『友人の本棚~1分で読める感想文~』Vol.69「ホワイトラビット」
若干、頭が混乱している。バラバラになっている状態のルービックキューブを一瞬にして全面揃えられてしまったような、あっけにとられた感覚。もう少しゆっくりお願いします、そう言いたくなった。
新妻を誘拐されて焦る兎田孝則。ある男を捕まえるために侵入した家には、様々な事情を持った人々が入り混じっていて、色んな角度からその謎の解決に迫っていく。警察vs籠城犯vs泥棒。特に後半になるにつれ、物語のスピード感が制限速度を超える。
引用は、直接関係のあるような、ないような、そんな心の描写が気になった一幕。
それ以降、夏之目課長にとってはどのような感情も、白いキャンバスに水で絵を描いているようなものに違いない。いつだって課長は、ふりをしている。楽しいふりを、悲しいふりを、生きているふりを、昔の自分のふりを、だ。
ネタバレになりそうなギリギリのラインなのだけれど、本文の横道にそれる解説になぞらえてちょっとだけ気取ってみる。楽しいふり、悲しいふり、生きているふり、昔の自分のふり。もちろん課長にはそうせざるを得ない背景があるのだけれど、もしかすると多かれ少なかれ、僕らも何かのふりをして生きていることはあるのではないか、いやむしろ何かのふりをしていないことがないのではないかと思った。
僕らは一体、何のふりをしているのだろう。誰のふりをして生きているのだろう。少なくとも僕は今、作家のふりをしてこの文章を書いている。そう、思いきり気取っているのだ。滑稽にもほどがある。でもいいのだ。そうやってみな、何かのふりをして生きているのだから。
物語の全てを消化しきれずに感想文を書き始めると、ときどきこうなることがある。何かを言っているようで、実は何も言っていないということが。それでもただこうして筆(というかキーボードだけれど)を走らせているだけで、なんとなくそれっぽくなるから不思議だ。
貴重な1分をこの文章に費やさせてしまったことは素直に申し訳ないと感じつつも、それでも何か最後にお伝えできることがあるとするならば、それはたった一つだけ。
全てを、疑え。
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