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「その種牡馬、Mがすでに答えを出しています」 ~哲学とギャンブルが錯綜する、リアルで生々しい実例~


 今回は、『ウマゲノム辞典』でまだデータが少なく詳細な解説がなかったドゥラメンテ産駒とモーリス産駒の、穴馬券の具体的な狙い方最近読んだ本の紹介(『その悩み、哲学者がすでに答えを出しています』)、そして実践編としてスプリンターズSのリアルな予想ドキュメント=生Mも、お届けしようと思う。

 ドゥラメンテとモーリス。共に今年の3歳が初年度の種牡馬だ。
 しかし、この2頭のタイプは全くの正反対で、「揉まれ弱いがパワー豊富なタイプ」×「闘争心が旺盛でしぶといタイプ」という図式になる。
 そのため、前走からの距離短縮や、前走からペースアップしたときの対応など、真逆になることが多いので、分析は面白い対比となるだろう。もちろん馬券的にも、全く逆の穴パターンになる。


『その悩み、すでに哲学者が答えを出しています』という、長いタイトルの本を聞いた
 

 と、その前にウォーミングアップとして、最近読んだ(聞いた?)本を、私の著作の裏話も少し交えながら紹介しておきたい。
 前回話題にしたオーディオブックの読み放題に、『その悩み、すでに哲学者が答えを出しています(小林昌平 文響社)』という本があったので、試しに聞いてみたのだが、これがなかなか面白かった。
 この本、たぶん本屋で見たら、手に取ってさえいなかったはずだ。タイトルが長い上に、妙に押しつけがましい。まともな人生を歩んでこなかった類いの人間には、この手のタイトルは気恥ずかしくて手に取りにくいものだ。
 説明調のタイトルの本が多い風潮を考えると、こういう感じのが、最近はよく売れるのだとは思うけれど(このブログの見出しもそうだって?)。
 そんな感じでやや懐疑的に本を聞き進めていったのだが、次第にこのタイトルは筆者が考えたものではないのでは?という思いが強くなってきた。編集者が、売れるタイトルを付けたのかもしれない。文章から受ける静さと、そのタイトルが、やけに合わないではないか。
 本のタイトルは、小説でもなければ、案外著者は考えないのではないだろうか?


 本のタイトル、自分で決める? ~私の場合~

 私も、昔は父と同じような年の編集者にタイトルを決められると、そのままつい受け入れてしまったものだ。章の見出しとかも、余程本文の趣旨と乖離していない限り、そのまま受け入れていた。
 また年を取れば取ったで、今度はこだわりみたいなのがなくなって、妙に達観してくるので、「それでいいんじゃないかな」と、やはりそのまま提示されたものを受け入れることが多くなる。今回の『ウマゲノム辞典』も、サブタイトルを考えたのでそっちをタイトルに入れようか?という話をしたが、「いや、年代を入れておきましょうよ」と言われたので、そんなもんかと、そのままあっさりと受け入れ、今の『ウマゲノム辞典 2021-2022』に落ち着いた経緯がある。
 自分でタイトルを付けてそのまま通した最近の本は何かと思い返してみると、『短縮×逆ショッカー(ガイドワークス)』は、私が決めたものだった。
 そう考えてみると、なるほど案外筆者の方が暴走気味に妙なタイトルをつけたがるもので、『その悩み、すでに哲学者が答えを出しています』というタイトルも、一周回って本人がノリノリになってつけてみた、敢えて今風の扇情的なタイトルだったのかもしれない。
 このタイトルから、自己啓発的な、あるいは説教がましい内容を想像する人も多いのではと思うが、実際に聞いてみると違っていた。
 真摯に、そして丁寧に先人の思想を紹介していて、そこには思索をするものへの愛おしみさえ、感じられた
 そこで今度は、実際にこの本を電子書籍で開いて見たのだが、思わずびっくりしてしまった。開いたページには、太字や大文字が多用され、やけにごちゃついて、参考書的な作りになっていたのである。
 なるほど!これなら説明調のタイトルも、合点がいくというか、むしろ本文にピッタリだ。
 音声で聞いているときは、文章に静寂感すら感じたのだが、あれはもしかしたらナレーションの声色のせいだったのだろうか?
 ただ、そういった太字や大文字の装飾に意識をもっていかれないように読んでみると、世の中を流れていく物事と人間の生へ対する、筆者の丁寧で優しいまなざしが、朗読を聞いていたときほどではないにしても、なんとなく伝わってきた。
 それにしても、作品に触れる媒体によって、こうも受ける印象は違うものなのかと、改めて考えさせられる本でもあった。


