NPB2023年日本シリーズの総括と来季への展望

第74回を数える「日本シリーズ」は阪神タイガースがオリックス・バファローズを下し、38年ぶり2度目となる日本一に輝きました。

1950年に日本の職業野球が2リーグに分立して以降、関西のチーム同士で争われた2度目の日本シリーズとなりましたが、3勝3敗のタイで迎えた第7戦は阪神がシェルドン・ノイジーの2試合連続ホームランとなる先制3ランなどで挙げた7得点を、先発の青柳晃洋からクローザーの岩崎優までの5人の投手の継投で逃げ切って7-1で勝利し、タイガースファンの長年の悲願を成就させました。

第7戦の勝負を分けたポイント



3勝3敗で迎えた大一番、阪神の先発はシリーズ初登板となる青柳晃洋、オリックスの先発は第2戦で阪神打線の勢いを止めた左腕・宮城大弥に託された。

①オリックス 3回裏 2死一、二塁のチャンスを生かせず


オリックスは0-0の3回裏、9番・福田周平がライト前ヒット、2番・宗佑磨が四球を選んで2死一、二塁のチャンスをつくったが、3番・紅林弘太郎がファーストゴロに倒れて、先制のチャンスを逃した。
阪神先発の青柳を捉えることができなかった。

②阪神 4回表 1死一、二塁から5番・ノイジーが先制3ランホームラン



オリックス先発の左腕・宮城大弥は3回まで被安打1と快調に飛ばしていたが、4回、一死から3番・森下翔太にレフト前ヒットを打たれ、続く4番・大山悠輔に死球を与えてしまい、ピンチを迎えた。

ここで5番のシェルドン・ノイジーを迎えると、宮城は2球続けてストレートで押し、見逃しでカウント0-2と追い込んだ。
3球目、外角低めのフォークで誘ったがノイジーは見逃し、カウント1-2となった4球目、捕手・森友哉の要求は再び外角であったが、チェンジアップが抜けて内角低めへ。
これをノイジーが掬い上げるようにバットを出すと、打球はレフトスタンドへ。

ノイジーが2試合連続となる先制弾、しかも値千金となる3ランホームランで、中盤に大きなリードを奪った。
阪神の外国人選手が日本シリーズで複数のホームランを放つのは1985年のランディ・バース(3試合連続で3本)以来となった。


③阪神先発・青柳晃洋が”終わり良ければ総て良し”の無失点投球



阪神先発の青柳晃洋は第7戦目にしてシリーズ初登板。
今季のレギュラーシーズンでも、オリックス戦では初登板となった。
青柳は昨季まで2年連続のセ・リーグ最多勝、最優秀防御率の「投手2冠」を掌中に収め、今季は2年連続の開幕投手が内定していたが、開幕前のオープン戦最後の登板では同じ京セラドーム、オリックス戦で先発し、中川圭太からホームランを浴びるなど、4回を投げ、被安打8、3四球、3失点。
岡田監督からは”クイック投法”に苦言を呈されるなど、不安が残った。

それでも青柳は今季の開幕戦、DeNAを相手に勝利を挙げたものの、その後はやはり昨季まで「エース格」の投球からは程遠い出来で、5月19日の対広島カープ戦で7失点ノックアウトを食らうと、7試合で2勝3敗、防御率5.63でついに登録抹消となった。

そこから青柳はファームで調整を続け、7月11日に一軍で復帰登板を果たし、復帰後の9試合は登板した7試合連続で負けなしという投球を続けるなど、6勝1敗、防御率3.10とまずますの結果を残した。
しかし、阪神のリーグ優勝が決まった後、2試合の先発登板では0勝2敗、防御率8.38と乱調で3年連続のシーズン二桁勝利を逃していた。

青柳はクライマックスシリーズファイナルステージでも登板機会がなく、フェニックスリーグで調整登板を続けてきたが、38年ぶりの日本一を賭けた大一番で先発登板が巡り、見事に大役を果たした。
6点リードしながら5回2死一、二塁の場面での降板となり、日本シリーズ初登板・初勝利とはならなったが、交代を告げられた青柳の顔には納得と安堵の表情が浮かんでいたように思う。

④阪神 5回表 2死一、三塁から3番・森下翔太がダメ押し2点タイムリー二塁打



阪神は5回表1死走者なしから、9番・坂本誠志郎がヒット、1番・近本光司がセンター前ヒットでつなぎ、1死一、二塁となったところで2番・中野拓夢はショートゴロで6-4-3と渡り、当初は一塁も「アウト」でチェンジの判定だったが、リクエストで判定が「セーフ」に覆った。

