【2022年6月1日】ロッテ・中村奨吾、NPB史上22人目の全打順本塁打を達成!

千葉ロッテマリーンズの中村奨吾が首脳陣の期待に「一発回答」した。

6月1日、対東京ヤクルトスワローズ戦で、中村奨吾はプロ8年目、出場901試合目にして初の「4番」打者に起用された。
ロッテが0-1と1点ビハインドで迎えた2回、中村が先頭打者として右打席に入ると、ヤクルト先発の右腕・原樹理の投じた初球を捕えた。打球はロッテファンが居並ぶレフトスタンドへ。
中村奨吾の今季3号ソロホームランで、ロッテは同点に追いついた。
その直後、安田尚憲の今季1号となる勝ち越しアーチ、4回にも2打席連続となる2号ソロ本塁打、同点で迎えた6回にはブランドン・レアードの勝ち越しタイムリー安打で、ロッテがヤクルトをかわし、4-3と逃げ切った。

中村奨吾は奈良・天理高校で3度の甲子園出場を経て、早稲田大学野球部に進んだ。
同級生にはエース有原航平(元日本ハム→MLB移籍)、1学年下には茂木栄五郎(楽天)、重信慎之介(巨人)を擁し、正二塁手の中村奨吾は4年生の時に主将を務め、リーグ優勝こそ果たせなかったが、自身2度目のベストナインも受賞した。
そして、中村と有原の二人は共に2014年のドラフト会議で、それぞれロッテ、日本ハムから1位指名を受け、プロの世界に飛び込んだ。

中村にとって、大学時代を過ごした神宮球場ははいわば、思い出深い「庭」である。
東京六大学野球リーグでは通算11本塁打を放っていた。
その11本目は、最後の秋の早慶戦で、慶應の投手・加藤拓也(現・矢崎拓也、広島)から放った一発である。
そのゲンのよさが早速、打球に乗り移った。
今季、ロッテは主砲格が軒並み不振で苦しみ、得点力不足に悩む中、中村は首脳陣の「4番起用」に一発で回答して見せた。
そして、これが中村奨吾にとって、プロ入り全打順で本塁打を記録するという、メモリアルな一打となった。

NPBで「全打順本塁打」を記録した選手は、中村奨吾まで22人を数える。


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「全打順本塁打」というのはつかみどころのない記録である。
達成した選手の特徴を考えてみると、一概には言い表せない。
「必然」と「偶然」が重なり合わないと達成が難しい記録だ。

①若い頃、そこそこ足が速かった。
②バント・ヒットエンドランなど小技が使えるなど器用さがあるが、ホームランも打てる、いわゆる「小力」がある。
③入団当時は①や②のようなタイプだったが、ホームランバッターとして開花した。
④監督が、対戦投手との相性などのデータを重視して打線を組むタイプだった。
⑤チームに主砲クラスが不在の時に、「繋ぎの4番打者」として起用された。

さらに、パ・リーグはDH制を導入しており、野手も打順9番に入るが、セ・リーグは交流戦の時だけしかDH制が無いため、全打順本塁打の達成の難易度が高いといえる。

・達成者22人のうち、セ・リーグでの達成が4人、パ・リーグでの達成は中村で18人目。
・達成者がもっとも多いチームはロッテで、中村で5人目となる。
・複数球団に跨って記録達成したのは5人いるが、そのうち、3球団に跨って達成したのは岩本章(名古屋・産業・中部日本・中日→阪急→広島)だけ。
岩本章は最初に入団した巨人では本塁打を記録していない。
松永浩美は阪急・オリックス→阪神→ダイエーと渡り歩いたため、パ・リーグとセ・リーグのチームに跨って移籍はしているが、阪急・オリックス時代に、打順1番から8番まで本塁打を記録しており、ダイエー移籍後に打順9番で本塁打を放って達成しているため、記録達成はリーグを跨っていない。


・セ・リーグで最後に達成した2009年の吉村裕基は、1973年の島谷金二以来、36年ぶりの快挙となった。
・全打順本塁打を最速で達成したのは、島谷金二でプロ入り5年目。
・逆に記録達成までもっとも時間を要したのは、松永浩美でデビューから19年目。
松永浩美は記録達成を通算200本塁打で決めている。
・NPB現役最後の年に達成しているのは岩本章清田育宏だけ。

・もっとも少ない本塁打数で達成しているのは五十嵐章人で、通算26本塁打目を打順8番で記録して到達。しかも、キャリア最後の本塁打で記録達成を決めたのは五十嵐が唯一。
さらに、五十嵐は打順1番・3番・4番・8番・9番でそれぞれ1本塁打ずつしか打っておらず、しかも、打順4番での出場は生涯で1試合しかなく、その試合で本塁打を放っている。

・最後、打順4番で本塁打を打って記録を決めた選手は中村奨吾まで8人いる。
そのうち、打順4番に入った初めての試合で決めたのは、島谷金二岡持和彦がいたが、打順4番に入った試合の初打席で決めたのは中村奨吾が初の快挙。
・プロ初本塁打が代打本塁打で、その後、全打順本塁打を記録したのは栗橋茂岡持和彦の2人しかいない。そのうち、岡持は最後、打順4番で本塁打を放ち記録を達成している。
・プロ初本塁打を打順9番で放って、最後、打順4番での本塁打で記録達成を決めたのは、島内宏明清田育宏。そのうち、プロ初先発が打順9番だったのは島内だけ。

・通算2000安打を達成しているのは、山崎裕之田中幸雄井口資仁(MLBを含む)の3人。
・本塁打王になっているのは岩本章(名古屋軍・1943年・4本塁打)、T-岡田(オリックス・2010年・33本塁打、浅村栄斗(楽天・2020年・32本塁打)の3人。

・プロ入り後、一軍で投手として登板経験があるのは岡持和彦五十嵐章人の2人。
岡持和彦は東映フライヤーズに投手として入団、新人時代に一軍で2試合に登板しており、野手転向後、プロ4年目に野手として初出場。投手を振り出しに、「代打でプロ初本塁打」、その後、全打順本塁打を記録したのは岡持しかいない。
五十嵐章人はオリックス在籍時、2000年6月3日の対大阪近鉄バファローズ戦の8回裏に投手として登板(五十嵐は高校時代、投手の経験あり)、1回を投げ、被安打1、無失点に抑えると、NPB史上2人目となる全ポジションでの出場を達成した。
・すなわち、五十嵐章人は「全ポジション出場」と「全打順本塁打」の両方を達成したNPB史上唯一の選手である。まさに「スーパーユーティリティプレイヤー」の権化といえる。

「全打順本塁打」という記録は、その打者が出世魚のように変異や進化しながら成長を遂げたことを示す証なのかもしれない。

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