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日本人がプリクラを愛する理由



 プリクラは私にとって、〆で食べる雑炊のようだ。
メインのお鍋を楽しみながら、頭の中では当たりまえに雑炊を待ち望んでいる。
そんな感じで、友人と遊んだら「プリ撮ろうよ」と、どこからともなく声があがる。

 これがプリクラを撮る基本シチュエーションである。さらに他のパターンもある。
たとえば、初めて遊びにいった子と初プリ。
今日は特別な日だからと、いつもよりおめかししてパシャリ。
このように、いつもとは少し違うパターンで撮られた思い出は記憶に残りやすい。
一見、ただの紙切れだが、そこには交わした時間が凝縮されているのだ。
では、なぜここまでプリクラというメディアが発展し、愛されてきたのか。
私なりの理由を述べようと思う。


 一つ目は、美化された自分を残せる点である。そもそも、プリクラが流行した背景には1990年代に誕生した「自撮り文化」がある。
1985年頃、写ルンですといったインスタントカメラが流行する。
当時のカメラの値段は非常に高価であり、庶民にはなかなか手が出せない存在であった。

 ここに目をつけたのが富士フィルムである。
世界初のレンズ付きフィルムというインパクトと、当時ではありえないほどの低価格で売り出された写ルンですは爆発的ヒットをだす。
また、ブームが過ぎ去ったと思われたが、令和の時代で再び流行している。
スマートフォンで撮ることができないフィルム独特のノスタルジックな雰囲気がいいとのことだ。このことから、いつの時代もカメラが持つ「味」を大切にしていることがうかがわれる。
写ルンですによって自撮り文化が発展したことで、さらにその流行に火をつける存在が現れたのだ。

 それが1995年に登場した「プリント倶楽部」である。
この頃からデジタル写真が出てきて、人々は携帯電話で写真を撮るようになった。
プリント倶楽部はそのデジタル技術に加工技術をつけたのだ。
従来のカメラのように現像できるのは共通点だが、そこに映し出されるのはかわいく盛られた自身たちである。
しかし、開発者であるセガの社員は少し違う目的で作りあげたようだ。

「アイデアの原点は、街で見かける10代の女性たち。文房具店でキャラクターもののシールを買っていく彼女たちの姿を見て、「自分の顔が背景と合成シールにできて、ビデオプリンターみたいに出てきたらウケるだろうな」と考えたのが発端でした。」

引用元/昼間たかし『自撮りのルーツ「プリクラは」はなぜ渋谷に大行列を生んだのか』
https://urbanlife.tokyo/post/33258/


 この発言から見る限り、面白さを追求しており、決してかわいいを重視したわけではなさそうだ。
だが、ギャル文化も相まって、彼女たちの盛れたいといった心理にうまく火をつけたらしい。
また、写真に映る自分の姿が嫌いというコンプレックスも払拭してくれる機械でもある。
人間であれば誰でも美しくなれるスナップ写真は、気軽に友人同士で見せあい楽しめるものとなったのだ。
こうした様々なニーズに寄り添うことでプリント倶楽部はプリクラと名称されるようになり、流行ではなく文化として現在に続いているのだ。


 二つ目は、どんな関係性でも楽しい思い出を残せる点である。
これまで、仲の良い者同士が撮るものとして文章を綴ってきたが、令和で革命的なプリクラが誕生したのだ。
それはapimyというプリ機である。
これは、そこまで仲の親しくない者同士でもプリクラが撮りやすい機能がある。
たとえば、初めて遊んだ者同士や、初デートのカップルであれば、あのような狭い空間で密着してポーズを取るのはなんとなく気まずい空気が漂う。
そこで、撮影が始まる前に、それぞれの関係性の深さや、シチュエーションを選択して、それに伴ったポーズを提案してくれるのだ。
こうした、ただ楽しいだけではなく、配慮に長けた機能などが令和のプリクラには必要とされているのだ。

 また、思い出という点に関してだが、わざわざお金を出さなくても、スマートフォンで残すこともできるじゃないという疑問も出てくるだろう。
そこに関してだが、確かに写真フォルダを見返すこともあるし、加工アプリといったものでプリクラに近づいた自分達を撮ることもできる。
だが、プリクラのような完全な照明空間の中で機械が指令したポーズをとり、ワイワイするその瞬間が楽しいのだ。
携帯のデータではなく、手のひらに形として残せる思い出という点が重要である。


 このように独自の文化を築きあげてきたプリクラは、未だ人気衰え知らずといったところだ。
新機種がでたと皆で撮りにいっては数週間もすればまた新機種がでている。
私たちは、若い時代が過ぎ去っても、プリクラを撮り続けるのだろう。

まさに、人生のアルバムといったところだろうか。
写った姿は虚像であるが、そこには生きて交わした時間がある。


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