ここでオリックスベンチは宮城をあきらめ、2番手のベテラン・比嘉幹貴にスイッチした。
結果としてこの継投が裏目に出て、3番・森下翔太にレフトへのタイムリー二塁打が飛び出した。
比嘉と森のバッテリーは森下に対して、初球から3球続けてストレートで押して、カウント1-2と追い込んだ。
しかし、4球目のフォークを森下に見切られ、5球目のフォークはファウル、6球目の外角低めへのスライダーは見切られ、7球目の外角へのフォークは浮いたところをファウル。
最後の8球目はさらに真ん中に入ったフォークを森下に痛打された。
森下が打席で粘るうちに、変則サイドスロー右腕の比嘉のボールに適応してきており、最後はコントロールミスを捉えられた。
(また、この後、森下が二塁まで進んでいたのも好走塁だった)

続く4番の大山悠輔は初球の外角低めのスライダーを捉え、三遊間の深い位置まで運び、タイムリー内野安打。阪神が5点目を挙げた。
大山は比嘉が動揺するまま投じた初球を狙っていたかのようだった。

オリックスはここでさらに比嘉を続投させると、6番のノイジーにもセンターへ運ばれ、致命的な6点目が入った。

比嘉と森のバッテリーは終始、単調な組み立てになってしまっていた。
宇田川優希が万全であれば、森下あるいは大山の打席から投入していただろうが、前回の対戦で痛打されており、リベンジを果たさせる場面としてはあまりにも荷が重すぎた。
ブルペンには小木田敦也もおり、第3戦で先発、好投していた東晃平もベンチ入りしていたが、大事な場面で投入できないまま、リード差を広げられてしまい、オリックス打線の反撃の機運を削いでしまったように思う。

⑤オリックス 5回裏 2死一、二塁のチャンスを阪神の継投に封じられる



オリックスは6点ビハインドの5回裏、8番・野口智哉と9番・福田周平の連続ヒットで一、二塁としたが、青柳はここで1番・中川圭太をレフトフライに抑えた。

2番・左打者の宗佑磨を迎えたところで、阪神ベンチは青柳に替えて左腕の島本浩也を投入。宗はレフトフライに倒れ、島本はピンチを脱した。

この後、阪神は6回裏から、第3戦で先発した左腕・伊藤将司を投入、伊藤は大量リードをバックに危なげなく投球し、3回を被安打1に抑えた。
岡田は第3戦で自身のエラーがらみで4失点と不本意な降板した伊藤にチャンスを与え、伊藤もそれに応えた。

⑥阪神 9回裏の守りで桐敷拓馬を投入する「石橋を叩いて渡る」継投、最後はクローザー岩崎優で「有終の美」



阪神は6点リードで迎えた9回裏、左腕の桐敷拓馬をマウンドへ送った。

日本一が懸かった最終回、普通ならイニングの頭からクローザーの岩崎優を行かせるところだが、岡田監督は念には念を入れたのだろう。
岩崎が失点して走者を溜めて降板、という可能性を万が一でもないように計らったのだ。

そして、二死走者なしの場面で、満を持して岩崎がマウンドへ。
岩崎は頓宮裕真に初球をレフトスタンドに運ばれ、続くマーウィン・ゴンザレスにもセンター前にヒットを浴びたが、最後の打者・杉本裕太郎をレフトフライに打ち取り、ゲームセット。
結果として、岡田監督の「石橋を叩いて渡る」、細心の継投が実を結んだ。


日本シリーズの総括



阪神の投手陣: ダメージを最小限に抑えた投手の運用が奏功



第1戦は村上頌樹がシーズン通りの投球を見せ、同級生の山本由伸との投げ合いに勝った。
第2戦は西勇輝、甲子園初戦の第3戦は伊藤将司を立てたがミスで失点し、痛い連敗。
だが、第4戦目の終盤、同点の場面で湯浅京己を投入したことで、甲子園の雰囲気を一変させ、サヨナラ勝ちにつなげた。
第5戦も湯浅の投入からその裏、一挙6点の大反撃を生み出した。
第6戦は村上をあきらめると、第二先発で西勇輝を起用し、第7戦の大一番に備え、
第7戦は今季の開幕投手・青柳晃洋に懸けた。

