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【夢日記】どんどろ地蔵

列車の脱線事故に遭った。車両の後ろにいて棒に掴まっていたため死なずにすんだ。
目を覚ますと病室にいた。しばらく眠っていたようだ。医者と看護師に声をかけて、病院を後にする。

坂を上っていく途中にコミュニティバスの乗り場があることを、私は知っている。バス停の丸い看板に「島根県」と書いてある。そうか、ここは島根か。と思ってバスを待つ。

坂の下の方から、老いた赤犬を連れた老人がゆっくりと歩いてくる。散歩ついでに買い物へ行くのが日課だが、今日は停電があって遅くなってしまったという。辺りはすっかり夜だ。
「停電って脱線事故の関係ですか」と尋ねる。私は、事故の詳細をなんとかして探ろうと思っている。
「たくさん死んだからねえ」
「結局何人亡くなったんですか?」
老人は少し呆れたような声で、8人だよと答えた。

老人は停留所の後ろの石垣に腰掛けて、弁当でいいや、と持っていたビニール袋からスーパーで売っているような弁当を取り出し、
「自炊するのも大変だしね」と弁当を食べ始めた。
私も持っていた弁当を開けて食べた。つくねが入っていたので、老人と分けた。パサパサしているなあと思った。
老人の家に行って料理を作ろうかとも思ったが、特に料理が得意でもない私が、長いこと自炊している人に作ってやれるものなど大してなさそうだと思いやめた。老人も家に来てほしそうだったが、私の思っていることがわかって諦めたらしかった。
老人の家は坂の下の方にあるらしい。弁当を食べ終わって、そこまで行くのも悪くないなと思った。次のバスは21時20分に来る。それが終バスなので、乗り遅れるわけにいかない。現在20時半。50分で帰って来れますかね、と尋ねると老人は「じゃあやめた方が良さそうだ」と言った。少し残念に思った。
「西の方に行くかい」と老人は言った。坂の上の方が西のようだ。
「西には何があるんですか」
「部落解放の博物館とかがあるよ」
それも面白そうだと思って、ついて行くことにした。


坂の上には古い墓地があった。真ん中辺りに小屋のようなものがある。老人はその前に立ち、ニコニコと何かを指さしている。
墓石の中にひとつだけはっきりと文字の読めるものがあった。他と異なる、かわいらしい字体で「どんどろ地蔵」と書かれていた。七福神の布袋さんのようないでたちの地蔵で、親しみやすい顔だなあと感じた。

小屋の壁にはいくつかの古びた写真が貼ってあった。赤ん坊を抱いた地蔵の写真もあった。見ると、赤ん坊が先ほどの老人の顔によく似ていた。あ、この赤ん坊がどんどろ地蔵になったんだ、そして、それがさっきの老人だったのか。と確信した。老人の姿はもうなかったが、笑っているな、と感じた。

(2020.6.17)

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