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オーロラ観測記録in北極圏【芋頭monkeyのオーロラハント#7】

このnoteは芋頭monkeyのオーロラハント#6の続きです。

天気は雨
オーロラ予測も最低レベル
はたして陰ドア派の猿にオーロラチャンスはあるのでしょうか。

ロヴァニエミ1日目:オーロラハント開始

遂に旅の最終目的地、北極圏入り口のロヴァニエミに到着しました。

午前11時だったので、ホステルのチェックインには少し早かったのですが、事前に荷物を預けたい旨をメールで連絡していたのでホステルに向かいます。

これからお世話になるホステルはWherever Boutique Hostelです。
後々、詳しく書いていきますが、今回の旅で最も快適な宿でした。

駅から15分ほど歩いて到着、メインバッグを預けてサブバッグを持ち、チェックイン時刻まで街を探検します。

オーロラは運が良ければすぐ観れますが、運が悪ければ1週間滞在しようが観れないこともあるそうです。
ロヴァニエミには4泊5日の予定です。オーロラハントは毎晩挑戦しますが、基本的に日中はやることがありません。

ロヴァニエミでのお目当ては大きく分けて3つです。
①オーロラハント
②サンタクロースに会う
③水曜どうでしょうロケ地を見つける

つまり、②と③は後々のヒマな日中にとっておきたいというわけです。

とりあえずスーパーやメインストリートなどの地理関係を把握することにしました。

いままでのミュンヘン、ロンドン、ヘルシンキという大都市に比べればかなり小さな街です。
交通機関もバスがありますが、街中は徒歩で回ったほうが早そうです。
あとは自然がいっぱいです。綺麗な空気と澄んだ川と豊かな緑。

大きなショッピングモールがひとつありました。日本でいう郊外のイオン的な役割でしょう。ここが食品や物資の補給場所となりそうです。

あとは、博物館を見つけました。

以上です。

もともとメインの観光資源はオーロラとサンタクロースくらいのものですし(失礼)、徒歩圏には期待していませんでした。

しかし、犬ぞりやカヌー、フローティング、サウナなどの北極圏を感じられる各種アクティビティツアーは凄まじい量があるので旅行者は退屈しない街でしょう。
1人でなければ。
そういったツアーは全て最小催行人数が2名からです。ボッチ旅の僕は一切ツアーには参加できません。寂しいね。

何にせよ、これでほとんどの日中は何もやることがないことを再確認しました。
先が思いやられます。まあオーロラを観るために来てるので贅沢は言いません。

とりあえず唯一見つけられた博物館で時間を潰すことにしました。

北極圏の生活様式や歴史、自然環境について展示されていました。シアタールームもあっていい感じです。
ただ、期待して入ったプラネタリウムは、オーロラが動物の形になって飛び回るなど、「いやそれはないだろ」というファンタジー感満載だったので残念でした。

何はともあれ時間は潰せたのでホステルへチェックインしに戻ります。

ホステルに着くとスタッフのAlisaがホステルの中を案内してくれました。わかりやすいイージーイングリッシュを使ってくれます。

このホステルは今まで宿泊した大規模なホステルに比べてこじんまりとしていました。

Netflix見放題のテレビがある共有スペース、
大きな共有キッチン、
共有シャワーとトイレが2つずつ、
二段ベッドが3つある部屋が2つほどあるだけのホステルです。
しかし、ホステル名にBoutiqueとあるくらいですから、非常に装飾がオシャレです。清潔さも抜群でした。

そして何より、スタッフの方が若い男女2名と1匹だけなのです。女性のAlisaと男性のNikitaと可愛い芝犬です。
この2人が親切かつフレンドリーで本当に優しかったです。芝犬も人懐っこくていつも駆け寄ってきてくれます。
2人はホステルに常駐しているわけではないので用があれば連絡をして呼びましょう。
連絡手段はメールだけでなく、欧州で主流のWhatsAppや日本で人気のLINEにも対応してくれます。ありがたい。

