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受注における失敗を排除するための方策

2020年に勤めていたSIerで炎上プロジェクトが多発した際、作成した文章です。

0.はじめに

受注における失敗を排除するために方策を検討するためには、まず、失敗の原因を明確にする必要がある。
本文章においては、失敗の原因として下記2点を挙げた上で、失敗を排除するための方策を検討する。

<受注における失敗の原因>
[1] 受注が会社の最適点を上回っている
[2] 資源が有効活用されていない

なお、本文章における引用箇所は、後述の「4.参考・引用文献」にて記載する。

1.受注が会社の最適点を上回っている

会社において長期にわたる高度の成長は不可能であり、不健全と考える。そもそも、会社の規模・売上高が大きくなること自体に価値はなく、社会的によい企業になることが正しい目標である。

会社の経営理念を成しえるための、基本的戦略「高利益の維持」は、受注が会社の最適点を上回っている時点で到底達成できるものではない。
身の丈に合わない生活は破滅へ導かれるのと同じ理由である。

本原因による失敗を排除するために、受注計画に妥当な(最適点を超えない)値を設定する方策を検討する。

1.1.会社の最適点とは

あまりに急速な成長は組織を脆弱化する。また、成長は目標ではない。
正しい目標を設定するためにも、会社として必要とされる成長の最小点について検討する必要がある。
ここでいう成長の最小点とは、会社が市場地位を維持するために必要最低限の規模であり、業績に貢献しない活動を切り捨てた結果である。

また、成長の最適点とは、それ以上成長しようとした場合、資源の生産性が犠牲になる(リスクが増大する)点である。
会社の成長は、最小点以上、かつ、最適点以下でなければならない。

1.2.会社における最適点

会社が市場において目指すべき地位は、最大ではなく最適である。
そのためには、我が社の目標を正しく設定した上で、目標を実現するために必要な利益(費用としての利益)を成長最小点とし、目標を実現するために想定されるリスクが許容範囲内となる点を成長最適点とする必要がある。
また、目標を正しく設定するためには、長期計画ではなく戦略計画が必要である。

<戦略計画>
 資源を行動に結びつけるものであり、思考、分析、想像、判断を適用し、以下の観点に留意して策定する
  ・現状からどの程度先を考えるか、そこからいかにしていま合理的な意思決定を行うか
  ・より大きなリスクを負担できるようになることが重要(リスクを最小限にするための計画ではない)ただし、犠牲は最小限にとどめる
  ・トップマネジメントが負うべき責任であり、未来予測ではない

本文章では、現時点の戦略計画に対する検証は割愛するが、過去数年の売上高が増加傾向であるのに対し、経常利益は減少傾向であること、予算額が製造部から提出した値に対し上乗せされた値で強制されている実情から鑑みると、そもそも受注額が適切ではない(リスクが許容できない大きさの案件を受注して売上高を達成している)と思われる。

1.3.失敗を排除するための方策

少人数の大株主が配当の最大化を求めて経営の意思決定を行う企業内での独裁ではなく、社員が自分たちの生産性を「自治管理」および「共同管理」した結果をもとに、我が社の目標を設定しなおし、成長最小点および成長最適点を求め、適切な受注を行う。

本文章では、今後の目標に対する検討は割愛するが、成長最小点および成長最適点を決定するためのプロセスとして、以下を想定する。
なお、生産性の「自治管理」および「共同管理」については、後述の「2.資源が有効活用されていない」にて記載する。

<意思決定プロセス>
 a.問題を明確にする
 b.対立する意見を出す
 c.意見の相違を重視する
 d.行動の結果(効果)がコストやリスクより大きい場合は実行する
 e.意思決定の前提条件となった予測を、現実に照らして検証していくうえで必要なフィードバックの仕組みを考える

成長最小点については、業績に貢献しない活動を切り捨てた結果でなければならない。これは、管理費・間接費が適切であるか検証を行い、ムリ・ムダ・ムラの削減および作業の効率化が必要である。特に管理作業においては、Excelファイルベースの手作業が多く、RPA化やAIを使用した自動化が可能と考える。また、管理能力(後述の「2.2.我が社におけるマネジメント」参照)がない管理者の降格も必要と考える。

成長最適点については、戦略計画において検討したリスク許容範囲内でなければならない。これは、トップマネジメントが負うべき責任であるが、自らの成果たる組織の要求に応えられないのであれば、身を引くことが自らの組織に対する責務である。

2.資源が有効活用されていない

人は最大の資源である。社員に主体的に成果をあげさせる(その人の強みを発揮させる)ことが、資源の有効活用である。

会社の経営理念を成しえるための、基本戦略「高利益の維持」は、資源が有効活用されていない時点で到底到達できるものではない。業績に貢献しない経費が利益を逼迫するのと同じ理由である。

本原因による失敗を排除するために、資源を有効活用する(生産性を向上させる)方策を検討する。

2.1.生産性に影響を与える要因

生産性に影響を与える要因としては、以下の6つが挙げられる。

上記No.1~3については、管理者・作業者が、作業者自身の生産性を把握する必要がある。
上記No.4~6については、管理者が組織としての生産性を把握する必要がある。
また、上記すべての要因が適切になるよう、「自治管理」、および、「共同管理」することで、成長最適点の定量化が可能となると考える。