竹林


 神無き時代。背筋を伸ばして、生きてみる

 肝心の内容はというと、そのタイトルや、参考書的な作りから、何かの悩みを具体的に解決して欲しいと期待して読むと、がっかりするかもしれない。
 何か具体的な解決を求めるのではなく、読み切った後、少し背筋を伸ばして、新鮮な空気を思い切り吸いたくなる、そういう思考のリセットをするには、なかなかの良書ではないだろうか。
 
 今回はその中から、承認要求についての章を、少し紹介しておきたい。
 この章では、「現実に存在する個人(小文字の他者)」に認められるにとどまらず、「象徴的な大きな他者、神(大文字の他者)」に認められて始めて、人は真に承認要求を満たすことが出来ると、ラカンの思想を中心に解説している。
 つまり、知り合いや世間の評価とかそういうことでなく、もっと大きな存在に認められる生き方こそ、本人が真から満たされる生き方になるという話だ(となると、このブログは本の指摘にもあるように、まさに「小文字の他者」に対して書いているのでは?と心配にもなってくるところではある。だが、それは大丈夫。このブログは、「大文字の他者、神(競馬)」へ、あなたと共に、これからひたすら、遙かなる旅へと向かっていくのだから)。
 その後、文章は続き、ヘーゲルの話へと移っていく。

 ヘーゲルは神なき時代に人が虚しい気持ち(ニヒリズム)におちいることなく、近代を発展させていくプロセスをこのように解き明かしました。神にかわって理想像を追い求め、各ジャンルの表現が洗練される終りなきプロセスこそ、現代人が生きがいを求めることのできる道です。
 気が遠くなるほど途方もなく、だれがほめてくれるかもわからないような事業に、やれるところから着手する。~後略   『その答え、哲学者がすでに答えを出しています(小林昌平 文響社)』


 そうだった・・・。
 それは遠い昔、競馬のシステムに一から向かい合って格闘した、まさにそのときの自分の姿ではなかったか。
 そして敢えて今、ここで「小文字の他者(現実に存在する個人)」、つまりこれを読んでいるあなたに、私は競馬のもう一つの有り様を語らい、同じときを生きようとしている。それはまた、わたしたちが存在する世界へ向けての、「新しいプロセス」になるだろう。

 

夜景

 ギャンブル ~リアルで直接的な実例~

 最後に、競馬好きの私たちにやけに刺さる部分を引用して、この本の紹介を終えようと思う(脚注部分、植島氏の『運は実力を超える』から引用しての解説になる。様々なジャンルを横断し、面白い本を教えてくれるのも、本書の特徴だ)。

 文化人類学者クリフォード・ギアツ ~中略~ はそこで、闘鶏に熱狂する男たちが賭博をする際、闘う鶏に自分を感情移入させ、同一化するだけでなく、ギャンブルという論理だけではとらえきれない奥深い領域にふれることで、鶏と鶏が闘うこの世界を支配する「見えない大きな存在」を感じ、それとも一体化するのだ、という指摘をしています。それはいってみれば、「勝負のゆくえは神のみぞ知る」の「神」でしょう。「大文字の他者」を生々しく感じる、リアルで直接的な実例です。  


 この後の、「スプリンターズS ドキュメント編」で、まさにこの闘鶏の、リアルで生々しい現代的な現場を、私たちは直接的に感じとることになる。

 
 ドゥラメンテ産駒の激走タイミング=確定オプション発表!

