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サイゼリヤでとっておきの極上パスタを



私たちの柔らか青豆の温サラダから、パンチェッタが姿を消した。


それは5日前のこと。戯れにサイゼリヤ公式ホームページで電子メニューを見ていた時だった。

『柔らか青豆の温サラダ』に代わり、『柔らか青豆とペコリーノチーズの温サラダ』を販売しております。


この一文が私の頭を殴った。
柔らか青豆の温サラダとは、サイゼリヤでファンから絶大な支持を得ている大人気メニューである。瑞々しくはじける柔らかい青豆にパンチェッタの旨味と塩気、そしてとろける温泉卵が織りなす絶妙な味のバランスは、他では味わうことのできないサイゼリヤのオンリーワンメニューだと言って良い。

その青豆の温サラダから、パンチェッタが消えたのだ。

私は事実を確かめる為、今にも崩れ落ちそうな膝を奮い立たせ、サイゼリヤに走った。
パンチェッタのない青豆の温サラダに、私は向き合う事ができるだろうか。込み上げる不安を抑えながらメニューを開く。電子メニューで見た通り、そこには柔らか青豆の温サラダの姿は無く、私は新メニューである柔らか青豆とペコリーノチーズの温サラダを注文した。

いつもの青豆と温泉卵の上に、フワッと盛られたペコリーノチーズ。新雪を踏む時のような緊張と高揚感が込み上げる。スプーンで温泉卵をぷちゅんと割り、おそるおそる混ぜて口へ運ぶと、やさしいチーズの香りがイタリアの風の如くさわやかに鼻を抜けた。カルボナーラを彷彿とさせる濃厚な味わいが、私と鼻と舌を楽しませる。ありがとうサイゼリヤ。たとえパンチェッタが無くとも、これは新しいメニューとしてこれからも私たちの心を満たす。そう確信した。

シン•柔らか青豆の温サラダに舌鼓を打ちながら他のメニューを眺めていると、隣に並ぶほうれん草のソテーにはパンチェッタが健在だった。
私は閃いた。『どうしてもパンチェッタが恋しくなったらほうれん草のソテーも同時に頼み、パンチェッタを青豆サラダに移植すればいいのでは…?』私はこのコナン君も裸足で逃げ出す名推理をTwitterに書き殴った。

すると、フォロワーさんから全く意図していなかったリプライが飛んできた。


「柔らか青豆の温サラダとほうれん草のソテーをペペロンチーノにぶっかけて混ぜると、最高のパスタが出来上がります!個人的イチオシです!」


青豆サラダとほうれん草のソテーを?ペペロンチーノに…?
サイゼリヤは公式で、メニュー同士を組み合わせる掛け合わせグルメを推奨しているとは言え、まさかダブルトッピングなんてそんなセレブみたいな事をしているこの世に人がいたとは。私はヒェェとたまげて腰を抜かした。
やりとりをする中で、その方はサイゼリヤの元従業員さんだという事がわかった。このアレンジは働いていた当時、数えきれないくらい食べたメニューだという。

そのツイートからキラリと光るサイゼ愛を感じた私は2日後、またしてもサイゼリヤへと足を運んだ。自宅から徒歩圏内にサイゼリヤがあって本当に良かった。ランチタイムで混み合っていたものの、運良く空いたドリンクバー近くの席に通された。
注文するのはドリンクバー、柔らか青豆とペコリーノチーズの温サラダ、ほうれん草のソテー、そしてペペロンチーノの4品だ。

期待で高まる胸を抑えながらまずはドリンクバーでひと息つく。酒の飲めない私は、サイゼリヤのドリンクバーに必ずある白ぶどうスカッシュでスパークリングワイン気分を味わっている。

「おまたせいたしました」

店員さんが先に運んできたのは、柔らか青豆とペコリーノチーズの温サラダ、ほうれん草のソテーだった。テーブルに並んだ皿を見て怯む。この2皿だけで相当なボリュームなのだ。とても1皿200円のクオリティとは思えない。
それからペペロンチーノが来るまで5分ほど待った。それまではサイゼリヤで1番テーブルが緑色の女だったと思う。


『柔らか青豆の温サラダとほうれん草のソテーをペペロンチーノにぶっかけて混ぜると、最高のパスタが出来上がります!』

いただいたリプライをお守りのように読み返し、意を決した私は皿を掴んでペペロンチーノにぶっ掛けた。ドドドッとペペロンチーノを埋め尽くす豆と草。ペペロンチーノの面影はあっという間に消え失せ、山のような豆とほうれん草の盛り合わせがドンと大きな1皿に収束した。
3品を1皿に盛ったのだ。そのボリュームが放つ迫力は、私と、ドリンクバーを注ぎに来た客の視線を釘付けにした。

『あの人は一体何を食べているんだ…?』

と声なき声が聞こえてくる。そそがれる視線を気にしたら負けである。「これが私のサイゼリヤですが何か?」と毅然とした態度で内なる動揺を隠しながら、私は皿の上でパスタをかき混ぜ、フォークで巻き取り口へと運んだ。


プチっ!

じゅわっ、プチプチッ、じゅるるっ

咀嚼する度、青豆とほうれん草がかわりばんこに旨みを放出し、口の中を満たす。そのジューシーさの勢いたるや、口の中で温泉を掘り当てたような大騒ぎである。ペペロンチーノのニンニクが援護射撃となり、野菜たちから溢れる旨味を更に奥行きのある深い味わいへと変えていく。美味しい。こんなパスタは食べた事がない。
壁に並んだ絵画のすっぽんぽんの天使が、私の為に福音を鳴らしているようだった。

食べきる事ができないのではと懸念していたボリュームも、嘘のようにするすると入った。ほぼ野菜のこのパスタは、かなりヘルシーであっさりしているのだ。シンプルな味わいの中に隠れる様々な旨味と出会うたびに、サイゼリヤの底力を思いしらされる。

カチャ、とフォークを置き、先ほどまでこんもり盛られていた豆と草とパスタの無き皿をぼんやり眺める。美味しかった…ただただその幸福が私を包んだ。

一息つき、レシートを手に取る。

・青豆とペコリーノチーズの温サラダ  200円
・ほうれん草のソテー  200円
・ペペロンチーノ  300円

700円。たった700円で、この贅沢なパスタを味わう事ができるのだ。

これらをコスパが高いという言葉で片付けてしまっていいのだろうか。私はサイゼリヤへ惜しみない拍手と共に、全ては御社の企業努力の賜物であると賛辞を送りたい。これが“日々の価値ある食事の提案と挑戦”を経営理念に掲げているサイゼリヤへ、いち消費者としての私が贈るアンサーだ。


帰宅後、すぐにこのアレンジを教えてくださったフォロワーさんにお礼のメッセージを送った。いただいた返信には私がすぐに試した事を大変喜んでくださっている内容と共に「サイゼリヤが好きすぎて店員になりましたが、辞めた今も大好きな会社です」との一文があった。きっとこの一文がサイゼリヤを表す全てなのだろう。



嬉しい出会いと発見、またサイゼリヤの今後益々の発展と躍進を願い、僭越ながらこのアレンジに名前をつけさせていただきたい。

柔らか青豆とほうれん草のごちそうパスタ、ぜひお近くのサイゼリヤで。



2022.3.13 追記

大変残念なお知らせなのですが、春の新しいメニュー表から、ほうれん草のソテーが無くなってしまいました。出会いと別れの春。ほうれん草のソテーとはまた会えると信じて、メニューに加わった新しい顔ぶれたちと仲良くやっていこうと思います。

サイゼリヤよ永遠なれ。
ごちそうパスタよ、またいつの日か。

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