岡田監督は打たれた投手にも取り返す機会を与えるなど巧みな投手運用だった。

ただし、第3戦で伊藤将司の後に、3点ビハインドでブルワーを投入し、さらに1点を失ったが、ここでもっと攻めた継投をしていれば、最後は1点差まで詰め寄っていただけにシリーズの勝負の行方はもっと早くついていたかもしれない。

また、梅野隆太郎がシーズン終盤、死球による骨折で離脱したが、坂本誠志郎が代わって正捕手を務め、完走したのも大きかった。
坂本は試合を経るごとに相手打者の生きた対戦データを蓄積し、次の対戦時のリードに活かすことができていたように感じた。

阪神の攻撃陣:打線のつながりで「集中打」を畳みかける



このシリーズを通してタイガースの「集中打」はシーズン中を上回っていた。
第5戦まではチームのホームランがゼロだったが、打線が繋がると止まらなかった。

シリーズMVPは14安打、打率.483を誇ったリードオフマンの近本光司がさらった。
一方で最高選手賞を受賞した、3番を打った森下翔太の打棒も目を見張るものがあった。
森下は30打数8安打、打率.267ながら打点7はチームトップ。
特に走者を置いた場面では無類の勝負強さを発揮した。

4番の大山悠輔は打率.179、ホームラン0に終わり、タイガースが日本一を逃していれば、佐藤輝明と共に「逆シリーズ男」と言われかねなかったが、大山は第4戦でのサヨナラ安打をはじめ、ここぞという場面では4番の意地を見せた。

他にも、8番・木浪聖也が打率.400、2番・中野拓夢も打率.320、シーズンでは代打出場が多かった糸原健斗もDHと代打で力を発揮し、打率.400。

シェルドン・ノイジーも大詰めの第6戦、第7戦で山本由伸、宮城大弥からいずれも先制ホームランをたたき込むなど、数字以上の活躍を見せた。


オリックスの投手陣: 山本由伸が「誤算」、リリーフ陣も「負の連鎖」



オリックスは第1戦に「絶対的エース」山本由伸を立てたが、山本が打ち込まれ、黒星スタートとなったのが最後まで響いた。
山本由伸は第6戦では「惜別」となる138球完投勝利、シリーズ史上最多を更新する1試合14奪三振の好投で、チームを敗退から救ったものの、第2戦先発の宮城大弥、第3戦先発の東晃平が阪神打線を抑え込んでいただけに、初戦に好投していればシリーズの展開が全く異なるものになっていたかもしれなかった。

リリーフ陣も、頼みの山岡泰輔も第3戦で3失点を食らってベンチを外れ、シーズン終盤で故障した山崎颯一郎がやはり万全ではなく、第5戦、逆転負けにつながる失点を献上し、シーズン中では決してやらなかった「3日連投」「4連投」を宇田川優希に課してしまった。

また、このシリーズは大味な試合か、終盤まで大接戦という両極端な展開となったため、第7戦まで行きながら、クローザーの平野佳寿の登板機会は第3戦だけに留まった。

オリックスの攻撃陣: 主力野手が満身創痍で力を発揮できず



オリックスはレギュラーシーズン終盤に頓宮裕真が離脱、クライマックスシリーズファイナルステージで杉本裕太郎が故障による離脱で、攻撃力が心配された。

まず、森友哉がシリーズを通して打点ゼロに終わったのが痛かった。
森は慣れないライトでのスタメン出場で、第6戦ではファインプレーも飛び出し、守備は無難にこなしたが、全試合、3番か4番に起用されて打率.200、本塁打0、打点0と中軸として機能しなかった。

頓宮裕真はシリーズ初戦からスタメンで復帰し、7試合でシリーズ最多の3ホーマーと気を吐いたが、すべてソロであった。

杉本裕太郎は第5戦からスタメンに名を連ねたが、3打席ノーヒットで途中交代、第6戦ではホームラン性の二塁打を放ったものの、強行出場で患部を悪化させたように見えた。
第7戦ではやはり左足を気にしながら体重が載っていないスイングに見え、4打数ノーヒットに終わり、最後の打者となった。

紅林弘太郎は打撃好調で「シリーズ殊勲賞」を受賞したが、第6戦から打順3番に入り、攻守でよいプレーを見せたものの、クライマックスシリーズファイナルで左指の靭帯を痛めていたのを圧して出場しており、第7戦ではその影響が出たのか、チャンスで凡退し、試合がほぼ決した最終打席の1安打にとどまった。

