中田翔選手の移籍についての4つの問題点

北海道日本ハムファイターズから出場停止処分を受けていた中田翔選手が今日(8月20日)、読売ジャイアンツに移籍することが発表された。

ファイターズは8月11日に、中田翔選手に対して、統一選手契約書第17条(模範行為)違反による出場停止処分を科したと発表しており、同日に野球協約第60条(1)項を適用して、コミッショナーにより「出場停止選手」として公示されていた。それから10日もたたずに、電撃的な移籍により「決着」を見た。

私は中田翔選手にはセカンドチャンスを与えるべきだと考えている。
しかし、中田翔選手をめぐる2球団、そして、NPBのコミッショナーには以下の4つの観点で疑問と問題があると言わざるを得ない。

問題点① 無期限出場停止処分を受けた選手を移籍させる「道義的責任」はないのか

日本ハムの栗山英樹監督は8月16日、報道陣に対して、
「(中田翔選手が)正直、このチームでは(プレーを続けるのは)難しいかな」
「ファンの皆さんや、野球界であったり、社会に対して、本当に責任を感じているし、誰が悪いのかと言ったら監督である私自身。本当に申し訳ありません」

編成の責任を負っていない監督が、斯様な発言をすることにも違和感があった。
選手に対して責任を負っているのは、球団である。

その球団が、当該選手に対する処分からわずか10日足らずで、他球団への移籍させるというのは、球団として責任を放棄していると言わざるを得ない。

巨人の大塚淳弘・球団副代表は、中田翔選手の謝罪会見後に、報道陣に対して、
「(中田翔選手は)環境を変えれば、もっともっとできるんじゃないか。戦力として。もう1つは過ちを犯さない、完璧な人間はいないじゃないかと。その中で、巨人がもう1度、中田選手にチャンスを与えたい。痛みを共有した方がいいんじゃないかと。もう1つは、原監督の下であれば、人として、プレーヤーとして、輝きを戻せるんじゃないか」と、中田翔選手の獲得を決めた経緯を説明した。

一方、読売ジャイアンツの原監督は、
「(中田翔選手は)まだ32歳、才能ある野球人である。過去、現在、未来全てを共有する覚悟で、ジャイアンツとしてはもう一度チャンスを与えるべきだと私自身も思いました。彼はまだ表に出ていないので、自身の過ちにおいてしっかりと謝罪するところから始めよう」
「道を閉ざすことはしてはいけない。過ちを反省して、その後の行動で信頼を勝ち取ってもらうしかない。そこでもし仮に繰り返すようなことがあるならば、そこは私が断を下します」

原監督も野球人として非常に殊勝な発言だと思う。中田翔選手に公の場で謝罪を促している面も評価できる。

だが、中田翔選手が起こしたことと、社会的な影響を考えれば、中田翔選手には、もっとしかるべき一定期間の謹慎期間を与えることが重要なのではないだろうか。

読売ジャイアンツ、ならびに原監督が中田翔選手をどれだけの戦力としてみているかはわからないが、暴力事件を起こして処分された選手への対応としては誠に甘すぎると言わざるをえない。

ややもすれば、球団が、不祥事を起こした選手の「救済」という美名のもとに、火事場泥棒的な選手獲得をするとみなさざるを得ない。
これでは、野球ファンから多くの支持は得られないであろう。

出場停止処分を受けている選手の移籍に合意した両球団の「道義的責任」と、それを看過しているNPBの責任は重いと考える。

問題点② NPBコミッショナーが中田翔選手を処罰していない

今回、日本ハムファイターズは、野球協約にのっとり、中田翔選手に対して出場停止処分を下した。
野球協約の第60条では以下の通りに定められている。

野球協約 第60条(処分選手と記載名簿)
選手がこの協約、あるいは統一契約書の条項に違反し、コミッショナーあるいは球団により、処分を受けた場合は、以下の4種類の名簿のいずれかに記載され、いかなる球団においてもプレーできない。