 ドゥラメンテとモーリス。
 この2頭は、最新版の『ウマゲノム版種牡馬辞典』作成時にデータが十分でなかったので、オプション表が「暫定版」になっていた種牡馬でもあった。
 そこで今回は、正式版のオプションを発表することにした。それが、タイトル写真に掲載した冒頭の表である。
「オプション」とは、種牡馬が激走するタイミングを目に見える形にしたものだ。例えば短縮が決まりやすい種牡馬なら短縮を示す「短」がAになる。逆に前走より距離が短くなると嫌がる種牡馬の「短」はDになるというわけだ。 
 オプションは、データ分析と種牡馬のタイプ(心身の性質)によって決められる。揉まれ弱い馬だと、前走より忙しい流れになって揉まれるリスクが増す「短」はC以下になることが多く、逆に広いコース向きの「広」はB以上になりやすい。また少頭数を示す「少」や外枠を示す「外」も、揉まれにくいので高評価になることが多い。
 この表を見ると、「短」がDで、「延」がB。内枠の「内」がDで、外枠の「外」がBだ。どうも、ドゥラメンテは揉まれ弱いMのL系(タイプは用語解説参照のこと)の匂いが漂っている。
 また、今回新しいデータが蓄積したので再計算した「ラップデータ(最新版のウマゲノム辞典で採用された指数)」では、前走より前半が0.5秒速いと0.5秒遅いケースよりも、かなりパフォーマンスが落ちることも分かってきた(前走より前半が0.5秒速いと単勝回収率77円、遅いと単勝回収率104円)。
 これが後で詳細するモーリスになると、全くの正反対になる。実に興味深い2頭なので、早速ドゥラメンテの具体的な馬券ポイントから分析していこう。

 ドゥラメンテ産駒の狙い時を、タイトルホルダーを見ながら、具体的に

 最新版の『ウマゲノム辞典』でのドゥラメンテ産駒の解説を抜粋すると、
「体力とパワーに溢れ、揉まれてブレーキを掛けるのは苦手なので、逃げ、先行や追い込み、捲りなど、極端な競馬に向く」とある。また、「上がり勝負も矯めるだけ矯めたり牝馬だと対応出来るが、基本は体力勝負の流れに向く」ともある。したがって、「少頭数や外枠、広いコース、ばらける道悪など、スムーズに走ってねじ伏せられる競馬での適性は抜群に高い」。
 以上が、おおまかな解説だ。

 では、これらの解説やオプションは、具体的に馬券検討でどのように使うのだろうか?
 まずは代表産駒のタイトルホルダーで確認してみよう。

タイトル2

 同馬の初重賞勝ちは、10頭立てと少頭数の弥生賞。かなりのスローになって、気分良く逃げての勝利だった。「少頭数」の「スロー」を逃げるという、解説通りに、「ブレーキを掛けず、ねじ伏せる競馬」での強さを見せつけた格好である。
 スローでも中山2000mなので上がりが掛かって、逃げることで自慢の「体力勝負」に持ち込めたのも良かった。ただここまでは、実は辞典の締め切り前にあったレースで、解説通りなのは当たり前と言えば当たり前になる。
 そこで、締め切り後の皐月賞以降のレースも見てみよう。
 皐月賞は、前走の少頭数から多頭数替わりだったが、前走4番枠から13番枠へと外に移り、展開もスローを2番手から先頭と、まさに「ブレーキを掛けることなく」レースを進められたので2着に好走した。同距離弥生賞でスローを逃げた後の多頭数だったので、これが仮に内枠でペースアップすれば、嫌がって凡走していただろう。
 またこの皐月賞は稍重で、ばらけやすく、体力も必要な状況だった。『ウマゲノム辞典』で解説したドゥラメンテ産駒の好走条件が全て揃っていたわけだ。
 続くダービーも、広いコースへ延長で向かうので、揉まれにくくなったのはプラスだが、皐月賞の前半36.3秒から一転、前半35秒とペースアップしてスムーズに先行出来なかった為、揉まれてブレーキを掛けるシーンが出現し、善戦するも6着止まりに終わった。
 そして記憶に新しい、この秋のセントライト記念だ。
 得意の中山替わりということで、1番人気に支持された。ところが、前走広い東京の14番枠から、今回タイトな中山の7番枠と内目に移行し、しかも苦手な距離短縮だ。さらにレースでは、前半こそ速くなかったが道中で一気にペースアップし、前走以上に道中ブレーキを掛けないといけない流れになってしまって、13着に惨敗したのだった。
 もし今回、縦長の展開や平均した流れになって、途中から出入りが激しくならなければ、ブレーキを掛ける必要もなくなるので、好走していただろう
 このように馬は、「中山」とかの得意な条件といった競馬場や距離などの固定された設定よりも、前走よりタイプに即した、走りやすい競馬になるかどうか?で結果が大きく変わる生き物なのだ
 その気分良く走れる競馬というのが、ドゥラメンテ産駒の場合、如何に前走より「ブレーキを掛けずに体力勝負に持ち込めるか?」に重点が置かれているのである。


 キングストーンボーイは何故青葉賞で好走し、神戸新聞杯で凡走したのか?


