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ライターに必要な法律知識を身につける

「転ばぬ先の杖」として

自戒も込めて言うのだが、ライターには自分の仕事に関わる法律について無知な人が少なくない。必要最低限の法律知識すら持たないまま仕事を続けてしまいがちなのだ。
そして、原稿料不払いや著作権がらみのトラブルなどに巻き込まれたとき、初めて法律の大切さに気づき、あわてて勉強したりする。

司法試験を受けるわけではないから本格的に勉強する必要はないにしろ、一般向けの平明な法律本を買って、関係項目を熟読しておいたほうがいい。「転ばぬ先の杖」である。法律は、ライターを縛るものであると同時に、守ってくれるものでもあるのだから……。

ライターが出版社などから受ける仕事は、民法上の「請負契約」にあたる(契約書の有無にかかわらず)。会社員のような「雇用契約」によらずに仕事をしているということだ。だから、請負契約についての項目は、とくにしっかり読んでおこう。

たとえば、ギャラの不払いなどの問題が生じて法的手段に訴える場合、請負契約についての民法(また、下請法や独禁法など)の規定に従って、相手の不法行為を衝くことになる。
しなくてもよい泣き寝入りをしないためにも、自分の仕事が法的にどのような位置づけにあるのかを知っておこう。

反対に、ライターの側が請負契約違反に問われ、訴えられる場合もある。ライター仕事の多くは口約束で進んでいくが、契約書がないからといって軽く考えてはいけない。
 
依頼を受けた仕事は請負契約の「債務」にあたり、〆切通りに原稿を仕上げないことは「債務不履行」に当たる。
もちろん、1日や2日〆切に遅れたくらいで、出版社が「債務不履行で訴えます!」などと言うことはない。しかし、原稿の遅滞が相手の業務に大きな損害を与えた場合、ライターが訴えられることは当然ある。
そして、もし訴えられたら、遅れたことによほどやむを得ない事情がない限り、確実にライター側が敗訴するだろう。

著作権の基本は必須項目

また、あたりまえのことだが、著作権法についてもある程度知っておいたほうがいい。
たとえば、資料を使って原稿を書く場合、どこまでが許される「引用」で、どこからが「盗用」になるのか? そもそも何が「著作物」に当たるのか? そうしたことをわきまえて仕事をしないと、思わぬところでケガをする。

盗作・盗用で訴えられたりしたら、ライターとして致命傷である。損害賠償を求められることよりも、ライターとしての評価が地に落ちることのほうが怖い。「アイツは危なっかしくて使えない」と思われてしまうのだ。

著作権について学ぶための参考書を、2冊挙げておこう。
まず一冊目は、岡本薫著『著作権の考え方』(岩波新書)。
文化庁著作権課長を務めた著者による、著作権の本質を知るための優れた概説書である。

といっても、教科書のようなカタい内容ではない。
むしろ、目からウロコ落ちまくりの面白い本だ。これをネタ本に、テレビの『行列のできる法律相談所』のような法律クイズがたくさん作れそうなのである。
面白いトピックを楽しむうち、著作権の本質が読者におのずと理解できるように構成されている。

概説書である『著作権の考え方』とは反対に、個別具体的なケースを通して著作権とのつきあい方を教えてくれるのが、川上大雅著『駆け出しクリエイターのための著作権Q&A』(玄光社)だ。

著者は弁護士だが、そのかたわら、自らもギャラリーを開廊していたりして、クリエイターとの関わりが深い。また、弁護士としてもさまざまなクリエイターを助ける仕事を多く経験してきたという。

そうした経験を踏まえて書かれた著作権入門である。
「駆け出しクリエイターのための」と書名にあるとおり、経験が乏しく、法律知識も皆無に近いクリエイターを対象読者に据えているため、説明がすこぶるわかりやすい。著作権や契約などをめぐる基礎知識や、トラブル回避法がわかる好著である。

「ライター法」はないけれど……

仕事内容によっては、書いた相手から名誉毀損で訴えられることも十分あり得るのが、ライター稼業だ。だからこそ、名誉毀損とは何なのか、どのような場合に名誉毀損に問われ、どんな場合には免責されるのか、一通りの知識は持っておいたほうがいい。

マスコミ関連の名誉毀損訴訟の判例集・解説書はたくさん出ているので、目を通しておいたほうがいい。
たとえば、片野勧著『戦後マスコミ裁判と名誉毀損』(論創社)などである。

