【エッセイ】⑦自分の問題と向き合えない人
日曜日、お店は大変混む。特に昼間は家族連れが多く、人が増えるだけではなくて注文数まで増えるので余計に忙しい。
混むのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。
てんやわんやしながらも、どんどんと捌いていく感じが、いかにも働いている感じがしてやりがいを感じる。
今日もピークタイムからシフトにはいる。きっと入り乱れているであろうカウンターの中を立て直すのを楽しみに思いながら、カウンターに入る。
「おはようございまーす。」
いつものテンションでカウンターに入る。
フードの横の扉から入ったので、フードポジションにいたジャイアンには、絶対に挨拶が聞こえていたはずなのだが、挨拶が返ってこない。
他の人は各々、適当に挨拶を返してくれる。
ジャイアンは機嫌が悪いのかな。
とりあえず関わらないようにしよう。
触らぬ神に祟りなしだ。
それから1時間近くたった。
ジャイアンは機嫌が悪いわけではなさそうだということが、傍から見ていてわかった。
しかし、彼は私が話しかけても無視をする。「○○お願いします。」と頼んでも。まるで聞こえていなかったかのように身を翻してどこかへ行ってしまう。
明らかな無視。こんなことは初めてだ。
なんでだ。みんなとは上機嫌に話しているのに。
もう1時間も無視されている。
狭いカウンター内、1人と気まずいだけでとても耐え難い空気になる。
ひとりが教えてくれた。
「ジャイアンに挨拶した??」
ジャイアンに挨拶、、?
そりゃあカウンターに入った時に全体にはしたけど、わざわざ個人に、しかも入口の横にいた人に挨拶なんてしない。
挨拶はたしかに大事だ。一人一人に挨拶した方がいいのかもしれない。でもまさか、そんな小さな理由で1時間近くも無視できるのだろうか。
試してみることにした。
「おはようございます。遅れてすみません。」
「おはよう。やっと来たの?遅刻だよ?」
普通のトーンで返された。
この人、本気で言っているのか。
本当に、挨拶をしなかったから怒っていたのか。
普段から挨拶にうるさい人がこういうことを言うならまだわかる(と言っても無視という行動を取るのは少しどうかと思うが)。
しかし、ジャイアンだって一人一人に挨拶をして回っているところなんて見た事がない。みんなだって、わざわざしない。入口から遠いレジの人にしに行くことはあるけれど。
なんて、器の小さな男なんだ。しかしそれと同時に何かが私の中でプツンと切れた。
ああ、この人はこういう人なんだ。
「フードをする時は手袋をして」と言っても、店長はしていないからいいじゃんと返す。
「接客態度が悪いからもっと愛想良くして」と言っても、そもそも客の態度が問題だと言う。
何かを指摘しても、すぐに人のせいにする。すぐに言い訳を探す。今まで関わってきたこの人との記憶が走馬灯のように駆け抜ける。
わかった。もう、君と向き合っても疲れるだけなんだね。
注意されているうちが華。
よく言われることだ。ぶっちゃけ、注意されるかされないかなんて、上の立場の人によると思っていた。
直接注意しないで、裏で陰口を言う人を沢山見てきた。言わないと直らないのに、注意するのが面倒で言わないのだ。自分の保身のためもあるのかもしれない。
だから注意してくれるのはとてもありがたいことであり、当たり前ではないことだ。注意された側も、それを理解し、真剣に向き合わないといけない。
私は初めて出会った。注意されたことに感謝せず、初めから向き合わない人。自分の問題から逃げ続け、成長の機会を逃し続ける人。
ジャイアンはもったいない人だ。
人間関係、誇れることではないけれど多少は他人に甘い自信がある。そんな私が見捨てたのだ。
今はしがないカフェでアルバイトをしているだけだし、いくらでも自分の問題から目をそらせることができる。
逃げることが悪いことだなんて思わない。選択肢のひとつとして非常に有効であり、自分を追い込むくらいなら逃げればいいと思う。しかし必ず、向き合わなければならない時は来る。
この人は将来、本当に逃げられなくなった時にどうするのだろう。
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