物理的に宿泊者の数もそう多くないので、必然的にコミュニケーションも増えます。
それによってとってもアットホームな空間が形作られていました。

今後何度か繰り返すかもしれませんが、このホステルは本当にオススメです。
旅の中で一番心安らぐ時間を過ごすことができました。

ホステルの鍵をAlisaから預かった後は、洗濯物が溜まっていたので洗濯をしました。
そのあとはお買い物です。北欧の高物価高税率に対抗すべく自炊生活再開です。

さっき見つけたモールの中にあるスーパーでお買い物をしました。
パスタやパンはとても安いです。
食料を買い込みました。日中は時間があるのでしっかり料理できます。
ちなみにフィンランドはクレカ天国なので、だいたいどこでもクレカが使えて便利です。

しかしここであることに気がつきました。
スーパーのお酒コーナーにはアルコール度数の低いお酒ばかりが並んでいます。
男一人旅の晩餐の大きな楽しみのひとつはアルコールでもあります。
フィンランドのアルコール事情を検索してみると、面白い決まりが分かりました。

フィンランドではスーパーにおいて度数の高いアルコールは販売できない法律があるようです。
確かにスーパーにあるお酒はだいたい4%前後のものばかりでした。
また、販売できる時間も21時までらしく、それ以降はお酒コーナーに鍵がかけられます。

度数の高いお酒を購入するには、『Alko』というお酒専門店に行く必要があります。
僕もモールの中のAlkoで色々なお酒を買いました。
しかし、Alkoは20時には閉まります。
また、Alkoでは30歳以下に見える人には年齢確認が実施されます。
お酒は20歳から(度数の低いものは18歳から)飲めますが、この確認の方法ならトラブルも少なそうでいいなと思いました。ここでも国際学生証の出番でした。

お買い物を済ませたあとはお料理タイムです。
ジェノベーゼパスタ、肉巻きズッキーニ、お味噌汁を用意しました。
自分で作ったものは本当に美味しいですよね。

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食事中にルームメイトがキッチンに来たので会話してみることにしました。
いまふたたびの交流イベントにチャレンジです。

僕「Hi!」
ルームメイト「Hi! Where are you from?」
僕「Japan, and you?」
ルームメイト「Germany」
僕「Ich kann ein bisschen Deutsch.」
ルームメイト「Wow sehr gut!.....

イベント成功です。
旅の初日、ミュンヘンで全くコミュニケーションが取れなかった頃からだいぶ成長しました。
ドイツ出身の彼に少しドイツ語をぶつけてみたら仲良くなれました。ドイツ語は昔にかじった程度だったのですぐに英語コミュニケーションに戻りましたが、少しでもかじっててよかったです。

さらに、もう1人いたルームメイトもスイス出身でドイツ語圏の人でした。運がいいです。
みんなで仲良く会話しながらの夕食はやはり楽しいものでした。

夕食のあとはお待ちかねの晩酌タイムです。
今回はフィンランドビールの三種飲み比べをすることにしました。

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写真右のラピンクルタはスッキリした味
写真左のサンデルスはアサヒスーパードライっぽい味
写真中央のサウナは味が濃い目だった気がします。

サウナはカルフというシリーズのビールの仲間っぽいです。この熊のマークのビールが僕はお気に入りです。

北欧のお洒落なホステルでのんびりとビールを飲みながら落ち着くひとときを楽しみました。

危うくここに来た目的を忘れて寝るところでした。
ここにはオーロラハントをしに来ているのです。

オーロラは宇宙の神秘です、天候や磁気などの様々な条件が揃った時にのみ観ることができます。
しかしド素人の僕には難しいことはわかりません。

そんなポンコツにもわかりやすくオーロラ予測をしてくれるサイトがあります。

こちらのサイトで、現時点でのオーロラ観測確率を示す地図と三日間のKp値を観ることができます。
Kp値とは簡単にいえばオーロラ強度のことであり、0-9までの値をとり、数字が大きいほど強度が高いということになります。

ワクワクしながらサイトを確認します。
はたしてオーロラ強度は!!

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うっそだろおい。

でも0じゃありません。ポジティブにいきましょう。

次は天気を確認します。オーロラはもちろん雲より上に出現しますから、曇ってたら見れません。カーテンを開けてみましょう!!

