最終課題 小説『さよなら、』
目の前が真っ赤な幕に覆われている。赤いネイルのついた小さい足では、木がぎしぎしと音を立てている。僕は場ミリの一つもないその床の一番後ろに立っていた。上手にも、下手にも、人は一人もいない。幕の向こうからのみ、人の気配を感じる。ざわざわ、がやがや、声がすると思えば、生物の強い熱気すら感じる。
開演ブザーが鳴り響いて、緞帳が上がる。ブザーの重く、唸るような音に頭が揺られた。私は、役もセリフも知らない舞台に立たされている。背中にドロッとした汗が流れる。完全に幕が上がって、照明が一斉