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小屋から家へ 中村好文

私の好きな建築家こと中村好文さんの「小屋から家へ」を読み終えました。

本の構成は、鴨長明の方丈、ル・コルビジェの休暇小屋など様々な小屋についての紹介からはじまり、レミングハウスで設計した作品の紹介、そして最後は皆川明さんとの 小屋とは をテーマにした対談となってます。読んでいく中で私が好きな部分をいかにピックアップします。

1.営巣本能

「男の子はみな樹上に家を持ち、女の子はみな人形の家を持つ」とフィリップジョンソン著作集のことばがあります。ぼくは男なのでとてもうなずけることばですが、男の子なら誰しもが押し入れや秘密基地に魅了された時期があるとおもいます。子供の頃から自分の居場所をつくりたがるのは本能的なであり、小屋もそういった性質があるということです。

2.鴨長明「方丈」

平安時代末期から鎌倉時代にかけての歌人、随筆家の鴨長明は、方丈といわれる3m角の小屋に暮らしていたとか。この方丈は、部材を牛車で容易に運ぶことができるプレファブ建築の先駆けの様な建物でした。とくに面白いのは、この小屋に持ち込む物のリストに楽器が2つあることです。二種類の楽器とは、折琴と継琵琶で鴨長明はこの楽器を部屋の中のとっておきの場所に立てかけておきました。小屋なので持ち込めるものが限られているにもかかわらず持ち込むようすは、楽器をこよなく愛する思いが感じられます。また、この小屋におかれた楽器はどこか部屋の品格を引き上げる特別なオーラが備わっている様で、この設えはインテリアデザインといっても過言ではないと著書にもかいています。小屋くらしで一番大切なことは、そこで営まれる暮らしが、簡素で潔いことですが、その潔さがいちばん端的にあらわれるのが、持ち物なのかもしれません。と中村さんがそう綴っていますが、ほんんとにその通りで、私もミニマリストに憧れ、不要なものは鬼になったかのように捨てて、必要なものしか部屋に残しません。これくらい潔いことをすると雑念もなくなり、己のパーソナリティーを理解できてとても生きやすい日々を送ることができます。建築もこれくらい洗練すると、とてもコンパクトで機能的さらに経済的なものになるのになぁと思います。

3.設計者に求められる役割

レミングハウス設計の「Kirishima Hut」 という建物があります。クライアントであるご夫婦は仕事柄、多忙な毎日を過ごしています。その中で打ち合わせをしていくなかで中村さんは、ご夫婦に週末ぐらいは仕事を忘れてもらい、身も心もときほぐしてゆっくり休養できる場所にしてあげるのが、設計者に求められる役割とかいてありました。この言葉にわたしは感銘を受けました。当たり前のことなのかもしれませんが、最近は慣れのせいかそういったことを自覚するアンテナが微弱になっていたので、改めて大事なことをまた気づかせてくれました。

4.所作

最後の章で、小屋について皆川さんと中村さんとの対談があります。そのなかでとても奥深いと感じたことがあります。とてもミニマムサイズの小屋があり、その小屋について皆川さんが、使う時の所作まで決まっている。と対談で言っているのですが、それに対して中村さんは、「確かに小屋では生活行為も限られてきますし、空間的にも狭いので人の動きが決まってくるところがありますね。そういうところは、ちょっと茶室的と言ってもいいと思います。人の動作や行動が、身体寸法と密接に結びついているから。」とおっしゃています。確かに小屋もそうですが、住宅ももちろん同じで、よくみられるいい設計をしている建物はモデュールに法則があり、それが快適さに繋がっているのだなあと改めて実感しました。

小屋という限定的な空間にもかかわらず洗練され潔い考えですてきな建築をつくる。小屋としてのロマンだけではなく本質的なものを探究していくようで勉強になる一冊でした。わたしも小屋好きなのでいつか設計をしたいと思っております。

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