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六花亭児童詩誌「サイロ」10月号お気に入り

どうも、森たまみです。
10月中ばとなりました。
今回はサイロ754号・10月号のお気に入り作品を紹介していきます。

こちらは六花亭が無料で発行している児童詩誌で、毎月、月のはじめに更新されています。

本誌はこちらから。


お気に入り作品

「あ」

つめたいつめたい秋がきた

十勝って広い

もうお年より

ここは六十キロだよ

二回目のお盆

今回は選んだ作品の中から、「二回目のお盆」というタイトルの詩を取り上げで、少し話していきます。
これは、小学校6年生の子が書いた詩で、「お盆」という行事での「ぼんちょうちん」から、自分の母親が亡くなった時間に気付かされています。亡くなってから1年半でお盆が2回目ということは、だいたい2月くらいに亡くなり、その年のお盆を迎え、翌年の8月を迎えたという時間での詩になります。
しかし1年半経った今でも、「亡くなったということを理解できない」でいて、けれども文末は「心の中で生きていると私は思う」と締めています。

生と死の分かれ目/見落とされがちなこと
生きていることと死んでいることの大きな違いは、実在の消失、身体が動かなくなる、ということです。
しかし、そういう人が未来を生きられないかというと、そうではありません。

死んだ後も、誰かの記憶や想像の中でその存在は残る可能性はあり、そんな誰かの心の中で言葉を発したり、行動できるというわけです。
そして、それは何も死んだ相手に限りません。生きている相手だって、私たちの心の中で生きています
例えば好きな人。好きな人に会えない時、その相手のことを思い出したりしますよね。次はどんな風に声をかければいいか、どんな会話をしようか、これからどうなっていくのか、そんなことを私たちは想像します。それは相手の実在の有無に関係なく考えられることで、それは、心の中で生きていると言えますね。
相手が生きている時は、その実在する相手が目の前にいるので、心の中の存在についてはあまりはっきりと意識することはないでしょう。しかし、相手を失った時、私たちは心の中に住む相手の存在に気が付きます。これは、そうであってほしいという願いや欲とも言えるかもしれません。しかし、自分の記憶や体験ほど曖昧で、同時に、信じられるというものは無いようにも思います。だから、そうしたものを頼りに、相手の輪郭を描いていくんだと思います。

それでは、詩に戻りましょう。
(母親が)「亡くなった」ことを「理解できない」
 (母親が)「心の中でずっと生きている」ことを「私は思う」

これは、(死を理解できない)乗り越えられない自分と(心の中で生きていると思う)乗り越えた自分がいて、一見、矛盾しているようだったり、二つの自分が織り混ざった表現に感じるかもしれませんが、しかし、そうではありません。

これを考える上で注目したのが動詞です。
「理解する」と「思う」の動詞の違いは
「理解する」は、より根拠を必要とします。また違う言葉で「受け取る」という意味も含みます。
それに対し、
「思う」は、自分本位な意見に近い表現です。「感じる」という言葉が近いですね。

だから、言い換えると
「亡くなったことを受け取れない」
「心の中で生きていると感じる」

先ほども言ったように、心の中の存在は相手の生死に関係ありません。だから相手が亡くなったことの認識とは一切関係ありません。
しかし、私たちは誰かの消失を一つの機会として、心の中の存在に初めて気がつくことができます
何かを失った時に、それを代替するものを見つけたり、すぐ近くにいたけれど、他の物の陰に隠れて見えなかったという感覚ですね。そして視覚情報の優先度が高い私たちですから“実像”に信頼を置くのは当然ですよね。
そして、その“実像”があれば、“虚像”は見えません。しかし、“実像”が無くなるとどうなるか。次は、その“虚像”として隠れていたものが“実像”となって目の前に現れます

だからこの詩は“実像”を信じながらも、別の“実像”にも気が付くという瞬間が描かれているのでは無いかと思いました。でも、その別の実像は「感じる」くらいの曖昧なもの。目で見える訳でも無いし、触れられるものではないけれど、あるかもしれないくらいの霞のようなもの。でも確かにあると信じたいもの。

もちろん詩の言葉の中を鵜呑みにすればという話ですが、これってすごいことですよね。おそらく、これは死別してから、1年半という時間を経なければ書けなかった詩です。

私も家族との死別は何度かありましたが、しかし、こうした考え方は高校生3年生くらいになって、はじめて持てるようになりました。高校1年の時に祖母が亡くなったのですが、それから2年してようやっと気が付きました。
だから、これを小学生が書いているというのが驚きで、衝撃的だったので、今回取り上げさせていただきました。

今回は相当長くなりましたが、読んでいただきありがとうございます。

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