これは書名のとおり、戦後のマスコミをめぐる名誉毀損訴訟を分類・網羅した労作。ハンディな「マスコミ裁判事典」としての資料的価値も高い。

それから、「守秘義務」についても知っておかねばならない。
医師や弁護士、公務員には、法律で守秘義務の遵守が定められている。それに対して、ライターの守秘義務は法律で定められているわけではない(「ライター法」があるわけではないから)。それでも、職業倫理としての道義的守秘義務は当然あるのだ。

取材相手からオフレコを条件に聞かされた話を書いてはいけない。
また、ゴーストライターとして仕事をした場合、「誰それが著者になってるあの本、ホントは俺が書いたんだぜ」などと、仕事内容を人に漏らしてはならないし、SNS等で公にしてはいけない(※注)。

※注/近年、ゴーストライターの仕事でも、本の奥付や目次などに「構成/◯◯◯◯」とライター名が小さく明記されるケースが増えてきた。名義上の著者にライターがインタビューして、その話を文章化した本であることをはっきり示すわけだ。ゴーストライターが「ブックライター」と言い換えられるようになってきたのは、そうした傾向の反映でもある。
構成者として本にライター名が明記される場合、それはいわば“半ゴースト”で、SNS等で「この本をライターとしてお手伝いしました」と公にすることは許されるだろう。ただしその場合も、「文章はすべて私が書きました」とあからさまに言うことは、礼儀としてNGである。「お手伝いしました」、もしくは「編集協力しました」と表現しよう。

トラブルから法律で身を守るために

ライターがさまざまなトラブルから法律で身を守るために読んでおいたほうがよい本として、わかつきひかる著『生業(なりわい)としての小説家戦略』 (CLAP)をオススメしておきたい。

誤解を招くタイトルである。中身は「小説の書き方入門」でもなければ、売れっ子作家になるためのノウハウ集でもない。
著者が小説家として遭遇してきたトラブルを踏まえた、“物書きが法律で身を守るための本”なのだ。

未払いトラブルへの対処法(少額訴訟を起こすなど)、モンスター編集者との戦い方、出版契約の注意点などが、実体験に基づいて赤裸々に書かれている。

著作権法、下請法などの「基本のき」がわかるので、ライターにとっても役に立つ。実用書だが、小説家らしく、読み物としても面白く読めるように書かれている。

それにしても、本書に明かされた著者のトラブル体験はすさまじい。世の中には、とんでもない極悪出版社やモンスター編集者がいるものだ。

申告や節税の基礎知識を身につける

フリーライターにとって身近な法律といえば、「税法」もそうだ。
といっても、確定申告とそれに伴う節税についての知識さえあれば事足りるのだが……。

そのためにオススメしたいのが、きたみりゅうじ著『フリーランスを代表して 申告と節税について教わってきました。』(日本実業出版社)である。

フリーのライター兼イラストレーター兼マンガ家である著者が生徒役となり、申告と節税について税理士からレクチャーを受ける内容だ。
 
著者も書いているように、申告と節税についての一般書はたくさんあっても、フリーランサー向けのものは皆無に等しかった。《お店をかまえてるような「個人事業主向け」ってのはいっぱいあったんですけども、そういったもんをいっさい持たない「フリーランス向け」な本というのはまるでなかった》のである。 
もっとも、本書刊行後、『日本一やさしいフリーのための確定申告ガイド』(はにわきみこ)など、類書がいくつか出たけれど……。

レクチャーは、著者と講師の漫才のように軽快で楽しいやりとりで構成されている。しかも、随所に著者が描いた4コマ・マンガ(その項目の要点をまとめたもの)まで入っている。
そのため、ものすごくわかりやすい。それでいて、内容が薄いかといえばそんなことはなく、確定申告と節税のポイントがひととおりわかるようになっている。

私はフリーライターになって以来、ずっと自分で(税理士に頼まず)確定申告をしているが、見よう見まねでやってきたものだから、本書を読んで初めてわかったこともいろいろある。

著者と講師がくり広げるトークのぶっちゃけかげんも面白い。講師の税理士が、匿名での登場を条件に思いっきりホンネで語っているのだ。

フリーライターなら、すでに確定申告を何度もしている人でも、読んでおいて損はない本だ。そして、「これから初めての確定申告をする」というフリーには絶対オススメである。



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