オリックスはシーズン中も135通りの先発オーダーを組み、選手たちは日替わりオーダーは慣れていたはずだが、調子のよい選手の打順を上げるとヒットが出なくなることがあった。

初戦、1番に池田陵真が抜擢されたが、4打数ノーヒット、2三振でその後、出番はなかった。第6戦から福田周平が途中出場し、第7戦は9番スタメンで3安打と躍動したが、得点につなげることができなかった。

また、捕手は若月健矢と森友哉の併用で臨んだが、シーズン中の先発投手との相性を考慮して、若月がスタメン落ちする試合もあり、守備で裏目に出ることもあった。

オリックスは今季、チームスローガンに「全員で勝つ」を掲げて臨んだが、短期決戦では選手の調子の見極めが難しかった。

守備:両チームともミスが失点・敗戦につながった



両チームともリーグトップの投手陣を誇り、守備でもファインプレーが随所にあった半面、バッテリーエラー、捕球エラー、悪送球などのミスが起き、それがことごとく失点につながった。

特に投手がバント処理を焦って悪送球する場面が何度も起きた。
打席に立った投手に四球を与えるケースも見られた。

甲子園での第4戦ではオリックスのバッテリーエラーで満塁策を余儀なくされ、サヨナラ負けにつながった。
続く第5戦は互いにミスが失点に直結したが、最後にミスしたオリックスのほうが敗戦につながった。

阪神とオリックス: 来季への展望



59年ぶりの「関西ダービー」は阪神タイガースの38年ぶりとなる日本シリーズ制覇で幕を閉じました。

1964年の日本シリーズ、阪神タイガース対南海ホークスの通称「御堂筋シリーズ」は、第7戦の最終戦が10月10日の日曜日、奇しくも東京オリンピックの開会式の日と重なり、甲子園球場のスタンドにはわずか1万5000人、しかもタイガースは初の日本シリーズ制覇を逃すなど、寂しい結果に終わりました。
しかし、今回の「関西ダービー」は最終戦の京セラドームに3万3300人、さらに甲子園球場にも無料のパブリックビューイングで1万2000人が集結するなど、大きな盛り上がりを見せました。

オリックスは来季、リーグ4連覇を懸けたシーズンとなります。
1950年の2リーグ分立以降、パ・リーグでリーグ4連覇以上を成し遂げたのは、オリックスの前身である阪急ブレーブスが1975年から1979年までの4連覇、西武ライオンズが1985年から1988年まで4連覇、1990年から1994年まで5連覇という3度しかありません。
(福岡ソフトバンクホークスは2017年から2021年まで日本シリーズ4連覇も、2018年・2019年はリーグ2位)。

今季のオリックスは吉田正尚のMLB移籍という穴を森友哉のFA移籍などで埋め、2位以下に圧倒的な大差でリーグ3連覇にこぎつけました。
来季のオリックスはエース・山本由伸がポスティング制度でMLBに移籍することが決定し、さらに先発ローテの一角を占める左腕・山﨑福也のFA移籍も取り立たされてれており、4連覇を目指すためのチーム再編には中嶋聡監督のさらなる手腕が試されることになります。

一方の阪神タイガースは、岡田彰布監督が監督復帰1年目でリーグ優勝、日本一を果たし、来季は2連覇を狙うシーズンになります。
今季は投手陣では現役ドラフトで獲得した大竹耕太郎、大卒3年目の村上頌樹が大ブレイクを果たして大きな貯金をつくった一方、リリーフ陣は新クローザーの湯浅京己が離脱するも、岩崎優が復帰して最多セーブ王を獲得、中継ぎ陣もメンバーを入れ替えながら完走しました。
野手陣は中野拓夢の二塁コンバートが成功、木浪がショートのレギュラーを再び掴んで「恐怖の8番打者」として復活、ドラフト1位新人の森下翔太の台頭もあり、故障で離脱者もほぼなく、開幕から打順も守備位置も極力、固定されたメンバーで戦っていましたが、来季はどのようなメンバーで戦っていくことになるのか。
現在65歳の岡田監督は来季が2年契約の最終年となり、再来季以降、高齢や健康を理由に監督を続投するかは不透明であり、次期監督への「継承」もテーマになってくるでしょう。

それ以外のセ・パ10球団も来季は今季の反省を活かして、来季のペナント奪還、日本一を目指してきます。

NPBの2024年のシーズンも今季以上の熱く激しい戦いを期待したいと思います。


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