれて眠れない夜がある。疲れて眠たい時は瞬時に夜なんて過ぎ去ってしまうのに、そんな夜に限って長く終わりの見えないものに思える。人生そのものに夜のように陰りが出てしまうと。悶々と夜明けを待つように、人生の夜明けを待てばよいのか、はたまた人生の終わりを待つべきなのか。

 本作は夜明け前を生きる人たちの物語である。終わりの見えない病気のことである。PMSとパニック障害、そんな病気を抱える2人はもう治ることのないかもしれないそれらと共に生きていくことが強いられる。パニック障害を抱える山添くんは陰りのせいで、全てを悲観的に捉える。好きなものを忘れ、生きる希望を失う。自分を変えてしまった病気を受け入れきれないながらも、それでもあらゆる場面で自分を支配する症状を抑えるため、行動範囲を狭め薬を投与して、ただただ生きている。

 ただでさえ人間関係とはめんどくさく、ときにそんなものいらないのではないかと思わせてくるほどややこしい。病気を抱えるともなると、なおさらだろう。少なくとも友人を増やそうという行動に走ることはあるまい。でもそれもあってか、意識が自分と自分の病気、そればかりになってしまう。

物語を通じて大きく藤沢さんと山添くんの環境が大きく変わることはない。それでもこの物語を通じてる救いを感じるのは、2人(特に山添くん)が誰かに対して心を開き、誰かのためを想って行動を始めたからだろう。二人は、自分の病気は治せなくても、相手を助けることはできるのではないかと思うようになる。

自分の病気に目を向けたり背けたりするのを一旦やめて、相手を見るようになる。『そしてバトンは渡された』でも一心に娘を愛し続ける母の姿が描かれた。いずれも人と繋がることの大切さ、素敵さをしみじみと感じられる作品だ。

同じく最近読んだ『正欲』という本。これについてはまた別の機会に感想を書き連ねたいが、
『夜明けのすべて』『正欲』の2作品を通して強く考えたのが:

誰もが幸せな社会なんて築くことは難しい。

それでもやっぱり誰かと繋がれているという幸福感誰もが味わう権利があり、

誰もが味わえるべきなのだ。

それは完璧に誰もが幸せな社会ではないとしても、せめて明日を生きようと前を向いて歩くことが誰だってできる社会であるべきだ。

自分もそのように誰かの居場所となる存在でありたいな〜と思う。

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