キングストーンボーイ2

 次に青葉賞2着のキングストーンボーイも見てみよう。
 相手強化で2番枠だった共同通信杯を4着後、青葉賞は600mの延長で10番枠と外に移行したので、広い東京も相まって、他馬のストレスを受けず2着に好走。
 その次走、この秋の神戸新聞杯では、短縮で3番枠に入り、スムーズに競馬が出来なかったので5着に終わった(ドゥラメンテ産駒はパワーを活かせる重い馬場は向くが、悪化しすぎるとあまり得意ではなく、稍重が理想になるので覚えておきたい。そう、この日は雨が降りすぎた)。

 以上のように、前走より道中スムーズに追走出来ると好走し、前走より「揉まれた」と感じると凡走するのがドゥラメンテの特徴になる。
 こういうタイプ(L系)の場合、基本的に短縮よりも延長を好む。
 実際、ドゥラメンテ産駒の芝短縮の単勝回収率は26円で、延長は69円と、短縮では期待値がグンと下がる
 また、前走より前半がペースアップするとパフォーマンスがダウンする種牡馬だけに、余計に前走よりペースの上がる確率が高い短縮は期待値が下がるわけだ。


 ドゥラメンテ産駒が苦手な短縮+ハイペースで、逆に激走するツボとは?
 

 だが、もちろん確率は落ちるもののゼロではないので、短縮で走るケースも少なからずある。
 では一体、どういう瞬間に短縮で激走するのだろうか?
 実はドゥラメンテ産駒が、自身の適性距離よりい短い芝1200mの2勝クラス以上で連対したレースは、現時点で3回あるのだが、その全てがなんと短縮だったのだ。しかも、そのうち2回は異常なハイペースである
「え?話が全然違うじゃないの」と思われるかもしれない。そこで早速、それが具体的にどういったものだったか、確認していこう。

アスコルターレ2

 1つめは、今年2月のマーガレットSに出走したアスコルターレ。
 前走はGⅠフューチュリティSで、1600mなのに前半33.7秒という超ハイペースになった。しかも16頭立ての10番枠と中枠。前走が得意の少頭数で前半35.2秒のスローで流れた1400mを勝った直後のドゥラメンテ産駒には、「ペースアップ」、「多頭数」、「相手強化」と、前走と比べてスムーズに自分のペースで走れないという、嫌なことが重なり過ぎていた。その為、惨敗に終わる。
 マーガレットSは一転、11頭立ての「少頭数」で、「外目」の6番枠。揉まれず、自分のペースで走ると強いドゥラメンテ産駒には、有り難いお膳立てが揃っていた。しかも出遅れて最後方。11頭立ての最後方だから、全く揉まれる心配はなく、自分のペースで走れる。
 さらには前半33.0秒という超ハイペースだ。苦手な前走からのペースアップだが、この場合はむしろプラスになる。
 というのも、ドゥラメンテ産駒が前走よりペースが上がるのを嫌がるのは、自分のリズムで走れないからに他ならない。ところが、少頭数のハイペースなら馬群はむしろばらけやすい。しかも最後方だから、ハイペースでも揉まれることなく、ノーストレスで追走出来る。
 そして最後は外に出すという、終始ストレスのない競馬で、完勝したのだった。
 ドゥラメンテ産駒は元々、体力とパワーが豊富で、短距離戦のメンツなら尚更、その体力面でのアドバンテージは大きい。
 だから、揉まれず自分のペースで走れるのであれば、むしろハイペースで消耗戦になってくれた方が、相対的に体力を活かせて有利になるのだ。
 これがもし、短縮1200mで中途半端に前走より速い程度のペースで、出入りの激しい流れになって道中揉まれていたら、あっけなく投げ出していただろう。

