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「使いやすそう」なデザインのパワー

「正確に操作ができる”使いやすいデザイン”より、スムーズに操作できているような気がする”使いやすそうなデザイン”が、コンシューマー製品にとっては大切。」

僕は2007年から7年間、SAMSUNGの日本デザインセンターでUI/UXデザイナーとして働いていました。UI/UXデザインというのは、使いやすさやユーザーの体験をデザインすること。 最初の2年は韓国でデザインされた携帯電話の使い勝手を日本にあったものにローカライズする業務、そのあとはスマートフォンGalaxyシリーズの日本特化機能のデザインを行っていました。

日本独特な部分の1つが文字入力。
日本語の文章は、日本語、英語、数字を混ざるのが特徴で、ユーザーはそれぞれのキーボードを切り替えながら入力する必要がありました。
そこで考えたのが「8フリック」というアイデア。
8方向にフリック入力することで、キーボードの切り替え無しで入力できる入力方法です。

8方向にフリックなんて、操作エリアがシビア過ぎて使い物にならないのでは?と多くの人に否定される中、実際に触れるプロトタイプを作って、指定の文章を入力するというユーザーテストを行ってみました。

評価指標は大きく3つ。
①スピード:指定文章を入力完了するまでの時間
②精度:入力ミスの回数
③体感:入力しやすさの定性評価

結果は...
新しい入力方式は、スピードが約1.5倍。(すごい!)
そして、予想通り既存の入力方式よりも入力ミスが増えました。
ミスの回数はユーザーのストレスに影響するので、これはダメか...
と思いきや、なぜか全員が既存の入力方式よりも「入力しやすい」と回答。

テストの被験者に、この結果を見せてインタビューをすると、こんなことを言われました。

そんなに多くミスをしたという感覚が無かったのでびっくり。
そして、そんなに早く入力できたという感覚も無かった。
ただ、なんとなくスムーズに入力できている感じがして、使いやすそうに感じた。

面白い!
厳密な使いやすさのために測定した数値は、あまり体感には影響していない、一方でキーボードを切り替えなくていいことが「なんとなくスムーズ」「なんとなく使いやすい」という体感に繋がっていました。

入力スピードは上がったものの、入力ミスの回数が増えたことで、この機能の製品化は白紙になりそうだったのですが、被験者の体感として「使いやすそうに感じる」といテスト結果が最終的な決め手となり、大々的に新モデルに搭載されることになりました。

ミスなく使えることよりも、ミスがあっても使いやすい(やすそう)と感じることの方が大切だということを学ばせてもらいました。この経験は、コンシューマー製品のデザインをする際に、僕の羅針盤になりました。(業務用製品の場合は数値の方が大事になることもあるんですが。)

本当にユーザーのことを考え、論理的な使いやすさじゃなく、感性的な使いやすさを考えて、これからもサービスを開発していこうと改めて思う今日この頃です。

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