僕は縦列駐車ができない

 東京にいた頃は胸を張ってペーパードライバーを名乗っていたが、ここじゃあそういうわけにはいかない。

 田舎は一人一台が常識、というのは分かってたが想像以上に「足」だった。みんなとにかく歩かない。みんな、というか大人が歩かない。子ども達は3~4km離れた学校まで歩いて通う。旦那は家から小学校まで5km近く離れていたが、走って通っていたらしい(おかげで足が早くなったと言っていた)。
 ようするに子どもは全然歩く。ここで生まれ育ってきた大人達も幼少期は全然歩いてたはずなのに、今は全然歩かない。職場やスーパーまではもちろん、散歩がてら歩いてもいいんじゃない?という場所へも車で行こうとする。私は未だお上りさんなので、澄んだ空気と大自然を感じながらのんびり散歩したい・・・。
 衝撃的だったのはとある大雨の日にスーパーへ行くと、駐車場から店に入るまでに濡れることを厭わないのか、誰も傘を差してなかった。車移動に慣れすぎて、僅かな距離だと傘を差す人は少ないらしい。ずぶ濡れのおじさんが車から店先までのんびり散歩していた。

 それほどまでに、生活に車は欠かせない。欠かせないどころか無いとしぬ。にも関わらず、無事故無違反無運転のペーペードライバーであることに誇りを持って移住してきてしまった。東京にいた頃も、遠距離恋愛の合間にこっちへ遊びに来た時も、全く運転しなかった。結婚が決まり移住するってなっても、それでも練習してこなかった。助手席ってほんと居心地良い。
 そもそも私が免許を取得したのは社会人になってからだった。学生の頃は「別に運転なんてできなくてもよくない?」とのたまっていたのだ。酷いときは「将来は運転手付けてやっからアハハ」くらい言ってた気もする。教習所に通うのが超面倒臭かったし、私の行動範囲を考えると運転ができなくても、車がなくても、全く問題なく生活できそうだったのだ。
 しかし母からは「身分証明書代わりに取りに行きなさい」と散々言われていたので、卒業間近にようやく重い腰をあげ通い始めた。その頃はまだマイナンバーカードというのはぼんやりした存在だった(気がする)。当時すでにマイナンバーカードがしっかり普及していたら、今も無免許だったと思う。ちなみに遊び呆けていたせいか在学中に取得できず、社会人になってもしばらく大学近くの教習所へ通い続けていた。超面倒臭かった。

 今までの人生で「自分」と「車の運転」がまるで結びつかなかった。無縁だった。他のペーパードライバーよりもその気持ちが強かった気がする。運動神経も動体視力も悪く、普段からぼんやりしがちなので正直自信がなかったというのもある。それがどうだい。「車が無くても生活に支障がない」場所から、「車が無いと生活できない」場所へと越して来てしまったのだ。

 そんなわけで今は旦那の車で必死に練習している最中である。対向車がとにかく少ないので簡単っちゃ簡単だが、それでもスピードを出すのはまだ怖い。ずっと徐行が良い。旦那に「はい60km出してね~」と言われてもビビって54kmほどしか出せず、「四捨五入したら60だから・・・」と言い訳してしまう。
 数多いる高齢者たちはスピードを出してブイブイ運転している。かっこいい。だけど「彼奴等は右ウィンカーを出しながら左に曲がってくっから気をつけろ」と複数人から警告された。私も同じことしそうで全然笑えなかった。
 あとは駐車もまだ全然できない。どうしても曲がってしまう。一度曲がったらもう直せない。面倒くさい。が、多少曲がったとて誰にも迷惑がかからないのが田舎の良いところだ。
 田舎といえば、海沿いのドライブはやはり超気持ちいい(助手席にて)。明るい昼間のエメラルドブルー、海に溶けていく大きな夕陽・・・。
 いずれはBGMは大音量に、窓を少し開けて、潮風を感じながらあの頃に思いを馳せて運転・・・なんてことがしたいので、とにかく今は練習するのみである。

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