フォルヴォーレ2

 2つめのケースは、夏の小倉、雲仙特別という1200mの特別に出走したフォルヴォーレ。
 今度は18頭立てのフルゲートで、前走1400mからの短縮での出走だった。ただ多頭数でも、18頭立ての18番と大外枠をひいていた。
 このレースもペースがもの凄く、前半32.2秒(表の「前半」は、自身のラップではなくレースの前半3ハロンラップ)という、2勝クラスの1200mでは滅多にお目にかかれないほどの、超ハイペースになった。
 同馬の道中は、14番手とほぼ最後方の外。そのまま全く揉まれることなく、大外を回って、ハイペースの小倉特有の外差し競馬に嵌まって勝ち切ったのである。
 全く、先ほどのマーゲレットSと構造は同じだ。短縮でも揉まれない形で、体力勝負になったのだ。
 これが同じハイペースでも、6枠くらいの好位で競馬をしていたら、惨敗していた確率が高い。あるいは外枠でも、中途半端に速い流れになって道中好位を追走し、ペースに緩急があったら、やはり小回りの短縮1200mで慌ただしく感じてリズムを崩し、凡走した可能性が高かったはずだ。

アヴェラーレ2

 最後のケースは、新潟1200mの飯豊特別に出ていたアヴェラーレ。
 これは今までより、更に単純なものだった。前走が1600mGⅡのNZT。その直前には東京1400mの超スローを自分のペースで走って完勝した馬だ。それがNZTでは16頭立ての3番枠と多頭数の内枠。前走も多頭数の内枠だったが、東京の1勝クラスで、しかもスローだった。そこから一転、中山のGⅡだから、当然前走よりペースアップする。
 NZTはドゥラメンテ産駒が、前走より自分の競馬を出来ないために嫌がる要素が、これでもかと揃っていたわけだ。
 前走が上がり33.3秒を駆使しての圧勝劇の為、ルメール騎乗もあって1番人気に支持されたが、私も6番手に評価を下げたことで、予想を当てられたレースでもある。実際ペースは、前走より1秒もペースアップし、内目で揉まれ込んだが為に、リズムを崩して嫌がり、15着に終わった。
 その後に迎えたのが、今回の飯豊特別になる。短縮でも14頭立ての14番枠と大外だった。さっきのフォルヴォーレと全く同じだ。
 しかも中山GⅡの内枠から、2勝クラス新潟の大外枠に移動だ。前走より自分のペースで走れる確率は格段に上がる。
 その結果、気分ノリノリで走って、2着に好走したのだった。

 ここまで3つのケースを見てきたが、その構造は不気味なほど一致していることに気付くだろう。
 短縮や、前走よりペースアップするのが苦手な種牡馬が、短縮やハイペースで激走する、そのパターンが詰まった3戦だったと言える。
 以上が、「自分のペースで走れないと脆いけど、自分の競馬が出来ると体力(と量)を活かして圧倒的なパフォーマンスを見せる」タイプ、Mのタイプ分けでは「L系」と呼ばれる種牡馬の基本的な激走パターンになるので、是非とも覚えて、馬券に活用して頂きたい。

川

 ドキュメント・生M! ~スプリンターズSから見る、ストレス判断の現場~

 ドゥラメンテの次にモーリス産駒の激走パターンについて詳しく見ていく予定だったが、このブログを見ている読者は、そもそもMの法則をよく知らない人も多いのでは?という気もしてきた。
 そこで、せっかく秋になってのブログ再開でもあり、その前に秋GⅠの開幕戦スプリンターズSを通し、「生のM」、生Mに触れて貰おうと、ドキュメントを掲載することにした。
 後で激走タイミングを解説するモーリス産駒ピクシーナイトが、そのポイント通りに勝ったので、ちょうどタイミングも良いのではと思う。特段予想が大ヒットしたから書くわけではなく、結果はヒットどころかあまりにも微妙なものだった。手を伸ばしても届かなかった、まさに冒頭の闘鶏の現場を覆う大きな影がそこにあったので、私自身の為にも、レース後のメモを残しておこうという思いもある。
 ちなみに予想は、◎7番人気メイケイエール、○3番人気ピクシーナイト、▲2番人気レシステンシアで、間にシヴァージに割って入られて高配当3連複1点目的中を逃し、6点予想の6点目での馬単的中という、何とも言えない結末に終わっている。それではどのように、M的に1頭1頭分析していくのか、その実際を、私の思考過程を追うことで、紹介していこう


 10月2日(土曜)