ド曇天

うっそだろおい。

でも雨は降ってません。ポジティブにいきましょう。

空に文句を言っても仕方ありません。
可能性がゼロじゃないならチャレンジしてみる価値はあります。

夜の23時ごろになると、ホステルに宿泊している人たちもみんな厚着をして続々と外へ出ていきます。

先ほど仲良くなったドイツ人とスイス人のルームメイトとお互いの幸運を祈ってから僕も出撃準備です。

上下ヒートテック+長袖長ズボン+パーカー+ウルトラライトダウン+マフラー+手袋+ニット帽の完全防寒装備です。
9月といえど夜中は0℃前後まで冷えます。

当初はモイモイ号というバスツアーを利用してオーロラハントをするつもりでした。
バスに乗っていれば観測スポットまで連れて行ってくれるというお手軽ツアーです。
しかし、モイモイ号は9月の下旬からサービス開始でした。9月中旬の旅程ではギリギリやってません。
そのため、今回の旅では基本的に徒歩圏内でオーロラを観ることを狙っています。

街中では街の灯が強くてオーロラは見えません。
しかし、街はずれの博物館裏にある森ではオーロラが観れることがあるとのことでした。
お昼に博物館を見つけていたのはただの暇つぶしではありません。位置関係を把握するためです。伏線ですよ伏線。

というわけで行ってきます。
真夜中で人通りも灯りもない見知らぬ土地を歩くというのは不気味なものでした。
フィンランドは治安が良いので出歩いても何も被害はありませんでしたが、内心ドキドキです。

真っ暗な中、オーロラの出現を待ちます。

ダメでした。
見れたものといえば野生のウサギくらいです。
そりゃそうですよ。
オーロラ強度は1、天気も雲です。
しかしまだオーロラハント初日、チャンスはあと3回あります。
今回は大人しく帰って寝ました。

ロヴァニエミ2日目:トナカイ肉寿司

ぐっすり寝ました。
日中はやることがないのでのんびりと寝ていられます。

朝ごはんを済ませて散歩に出かけて気づきました。

雨です。

天気は良くなるどころか悪化していました。ガッカリです。
夜には晴れるかもしれないという期待を胸にぶらつきます。

ロヴァニエミの風景はとても落ち着きます。可愛い木の実やキノコが生えていたり、澄んだ川が流れていたり、まさにムーミンの世界です。
ムーミン見たことないですけど。

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夜まではお買い物をしたり、洗濯物を畳んだりと、専業主婦みたいな過ごし方をしていました。

暇なのでカリオストロの城に出てくるミートボールスパゲッティも作ってみました。
そうしていたら芝犬が近寄ってきて、腕にしがみついてクンクン鳴いてきます。
お腹が空いているようです。犬に食べさせても大丈夫なものを調べてから、少し分けてあげました。ワンちゃんには癒されっぱなしです。犬猿の仲なんてありゃしません。

飼い主のAlisaとも会話してみました。
どうやら彼女は昔に日本語を勉強していたことがあるらしく、簡単な単語を知っていました。自国の言葉を話してもらえるとなぜか嬉しくなりますね。

Alisaとオーロラについて話してみると、良い情報が手に入りました。
オーロラが観測できる可能性のある夜は、もう一人のスタッフであるNikitaに頼むとオススメの観測スポットまで車を出してくれる有料サービスを提供しているそうです。
もし、滞在中にチャンスがあればLINEで連絡してもらうことをお願いしました。
絶望的状況のオーロラハントにも一筋の光が射します。

人とのコミュニケーションでこんなに攻略に有益なヒントを得られるなんてまるでRPGです。

ルームメイトとも会話しました。
人と話すかテレビを観るくらいしかやることがないので話してばっかです。
彼らも昨晩はオーロラハントに失敗していました。お互いに情報交換をして作戦を立てます。

