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考えごとして、運命を探して、ここじゃない世界に行きたい。旅のおともをしてくれる本たち

旅先で買った本には特別な思い出が残っている。本棚から手にとったとき、「この本はあの街のあの本屋さんで買ったのだ」と、その土地で見た夕焼けの色とか、本屋さんの匂いとか、書店主さんと交わした会話を思い出すことができる。その土地の独自の本ではなくても、旅先で買った本には特別な思い出がずっと残り続ける。

かといって旅先で買った本をそのまま旅行中に読むのかというと、そうでもない。そのまま鞄に入れて持って帰ってきて、ゆっくりと家で読む。

旅先で開く本は、読み慣れていて、自分の心を落ち着けることができる本にしている。にぎやかな場所で観光をしたりその土地のものを食べたりと、旅行中はとにかく頭も心もせわしなく動き続け、胃も消化活動をがんばり続けて満身創痍となる。そんな状態であらたな物語を読むなんてこと、わたしにはできないのだ。

自分が自分であることをたしかめて安心するために旅先に一緒に来てもらう、わたしの「旅のおとも」である本たちをご紹介します。


『考えごとしたい旅 フィンランドとシナモンロール』益田ミリ 著


益田ミリさんのフィンランド旅の記録が記された一冊。フィンランドのどこに行った、なにを食べた、という行動の記録はもちろん、益田ミリさんが旅のなかで感じたこと、そのときの心のなかで考えているごちゃごちゃとした思考が記録されていて、本当におもしろい。観光って、ただ観て楽しむだけじゃもったいないのかもと思わせてくれる。そこで観たものを自分のなかで考えて、深めて、おもしろがる。その旅で出会ったものからなにか光るものを見つけたい。行き先はフィンランドではなくとも、旅先のふとした瞬間に開くと「この旅をもっと楽しむぞ」と思える。ふらりと休憩で入ったカフェで読みたい一冊。


『もしもし、運命の人ですか。』穂村 弘 著


穂村弘さんのエッセイ。恋愛観のような、人間の心理そのものが、穂村さん独自の切り口で、深く深く書かれている。人間って本当に人の数だけいるんだなあ、と思う。そのなかで気の合う人、一緒にいたい人を選んで、選ばれて、生きていくのだ。みんなこうやって、だれかの心の内を想像しながら、時には駆け引きなんてものまでしながら暮らしているのだ。人間ってすごいなあ、愛おしいなあ、と思う。

旅先ではたくさんの人に出会う。世代の違う人、遠くの土地で暮らす人、そこに暮らす人、生まれた国の違う人。本当にみんな違っている。使う言葉も違えば、あたりまえの習慣とかマナーも違っている。そして、みんなそれぞれの考え方で生きている。でも不思議なもので、みんないま同じこの場所にいて、同じ空間でそれぞれの時間を過ごしている。これってなんだか運命だ。みんなぜんぜん違うけど、とにかく今日を楽しもうな!それぞれの価値観で思いっきり楽しんで、気を付けて家まで帰ろうな!なんて思えてくる。ひとりひとりみんな違うたくさんの価値観が、ぎゅっとその場所にあることを愛おしく感じられる。旅先での移動中や、ざわめく観光地の片隅で読みたい一冊。


『ここじゃない世界に行きたかった』塩谷 舞 著


塩谷 舞さんのエッセイ。この本を開くと、思考がすーっと静かになる。ぼこぼこになっていた感情の表面が均されて、なだらかになっていくのを感じる。この本に書かれているのは、塩谷舞さんの暮らしと、思考そのものだ。決してなだらかなものではないし、静かな本ではない。意思を持って、いまを生きている女性の心の内が書かれている。すごく共感できる内容もあるし、あるいはそこまで考えが及ばず、うまく理解することができないことも書かれている。それも全部含めて、わたしはこの本が好きだ。たくさんの気持ちを、静かに小さな声で内緒話のように話している気持ちになる。

空気のきれいな大自然のなかにいたとしても、ざわめく観光地にいたとしても、慣れないホテルの部屋にひとりでいたとしても。どんな場所にいたとしても、この本を開いて読むと、そこはわたしだけの場所になる。だからわたしは旅先でこの本を開く。旅に出っぱなしだと疲れてしまうから、思考だけでも自分だけの場所にいったん帰りたくなる。気持ちが落ち着いて本を閉じたらまた、この旅を楽しむことができる。


考えごとして、運命を探して、ここじゃない世界に行く


わたしはこの3冊をおともに旅に出る。何度読んでいたっていい。読めば読むほどに、わたしのなかに馴染んでいって、ほっと落ち着ける場所になってくれる。

普段の暮らしのなかでのもやもやとした気持ち。それはなかなか消えることはないけれど、旅先でぼーっと考えると、もうどうでもよくなってきたり、ときには深まって、ぱっと昇華できることもある。そんな考えごとをしたくて、わたしは旅に出る。そうやって旅した先で、ふと自分の人生を変えるようなことにも出会えたらラッキーだ。まるで運命の人を探しているような気持ちで、旅先の景色のなかをずっと歩く。でもずっと歩き続けると疲れてしまうこともある。ここじゃない世界に行きたくて旅に出たのに、どうしてか、たまに帰りたくなってしまう。そんなときには本を開くのだ。そうやってわたしは、この本たちをおともに、また旅に出る。


最後までお読みいただきありがとうございます!