 ・・・なるほどこれは厄介だ。
 どうにも、人気の3頭が切れない。1番人気ダノンスマッシュは海外帰りで*鮮度があり、レシステンシアは前走が休み明けで2走前が1600mで、しかも1200mはまだ生涯3戦目だ(*Mの法則では、「鮮度」は重要なキーワードになる。一言で言えばその条件に対するフレッシュさを表し、今回のスプリンターズSの場合なら、古馬オープンのスプリント戦線、特に古馬1200m重賞に対するフレッシュさになる。詳しくは「Mの用語解説」参照のこと)。人気馬で一番危ないとしたら、1200m重賞を連続で連対中のストレスがあるピクシーナイトか。まだ1200mはこれが生涯3戦目の3歳馬で生涯鮮度(鮮度にはここ1,2戦の短期鮮度と、もっと長いスパンの中長期鮮度がある)は高いので、切るまではいかないけど・・・。
 3頭を覆すほどの、面白い穴馬はいないのかな?そう思って、次位人気に目を移していった。


 祭りの終わり ~高松宮記念のリベンジがズレた、早すぎた英雄クリノガウディー~  

 4番人気ジャンダルム。ここ2走出遅れて、前走は最速上がりで4着。初1200mの3走前に今回と同じ中山を圧勝していて、「出遅れなければ」と、穴人気の馬だ。M的に見ても、ここ2走が凡走で短期ストレスは薄い。だが、これは直感で危ないことが分かる。M的には結構難しい分析になるのだが、簡単に解説すると、3走前は初1200mへの短縮と鮮度でパフォーマンスを上げて圧勝した馬で、その後さらに2戦も1200mを消化したので鮮度が落ちている。加えて今回は短縮もないので、3走前以上のパフォーマンスを見せる確率は低い。しかも前走は最速上がりで頑張っている。目一杯の競馬で疲れがある状態で、果たしてスタートを決めて好位で競馬をし、なおかつ、そこでもう一伸びするほどの体力ストックが、残っているだろうか?
 無いはずだ。1200mへのステージ変化の恩恵は、既に満喫してしまった後。「祭りの後」なのだ。1200mへの情熱は3走前ほどには望めない。
 5番人気モズスーパーフレアはどうか?
 Mの熱心なファンなら、真っ先に切った馬ではなかったろうか?ダートを4走前に走っているとはいえ、1200m重賞を連続3回で、前走は得意の道悪と休み明けの鮮度で3着に激走だ。しかも、6歳でもう何度も1200m重賞を走っている。あまりにも、今回はストレスがきつい。
 6番人気クリノガウディーはどうだ?
 2,3走前が格下のOP特別で前走が休み明けだから、ストレスはそれほどきつくない。それに2走前は今回と違う1400mだから、そのぶんストレスはさらに薄い。
 そこで何気なく新聞に目を通していた私は、思わず苦笑いしてしまった。「高松宮記念で実質勝っていて、ここでも能力上位」といった内容である。
 そう・・・、私が15番人気で本命にして、1着に激走して降着になった高松宮記念、まさに私の予想が闘鶏場と化したその日だ。
 あのとき、クリノガウディーは初の1200m戦だった。その鮮度もあって本命にしたのである。当時の鮮度を求めるのは、酷な話だろう。ここ3走の好調は岩田への乗り替わりもあるが、やる気を失っていた同馬が4走前にダートを使って惨敗して、生涯鮮度が一度大きくリセットされたからに他ならない。その新たな高揚感も、恐らくここ3戦で終わりのはずだ。
 彼も、祭りの後である。1200mに対する高揚感は、少なくともこのレースでは消えている。
 実は、2走前でリセット効果は終わりだと思って前走は評価を下げたのだが、案外前走も激走して、改めて同馬の底力と中京適性に驚かされたのだ。だからこそ余計に、前走が頑張りすぎで、その反動がある。
 前走が7着くらいの凡走なら、ここがいよいよ高松宮記念リベンジの瞬間だったのかもしれないが・・・


