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『友人の本棚~1分で読める感想文~』Vol.57「夢を売る男」

怖い。読み終えたとき、これが一番正直な感想だった。

出版業界の裏側。帯のタイトルにも
「一度でも本を出したいと思ったことがある人は読んではいけない!!」
と書いてある。その通りだと思った。

「そこまでやるんですか」
「当たり前だ。著者は百万円以上の金を払ってるんだよ。泣いて見せるくらい安いもんだ。俺が悔し泣きすると、たいていの著者は逆に感激するよ。そこまで思ってくれる編集者に出会えて嬉しい、と言って泣き出す著者もいる。そうなればこっちのものだ。上手くいけば二冊目もうちで出版してくれる。俺はこれまで同じ著者に四冊出版させたことがある。総額で七百万円は出させたかなあ」
荒木は肩をすくめた。
「繰り返すがー」と牛河原は言った。「俺たちの仕事は客に夢を売る仕事だ」

作家の疑似体験をするのに、いくら払えるだろうか。10万円? 20万円? 人によって違うかもしれないけれど、一生に一度の思い出として、自分の本を出版するためにお金を払っても良いと思う人は一定数いる気がする。ただし、「記念出版」とすると、どうしても「遊び」の要素が含まれるため、100万円以上は難しい気がする。敏腕編集の牛河原氏はその辺りを熟知していて、「よりリアルな作家体験」を売っている。決して騙している訳ではなくて、本気で疑似体験させるから、たとえ高額であってもそこにプライドを持って取り組めるのだと思った。

僕は以前、パチンコ店で働いていたけれど、思えばパチンコも夢を売る商売だ。本書でも出版を「ギャンブル」という言い方をしていたけれど、ギャンブルは「夢」を売る商売だ。だから、高額になればなるほど本気になり、それにのめり込む人がいて、社会問題化される。しかし、本来「のめり込む」ほど楽しいものなのだから、「のめり込んでもいい」ものに対して「のめり込む」ことが重要ではないかと思う。例えば「健康」にのめり込んでもいいし、「読書」にのめり込んでもいいし、「社会貢献」にのめり込んでもいいし、「やった方が良いこと」であれば大いにのめり込めばいい。

結局、「のめり込みたいもの」を自覚して、自らの意思と意図をもって「主体的にのめり込む」こと。これは人生を楽しくする上で、とても重要な心構えではないかと思う。

僕も書くことにのめり込みたい。今はそんな気分だったりしています。

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