(1)出場停止選手と出場停止選手名簿(サスペンデッド・リスト)
球団、あるいはコミッショナー、又はその両者は、その球団の支配下選手に対し、不品行、野球規則及びセントラル野球連盟、パシフィック野球連盟それぞれのアグリーメント違反を理由として、適当な金額の罰金、又は適当な期間の出場停止、若しくはその双方を科すことができる。
球団、あるいはコミッショナー、又はその両者によって出場停止処分を科された選手は、コミッショナーにより出場停止選手として公示され、出場停止選手名簿に記載される。
出場停止選手は、出場停止期間の終了とともに復帰するものとする。
出場停止選手の参稼報酬については、1日につき参稼報酬の300分の1に相当する金額を減額することができる。なお、減額する場合は、上記の方法で算出した金額に消費税及び地方消費税を加算した金額をもって行う。

すなわち、野球協約には「出場停止選手は、出場停止期間の終了とともに復帰するものとする」としか記載はなく、「出場停止選手」がどのように「出場停止」が解除されるか、記載がない。
これは、野球協約の不備だと思われる。

そもそも、中田翔選手の暴力行為に対して、日本ハムが処分を下しているのに、NPBが何の処分(罰金、出場停止処分)を課していないのは理解に苦しむ。

これでは、NPBは、選手の暴力に対して、どのようなスタンスをとっているのか明確ではなく、少なくとも、NPBが選手の暴力に対して、対応が甘いと言わざるをえない。

問題点③ 野球協約上、「出場停止処分」がどのように解除されるのか明確でない。

しかも、今回、NPBのコミッショナーが下した出場停止処分であれば、NPBのコミッショナーに処分解除の説明責任が生じるであろうが、今回はそうではない。
仮に野球協約に記載がないとしても、選手の移籍をもって、十分な理由の説明のないまま、その処分が解除されることはありえないと解される。

これでは、野球協約の「出場停止処分」には抜け穴があると言わざるを得ない。

したがって、日本ハムが何をもって、中田翔選手の出場停止処分を解除したのか、理由もはっきりしないし、説明責任の所在もあいまいである。

「Aチームで受けた出場停止処分が、Bチームに移籍するので、自然に解除される」と解釈されても無理はなく、それはプロスポーツリーグのガバナンスとしては未成熟だ。

野球協約を定めているNPB、出場停止処分を下した日本ハム、中田翔選手を移籍によって獲得した読売ジャイアンツはそれぞれ、説明する責任があると考える。

問題点④ 日本ハムは中田翔選手に日本ハムの一員として謝罪会見をさせるべきだった。

ファイターズファンからすれば、この点がいちばん腑に落ちないのではないか。

中田翔選手は北海道日本ハムファイターズの一員として問題を起こしたのであり、斯様な処分を受けたのであれば、すぐに謝罪会見を行うべきであった。

日本ハムファイターズは何等かの事情によって、それを回避したと思わざるをえない。
読売ジャイアンツではなく、日本ハムファイターズが中田翔選手の謝罪の場を用意すべきであった。
これは一企業の姿勢として、疑問を持たざるをえない。

そして、何より、日本ハム球団は「ファンあってのプロ野球」をないがしろにする行為であることへの認識が欠如しているのではないかと思わざるを得ない。


繰り返すが、私は中田翔選手にはセカンドチャンスを与えるべきだと考えている。
だが、それは中田翔選手が真摯に反省をし、しかるべき期間を経てから、選手としての復帰を模索、あるいは周囲も支援すべきことであり、出場停止処分からわずか10日間足らずで、選手として復帰させることには激しい違和感を覚える。

そして、NPBのコンプライアンス意識の低さ、北海道日本ハムファイターズ、読売ジャイアンツのガバナンスには疑問を持たざるをえないし、「一般社会」との認識の乖離を感じざるをえない。

そして、必ずや、将来、斯様な事案は再発するであろうことを懸念する。
他の球団も含め、監督、コーチ、選手の不祥事問題についての対応は、NPBを挙げて、もう一度、慎重に検討していただきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?