 掛かりやすい馬が掛からない方法 ~メイケイエールを制御せよ~

 7番人気メイケイエールはどうか?
 前走キーンランドCは、同馬が断然人気になってくれたので、7番人気のエイティーンガール(もちろん、彼女は今回は激走後のストレスで危ない)を本命にして、高配当を当てたのだった。今回は惨敗後なのでストレスがなく、古馬相手もまだ2戦目で、鮮度は十分だ。
 3番手か4番手評価だな・・・。
 そう思った。前走よりペースアップしても、恐らく今回も掛かる。掛からないとしたら、スタートを決めて縦長の展開になって、外に馬を置かない形だろう。外に馬がいるとエキサイトして掛かる確率の高い馬だ。ハイペース縦長の4番手で前残りなら、掛からずにゴール板まで駆け抜ける可能性はグンと増す。だが、そのゾーンに馬がちょうど収まる確率は、さして高くない。それでも鮮度と人気薄を思えば、そのポジションに収まる確率に賭けるのは悪い話ではない。穴馬の中では、これが最上位か・・・。
 それともう一つ、前走の休み明けのパドックが、あまりに心身共に、出来てなかったという記憶もあった。思わずパドックを見てズッコけて、エイティーンガールからの勝負度合いを高めたのを覚えている(毎週サイトで掲載しているレース回顧でも、パドックでびっくりするほど太かった話をしたので、覚えている読者も多いと思う)。今回絞れれば、掛かる掛からないは別として、少なくともパフォーマンスは、前走より相当上がるはずだ。


 そして気付いた。ピクシーナイトは案外ストレスがない

 そんな感じで他の人気薄の考察も終え、やはり本命に出来るほどの穴馬は、残念だがいなかった。では、人気3頭で何を本命にするか?ハイペースで前が潰れるリスクを考えると、休み明けで、直近のストレスが最も薄いダノンスマッシュか?昨年も差し競馬を唯1頭、前で粘って2着の馬だ。近走のダッシュ力がやや低下した競馬を見れば、今回はハイペースで少し後ろに控えるはず。展開にも上手く嵌まるだろう。
 だが、Mの直感は同馬が危ないと告げていた。
 昨年は、2,3走前が1400mと1600mで、1200m鮮度が高かった。今年はずっと1200m続きで、一つ年も取っている。崩れないが、短中長期ストレスを考えれば、昨年より一押しを欠きやすい状況だ。
 レシステンシアは、まだ1200m鮮度があるのでハイペース追い込み競馬にならない限りは手堅い。ただ前哨戦で1着して、1200mGⅠも今回が2回目。初の1200mGⅠだった高松宮記念で勝てなかった馬が、今回のストレスレベルで勝てるかというと、展開と相手に恵まれないと駄目だ。果たして、先行馬の多い今回、そこまで彼に展開が見方するだろうか?
 困ったな・・・。
 こういう全ての馬が本命には向かないときは、展開に嵌まり切った馬が激走する確率が高い。ハイペース外追い込み競馬なら、昨年も激走したアウィルアウェイが外枠にいる。この馬は時計の掛かる良馬場のハイペースを最も得意としているので、今回はピッタリの馬場、展開になるかもしれない。しばらく本命にするか悩んだが、やっぱりM的にはおかしかった。
 あまりに1200mを連続して使われ過ぎている
 この状態で外差し競馬だった昨年以上のパフォーマンスを出せというのは、ちょっと酷な注文だ。
 ではまさか、逆に逃げる方、モズスーパーフレアか?
 ビアンフェが逃げなければ、楽逃げまであるかもしれない。それに土曜の前残り馬場を加味すれば、残ってもおかしくない。昨年はビアンフェと競り合って惨敗。2年前は単騎で逃げて2着好走。ビアンフェが昨年の反省から控えれば、得意の単騎逃げだ。一瞬、最初は切ったはずの同馬の本命も考えたが、前述した通り、やはりM的にはあまりにもおかしい。今回のストレスレベルは、展開とかで解消出来るレベルの問題ではないのだ。展開で3着くらいに善戦しても、少なくとも勝ち切る確率は相当低い。 