そんなこんなで夜になりました。
残念ながら天気は雨です。オーロラ予測も相変わらず1。
今晩は外に出るまでもなくオーロラハント失敗です。

チャンスはあと2回しかありません。
ちょっと落ち込みます。

元気になるためにも美味しいご飯を食べることにしました。
どうやらロヴァニエミにはひとつだけ寿司屋があるようなのです。名前は『HIMO』

海外の寿司屋に過大な期待をしてはいけませんが、白米に飢えていたので夕食はそこでとってみます。

店員さんはアジア人でしたが、日本人ではありません。まああまり関係ないですけど。
サーモン巻きと日本酒、そしてひときわ目を惹く『トナカイ肉の握り』を注文します。

フィンランドではトナカイ料理が名物です。いつか食べたいとは思ってましたが、まさか和食の形で食べられるとは思ってませんでした。

まずはサーモン巻きを頂きます。
ちゃんと美味しいです!海外の寿司屋はよくトンデモ寿司が出てきますが、しっかり酢飯でサーモンも甘くて美味しかったです。
日本酒も久しぶりに飲むといいものですね。

さて、問題のトナカイ握りです。
見た目は普通の肉寿司といったところ、頂きます。

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旨い!!
くさみもそこまでなく、牛肉に近い味わいでした。
新感覚の食感もいい感じです。

大満足でした。お会計の時にどこから来たか聞かれて、日本と答えたら随分遠いところから来たなと驚かれました。
そういえば北極圏近くまで来てるんですよね、今。

満腹で帰ってぐっすり寝ました。

ロヴァニエミ3日目:サンタクロース村

3日目の朝をむかえました。
さすがに自炊も散歩も飽きてきたので、サンタクロース村に行くことにしました。

サンタクロース村では本物のサンタクロースに会うことができます。
さらに、ちょうどサンタクロース村に北極線が通っており、北極圏に到達することができます。

ロヴァニエミ中心部からはバスで20分ほどの距離です。
バスの時間もAlisaが教えてくれました。親切。

サンタクロース村に到着しました。ずっとクリスマスソングが流れていて、ここだけずっとクリスマスです。
宿泊施設もあるテーマパークといった感じです。

村の中に白いラインがひかれています。これが北極線です。
つまりこの向こう側は北極圏ということになります。

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極東からはるばる数千キロ、ついに自らの足で北極圏に到達しました。

北極圏入るとすぐに野生のリスに遭遇しました。結構たくさんいます。小さくてかわいい。

北極圏に到達したことを証明する証明書も近くの小屋で購入できます。
なんと日本語版までありました。

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さて、ひときわ大きな建物に入ります。
ここにサンタクロースがいるというわけです。

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中にはお土産屋さんのほかにポストもありました。
ここで書類に記入すると、クリスマスにサンタクロースから手紙が届くのです。僕も年甲斐もなくわくわくしながら書いてみました。
クリスマスが楽しみになりました。

お土産屋さんの奥にサンタクロースがいます。そこまでの道のりも素敵な装飾だらけです。
世界中の宛先が書かれたプレゼント箱や、エルフ用の部屋など、いい世界観です。

サンタクロースとのグリーティングには待機列ができていました。
アイドルの握手会のようですが、並んでいる人たちは多国籍です。
言語も十人十色、そういえばサンタクロースとは何語で話せばいいのでしょう。

僕の前に並んでいた人はドイツ語、その前の人はロシア語で話していました。さすが、世界中を飛び回っているだけあって語学堪能です。
とりあえず英語で話しかけることにします。

待機列にはサンタクロースと著名人のツーショット写真が並んでいました。
習近平国家主席とのツーショットにならんでクリス松村や南明奈の写真もあったのは笑えました。

そんなこんなで僕の番です。以下、サンタとの握手会レポです。

僕「Hello!」
サンタ「こんにちは!」
僕「わ、日本語喋れるんだ!」
サンタ「日本のどこから来ましたか?」
僕「東京です!」
サンタ「東京の…世田谷?吉祥寺?立川?
僕「うわすげえ!○○です!」
サンタ「あ〜去年お邪魔しました、フィンランドには何しに来たんですか?」
僕「オーロラが見たくて来ました」
サンタ「もう見れました?」
僕「いやまだなんです」
サンタ「それは国際問題ですねぇ…

サンタさん日本語ペラペラ。さすがすぎます。ジョークまで飛ばします。
実はここは水曜どうでしょうがロケに来ていた場所でもあります。
そこでもサンタさんは日本語を話していましたが、カタコトでした。
あの番組から20年、サンタクロースは驚異の進化をとげていました。見習うところばかりですね。
僕も大泉洋のようにハンバーグをお願いすればよかったと後悔しています。
[参照:水曜どうでしょうヨーロッパリベンジ]