2.2.会社におけるマネジメント

マネジメントとは、組織の機関であり、組織の目的を果たす、働く人を活かす、社会の問題について貢献するという、管理的活動と起業家的活動が必要である。

我が社のマネジメント(管理職域)は昇進試験がなく、素養・知識の有無は定性的に判断されるため、上記「2.1.生産性に影響を与える要因」で記載した「自治管理」および「共同管理」すべき事項に対する理解度に偏りがある。実際に発生した事象を以下に記載する。

また、管理者の評価制度において管理配下社員からの評価結果を反映する仕組みがなく、管理的活動に対して正しい評価(部下が上司に対して、継続すべき点および問題点を指摘する)がされていないため、上記事例のような問題点を管理者自身が自覚することなく、改善もされていない。

さらに、社員の育成(管理者の育成)に対して、以下の的外れな活動をしている。
<マネジメント開発ではないもの>
 a.外部セミナーへの参加
  →実際の仕事、上司、組織内のプログラム、一人ひとりの自己啓発プログラムの方が有効

 b.人事計画やエリート探し
  →選抜メンバの育成に注力することにより、他メンバのモチベーションが下がる

 c.人の性格を変え、人を改造する
  →強みを発揮させない、または、行動様式を強制する(その割には心のケアはしない)

2.3.失敗を排除するための方策

組織の目的は、成果を出すことであり、均整や調和ではない。資源を有効活用するために、管理者には、組織(人の集合)を構成する個人の要求を満たし、かつ、コントロールする能力が必要であり、重要なのは部下の人数ではなく、部下との関係の数である。

本論文では、管理者の役割・仕事・資質として、以下を想定する。これらを満たす管理者を育成するためのプロセス確率(昇進試験制度の導入、部下からの評価制度の導入、メンタルヘルスマネジメント教育制度の導入など)が急務であると考える。

<役割>
 a.投入した資源の総和よりも大きなものを生み出す生産体制を想像すること
 b.あらゆる決定と行動において、直近で必要なものと先々で必要なものを調和させていくこと

<仕事>
 a.目標の設定
  →本質を理解し、適切な目標を設定する

 b.組織の作成
  →資源を把握し、適切な組み合わせを設定する

 c.個人への動機づけ、および、状況把握
  →コミュニケーションを図り、モチベーション向上・ワークライフバランス実現をサポートする

 d.評価測定
  →作業者に対し「自治管理」の結果を、管理者に対し「共同管理」の結果を評価する

 e.人材の開発
  →作業者のキャリアパス設定をサポートし、主体的に行動する機会を提供する

 f.自分の仕事
  →自らも仕事し、現場を理解する(働くことの感覚を忘れない)

<根本的な資質>
 真摯さ
  ・一流の仕事を要求し、自らにも要求する
  ・何が正しいかだけを考え、誰が正しいかを考えない
  ・基準を高く定め、それを守ることを期待する
  ・真摯さよりも知的な能力を評価したりはしない

また、評価のタイミング(四半期に1回)に関わらず、上記の管理者の仕事が妥当であるかをチェックする仕組みも必要と考える。
特に、組織の作成においては、空いている要員を目先感覚で案件に配置するため、ホストからWebへの再構築案件に対し、ホスト経験者しかいない(Web開発の経験者がいない)状態でシステム構築するなど、失敗が当たり前の要員計画がなされ、許容できないリスクの案件が実存している。

「自治管理」する情報(知識、時間、強み)をもとに、「共同管理」すべき情報(資源の組合せ、プロセスの組合せ、組織編成)が適切であるかの判断は、管理者ではなくAI(エキスパートシステム)でも可能であると考える。

今後は、管理的活動の一部は機械的に行い(AIで各組合せパターンを抽出した結果を人間がチェックして最終的に判断する)、管理者は人間にしかできない活動(コミュニケーションを伴う管理的活動、および、起業家的活動など)に注力すべきと思われる。

3.おわりに

本文章において、失敗の原因として挙げた2点([1]受注が会社の最適点を上回っている、[2]資源が有効活用されていない)を通じて記載した「自治管理」および「共同管理」の項目は、全体的なナレッジとしてマネジメントすることが必要と考える。

ナレッジマネジメントにより、製造部の状況を営業部がリアルタイムで把握でき、予算と現状の管理確認が容易になる。
また、管理者の仕事の一部をナレッジで補うことで、「2025年問題」の対応(不足する人材の補填)が可能と考える。

企業価値は、「生産性」、「革新性」、「成長性」が判断材料となるが、我が社においては、「生産性」を高めることに注力し、コスト削減、および、品質・顧客満足度の向上による、企業価値向上が望ましいと考える。

4.参考・引用文献

(1) P.F.ドラッカー / マネジメント【エッシェンシャル版】-基本と原則 / ダイヤモンド社 / 2010.8.6
(2) 斎藤 幸平 / 人新世の「資本論」 / 集英社新書 / 2020.9.17
(3) 河合 雅司 / 未来の年表 / 講談社現代新書 / 2019.10.15
(4) 河崎 健一郎 / 知識創造経営の実践-ナレッジマネジメント実践マニュアル / PHP研究所 / 2003.9.1
(5) 三宅 陽一郎・森川 幸人 / 絵でわかる人口知能 / SBクリエイティブ / 2016.9.25

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