 そのとき、最初に除外した可能性に突如、気が付いた。
 ピクシーナイトだ。
 ここ2走、古馬1200m重賞を連続連対のストレスで、2,3着に好走しても勝つ可能性は低いと、最初の段階で本命候補から除外した馬だ。
 だがよく考えると、CBC賞は1600mからの大幅短縮で初の1200mに加えて、初の古馬相手という、鮮度満載の状態だったのだ。そのため超高速決着を2着に激走した。当然、次走は精神的にも肉体的にも、大きな反動が出るはず。ところがセントウルSでは反動が出ず、2着に好走した。
 いや、反動は出ていたはずだ。ならばその意味することは、一つ。ここでは能力が抜けているということだ。だから、反動が出ても2着に好走した。逆に今回は前回ほどの反動はない。2戦連続1200mを連対しているが、それまで1400m以上を使っていた馬で、今回は初の古馬GⅠでもある。ストレス面でも、よく考えれば1200mの常連ばかりの古馬達より、むしろアドバンテージがある。少なく見積もっても、同程度のストレスだ。
 それでも、人気で敢えて本命にするほど、そのストレスは薄いだろうか?ここはシビアで難しい判断だ。他の有力馬に乗り越えがたいストレスがある以上、この馬を本命にするしかないか・・・。
 もう一つ、気になる要素があった。アーリントンCの敗戦だ。あのときは阪神の道悪だった。今回もタフな急坂中山で、金曜の雨で馬場も湿って重いままで本番を迎える可能性もある。その馬場状態のハイペースで、前走のストレスを振りほどいて勝ちきれるか?人気で敢えて本命にするには、微妙な判断だ。

月

 野生の生き物の気配が漂う書斎、外から音がする。 ~そのとき、全てが動き始めた~

 そのとき、外から何か音がした・・・。正露丸とハッカの強い香りと、鷲の甲高い鳴き声と、生臭い野生の生き物が息を潜める気配の中(何故私の書斎がこんにも異常な、動物園状態になってしまったのかは、また後で書こうと思う)、窓をみやると雨だ。
 そして稲光。慌てて、スマホを手に取って雨雲レーダーを見る。
 レーダーは真っ赤だ。それが私の家からかなり離れた中山まで続いている。次第に雨は激しくなり、土砂降りになっていった。
 あ、メイケイエールだ・・・。
 私は、今まさにその雷に打たれたように直ぐさま決断した。本命メイケイエール、対抗ピクシーナイトでいける。掛かるタイプの精神コントロールが難しい馬(M3タイプのS系)は、道悪などの特殊馬場の場合、下に意識が集中するので余計なことを考える余裕が無くなり、掛かりにくくなる。そこに超ハイペースが重なれば、掛かるリスクは格段に減る。逆にピクシーナイトは道悪の内枠なら、シンザン記念から、馬場に脚を取られるリスクが怖いので対抗だ。
 勝負レースだけ最初に予想を送らないといけないので、スプリンターズSの予想を送り終えて、他のレースを予想しているときだった。
 突然、激しい動悸がしてきた。
 あ、・・・間違えた。

 もう何十年と予想しているが、こんなふうに予想を送った直後に、動悸を覚えたことはなかった。
 これは、何かが間違えている。それが直感で分かったのだ。
 理論上は、間違っていなかった。もし馬場が完全に乾いたとしても、メイケイエールは最初にシミュレーションした縦長の4番手を取れれば残るだろう。あるいは出遅れ癖があるので、出遅れて昨年のような超ハイペース外差し競馬になっても激走する確率がそれなりに高い。馬群に入らなければ掛かるリスクは少なくなる馬だ。
 人気薄にも関わらず、「道悪」、「4番手」、「出遅れの追い込み」、この激走への三段構えのセーフティーネットを完成させたので、小躍りして本命にしたのである。
 だが、どうも違う世界が明日待ってる感触が、そこにはあった。
 あまりに動悸がするので、なかなか他のレースに集中出来なかったのだが、なんとか終わらせて、予想を送った。

 
  10月3日(日曜)

「何かの手順を間違えた」という感触のままあまり眠れず、朝を迎えた。そして目眩を感じながら玄関を開けて外に出てみると、
 なんだ・・・。
 拍子抜けした。地面が相当ぬれているのだ。やはりあの雨は激しかった。これなら馬群もばらけるし、脚下の悪さで、掛からず走りに集中出来る。
 ・・・あの予感は勘違いか。急に安心感と生暖かい陽気で、何か食べたくなってきた。



ねずっち

 急にお腹が空いてきた筆者の運命は?そして書斎を覆う、不気味な正露丸と野生の臭いと、鷲の甲高い鳴き声。一体、Mの現場になにが起きているのか?! もちろんモーリス産駒の確定オプション、狙い時もお楽しみに! たぶん、1週間後くらいに公開予定です。

 
 
 



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