サンタさんとは最後に写真を撮ってお別れです。
写真はとんでもなく高いのですが、グリーティング自体は無料でしたし、いい思い出なので購入しました。
ちなみにもっとお金を払えば、グリーティングの様子を収めた動画も買えます。すげえや。

起きているときにはサンタさんと初対面のはずでしたが、なぜか安心して会話できました。優しさの塊といった感じです。ほんとにすごい人だ。

あのサンタクロースにオーロラを観たいと話したわけですから、なんとか叶ってほしいところです。
さすがに自然環境をどうこうはできないでしょうけど。

サンタクロースに挨拶を済ませたあとは、サンタクロースのトナカイにもご挨拶をすることにしました。

5ユーロ払うと餌やりもできます。
彼らがクリスマスになると空を駆けるわけですね。

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イメージ通りのトナカイ、可愛いですねえ。
まあ、昨晩トナカイ肉食ってるんですけど。

トナカイに近づいてみたら一瞬で餌を食べ尽くされました。すごい食欲です。
もう餌はないよ〜なんて言って撫でようとしたら思いっきり蹴りをいれられました。
ツッコミもワイルドです。

トナカイと戯れているとスマホが震えました。
AlisaからのLINEです。
「今夜はオーロラが観測できる可能性があるからNikitaが車を出せるけど行くか?」とのことでした。
二つ返事でもちろんYesです。
そういえば今日は晴れています。
オーロラ強度はとても弱いものの、2です。
サンタクロースの笑顔が脳裏に浮かびます。
今夜がオーロラハントの賭けどころな気がしてきました。

突然のチャンス到来です。

チャンス到来

とりあえずホステルに帰りました。
Alisaに車代を払います。
23時ごろにホステルの前で集合とのことでした。この旅一番のやる気が燃え上がります。

腹が減っては戦はできぬ。
腹ごしらえもしっかりしました。
時間もあるのでお酒も頂きます。
今晩はロンケロを飲みます。

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ジンとグレープフルーツのカクテルです。
その昔、フィンランドオリンピックがきっかけで流行しました。
甘くてスッキリしています。

万全の体制を整えてNikitaと待ち合わせました。
彼の車に乗り込みます。
街から離れた、サンタクロース村よりさらに離れた、北へと向かい、一切人工の光がない湖のほとりの観測スポットに行くとのことです。
今晩は雲もないから観測の可能性はあるそうです。

彼の車に揺られて街からグングン離れていきます。
資金集めのバイト中からずっと夢に描いてきたあのオーロラが、家でゲームばかりしている僕とは対極にある宇宙の神秘が、もしかしたらもうすぐ目前に現れてこの目で見られるかもしれない。武者震いがします、寒いわけではありません。
脳内には、旅の始まりの頃に否定していた黄金伝説のテーマが流れます。

30分くらい北へと進んだでしょうか。
その車中、Nikitaとは2、3言話した程度でした。
彼はもともと寡黙なタイプで、今日初めて話しましたし、少し不愛想に見えていました。

湖のほとりに到着です。
すでにキャンピングカーも数台止まっています。ここは知る人ぞ知る観測スポットのようでした。

焚き火も焚かれていました。
数名の観光客が集まっています。

しかし、気が昂ぶっている僕からすれば焚き火などいりません。寒さを感じないのです。

とにかく光から離れた湖のほとりでジッと空を睨みます。
到着したのは23時半ごろでした。
Nikitaはオーロラ予想アプリを持っていました。それによると25時くらいまでチャンスがありそうです。
ここからはひたすらに待機です。

オーロラは出ていませんが、空の綺麗さといったら喩えようがありません。
おそらく今までの人生で一番たくさんの星を見たでしょう。
目前に広がるのは果てしなく続く湖と森、耳に入るのは焚き火と風の音。
マイナスイオンで溺死しそうです。

しかしここでいきなり視界が曇りました。
霧です。
雲はないのに濃霧で何も見えなくなりました。周りの人達からも落胆の声があがります。

Nikitaは諦めてませんでした。
彼は、別の観測スポットを知っている、そこは湖から離れているから霧もないかもしれないと言います。
なんとも頼もしい存在です、車に戻ります。

湖からさらに北へ5分ほど進みました。
森の中に入ります。
オーロラの観測スポットになるくらいですからもちろん一切光はありません。
月の光とスマホのライトを頼りに何が出るかわからない深夜の森を進みます。
でも怖くありません。普段は遊園地のお化け屋敷ですら腰がひける僕だって、目標があれば動けます。人間は強いです。

今度は観光客もいません。
静かに空を睨みます。

時刻は24時を過ぎました。
まだオーロラは出ません。

まだNikitaは諦めていませんでした。
ここは霧はありませんが、森の中なので視界は限られます。さらにスポットを変えるとのことです。

再び車に揺られ、今度はひらけた道路に来ました。
路上で空を睨みます。

時刻は24時半を過ぎて25時に差し掛かるところ。オーロラは出ません。

さすがにNikitaの目からも自信の色が消えたように見えます。
時刻は25時、気温も下がり続ける一方です。
さすがに精神論だけでは耐えられなくなってきました。
とにかく、最初の観測スポットに戻り、焚き火にあたることにします。

湖に戻ると、霧は晴れていましたが、観光客はほぼいなくなっていました。
それもそのはずです。当初の予測ではオーロラのチャンスは25時まででした。
もう試合はロスタイムに突入しているのです。

Nikitaが車から何か持ってきました。ソーセージです。
どうやら焚火でソーセージを焼いてくれるようです。

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寒い中、焼き立てのソーセージはとてもおいしかったです。
しかし、これはNikitaの苦肉の策なのではないか、そんなことも頭をよぎります。
オーロラ予測アプリを見てもオーロラの出現可能性がかなり低くなっています。
とうとうNikitaの口からタイムリミットを伝えられます。
あと20分待っても出なかったら今夜は見れないだろうから帰ろう、とのことでした。いまの時刻は25:40ごろです。

覚悟はしていました。
オーロラは自然現象です。しかもとてもレアな現象です。
旅のプロでもなければ初めてのバックパッカーをしにきたオーロラハントのド素人が4泊5日のチャンスであっさり観れる方がおかしいかもしれません。

でも十分いい経験ができたじゃないか、と自分に言い聞かせます。
インドア派陰キャが旅という目標のためにたくさんバイトをしました。
必要な物や情報を揃えるべく、準備に奔走しました。
上海で危機的な乗り継ぎもやってのけました。
ミュンヘンのビアホールで色んな人と交流しました。
ロンドンで風邪と闘いながらハリーポッターの世界に飛び込みました。
ヘルシンキで海上要塞を探検しました。
たった一人で欧州を巡って生活して得た経験値は大きく僕をレベルアップさせたはずです。そう言い聞かせます。

しかし、悔しさはかき消せませんでした。
この旅の最も大きな目的は死ぬまでにこの目でオーロラを観ることでした。
僕はあと数カ月で大学を卒業します。ここまで自由な時間は取り難くなります。
もしかしたらこれが最初で最後のチャンスかもしれなかったのです。
だからこそ絶対に観たかった。しかし、現実は残酷でした。

時刻は26時、タイムリミットです。
他の観光客はとっくに帰っています。湖のほとりには僕とNikitaだけです。
心も体も冷え切っています。諦めるときが来ました。
帰りま……





ん?



んん!?
僕とNikitaは2人そろって夜空の同じ場所を凝視しています。
夜空に白っぽい、それでいてすこし虹のような線がうっすらと見えます。

Nikitaがオーロラかもしれない、と言いました。
僕の見えている線はあまりにもか細く、オーロラを観たすぎるがゆえの願望が見せている幻じゃないかと思っていました。
しかし、Nikitaにもその線は見えているようです。
これは、幻ではありません。

すかさずNikitaがカメラをとりだします。
肉眼で見づらくとも高性能のカメラなら写る可能性があります。
オーロラハントをしにきているくせに一眼のひとつも持っていない僕は祈るばかりです。

その時、カメラが収めた写真がこちらです。

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限界まで明るくなるようにしています。
目を凝らしてよくご覧ください。
写真中央に緑色の線がうっすらと写っているのがお分かりいただけるでしょうか。

オーロラです。

オーロラがこの僕の眼前に出現したのです。
もうあきらめようとした、いや、あきらめていたタイムリミットのその瞬間に奇跡は起きました。

カメラを見た僕は思わず声がでます。
決して大きな声ではありませんが、喉から絞り出された歓喜の証です。
湖のほとりで、たった2つの白い吐息がどんどん大きくなります。

奇跡はすぐには終わりませんでした。
白い線はだんだん太く、濃くなっていきます。
ついには肉眼でも緑にハッキリと光って観えるまでになりました。
さらにそのオーロラは大きくうねりだしました。

もっとよく観える場所に移動します。
そこではユラユラと炎のようにうねる緑のオーロラが観えました。

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ついに、とうとう、やっとのことでオーロラが観れました。
その時の気持ちをどう形容したらよいのか、僕の乏しい語彙力を恨むばかりです。
とにかく嬉しくて嬉しかったです。
涙さえも出ませんでした。達成感と安堵に包まれます。

隣にいるNikitaも安心した表情をみせます。
彼には感謝してもしきれません。ポンコツの僕一人だけでは絶対に観ることはできなかったでしょう。
湖のほとりには僕ら以外誰もいません、他全員が諦めた中最後まで彼が粘ってくれたおかげで観られたのです。
彼に拙い英語でありったけの感謝の気持ちを伝えました。

すると寡黙で不愛想にもみえたNikitaも笑顔で返してくれました。
彼いわく、彼がいままで案内した日本人は全員オーロラを観れているそうです。だから今夜観れないと思ったときは相当悲しかったが、観せることができてよかったと言います。

お互い気分が高揚しているからこそ、会話も弾みました。
どうやら彼は英語が苦手らしく、たどたどしい会話だったかもしれませんがそんなの関係ありません。

オーロラを眺めながら色々なことを話しましたし、話してくれました。
彼の人となりもみえてきました。
彼とAlisaはロシア出身でした。
彼はロシアのミリタリースクールを卒業し、ドライバーとして働いていました。
その後、様々なことがあって語学堪能なAlisaとふたりで小さなホステルを始めることになったようです。
英語もホステルを始めてからAlisaの話しているところやテレビを見て習得していたそうです。
日本が好きで日本語を勉強していたAlisaと同じく、彼も日本人にポジティブなイメージを持ってくれていました。
オーロラハント中の姿がみな熱心だからだそうです。
彼の案内した日本人は寒い中、なかなか観れなくても文句を言わず辛抱強く待ち続けてくれたと言いながら、いままで共にオーロラハントをした日本人たちとの写真を見せてくれました。
そのスマートフォンの画面がホームに戻ると待ち受けはAlisaと柴犬でした。
彼は、Alisaのためにも自分のできることを精一杯頑張っていたのです。

なんていい奴なんでしょう、Nikita。
不愛想とか思ってたさっきの僕をぶん殴りたいです。

僕も自分のことを話し、オーロラを観るためにしてきたことは自分にとってはすごく勇気のいることだったこと、だからこそ今夜観れたことは本当に嬉しくて、一生忘れない思い出になったことを伝えます。
そして、Nikitaにはとても感謝しているし、Alisaと共に運営しているホステルの心地よさにも感動している、ここに滞在出来て幸せだったと伝えます。
これはもちろんお世辞ではなく本心です。
2人とも難しい英語が話せないということもあるかもしれませんが、なぜかオーロラの下だとお互い素直に話せました。

Nikitaは、それはよかった、少しは自分のしてきたことを誇ってもいいのかもなと微笑んでいました。

20分ほど僕らの上で輝いたのちに、オーロラはふっと消えてしまいました。

おまけ動画

ロヴァニエミ編のハイライトを短い動画にしました。

次回予告

今回でオーロラハントに成功しました。
次回はロヴァニエミ4日目から帰国までと、旅のまとめです。
長かった旅の記録もついに最終回をむかえます。
このまま無事に帰国できる…はずでした。

よろしければサルにバナナをくれてやってください。