マガジンのカバー画像

『極私的ライター入門』

41
ライター歴36年の私が約20年前に自分のサイト(すでに消去)に載せていた「ライター入門」を、少しずつ再録していきます。 時代の変化で内容があまりに古くなっている部分は、適宜アップ…
運営しているクリエイター

#ライターの日常

批判に身をさらす覚悟はあるか?

「万人を納得させる意見」はない 私の知人が、ある著名な評論家に批判の手紙を書いた。 「あなたの『○○○○』という著作を読んだが、○○についてのこの意見は、ちょっとおかしいのではないか」云々。ていねいな言葉をつかった真摯な批判であったという。   数日後、その評論家から知人に手紙が届いた。 「へえ、忙しいのにちゃんと返事をくれたのか。律儀な人だな」と思いつつ封を開けると、中からハラハラと紙吹雪が……。 よく見ると、紙吹雪の正体は知人が出した手紙だった。その評論家は返事を書く

ライターは著書を持って一人前?

著書を持つことへの“幻想”は禁物 駆け出しライターはとかく、著書を持つことに対して過大な“幻想”を抱きがちだ。「著書を出せば、それが評判になって原稿依頼が殺到するのではないか」というたぐいの幻想を……。 ほかならぬ私の駆け出し時代がそうだった。ある先輩――その人は何十冊もの著書を持つベテラン・ライターであった――に向かって「自分の著書が本屋に並ぶところを、夢にまで見ます」と口走って、「もっとクールに構えたほうがいいよ」と苦笑されたことがある。 そう、ライターは著書に対し

ライターはいつ独立すべきか?

「取引先一つ」で独立してはいけない 編プロや出版社、あるいはまったく畑違いの企業に勤務している人が、フリーライターとして独立するにふさわしいタイミングとは、どんなときか? これはなかなか難問である。個々の書き手の力量と立場によって違うとしか言いようがない。 「編集者の名刺が50枚集まったら独立してもいい」などと一律に線引きするわけにはいかないのだ。 私自身は、23歳のとき、編プロに入社して1年ちょっとでフリーになった。いまにして思えば、これはいささか早すぎた。というのも

ライター必携「レファ本」30選

ライターの書棚に何より必要なのは、さまざまなレファレンス(参考)用書籍である。 「調べものならネットで検索すればいい」と思う向きもあろうが、ネット上の情報は玉石混交で、おいそれと鵜呑みにできないこわさがある。 また、「事典のたぐいは総じて高いから、買うのはもったいない。レファレンス書籍には図書館であたればいい」と思う向きもあろうが、ライターたるもの、最低限のレファレンス資料は自分で所有すべきである。「図書館に行く時間すら惜しい」という状況にしばしば出くわすのがライターだし、図

取材における「ありがちな失敗」

長年ライターをやっていれば、思い出すたび「うわあ~!」と叫びたくなる大失敗もある。だが、そういう深刻な失敗にはここでは触れたくない。笑って思い出せる程度の失敗を、いくつかご紹介。 1.名刺忘れは「些細なミス」ではない 駆け出しのころに何度かやったのが、「名刺忘れ」だ。 取材に行って「まず名刺交換を」となった瞬間、自分が名刺を忘れてきたことに気付いて青くなるのである。 取材相手に最初の段階で悪印象を与えてしまうのだから、些細なように見えて、大きなミスだ。 何度かこのミスを

一度は会社員になったほうがいい

「会社で身につく常識」は意外に重要 一度も会社に就職せずフリーライターになる人も、もちろん少なくない。学生からいきなりライターになったり、フリーター生活を続けるうちになんとなくフリーライターになったり(似たようなものだ)……というパターンである。 フリーになりたくてもなれない人たちに比べれば、恵まれているともいえる。   しかし、私はこういうストレートなコースはあまりおすすめしない。やはり、一度は会社員になったほうがいい。たとえ回り道のように見えても、会社勤めの経験は、フリ

「得意分野」は必要。ただし……

得意分野は「営業細目」である 「なんでもやります!」と元気いっぱい言う人に限って、何をやらせても満足にできない――どこの世界でもありがちなことだが、ライターの世界もまたしかり。 だいたい、「なんでもやります!」と言うライターは、ほぼ駆け出しだ。ベテランはけっして言わない。ある程度キャリアを積めば、自分の得意分野・苦手分野が、はっきり色分けされて見えてくるものだからである。 どんな分野でも完璧にこなす万能のライターなど、いるはずがない。だから、「なんでもやります」は「なん

フリーライターに対する“4大誤解”

誤解1.「時間が自由に使える」 フリーライターは、「フリー」という言葉の語感からか、ものすごく自由気ままに仕事をしているようなイメージを持たれがちだ。 いや、ライターに限らず、すべての自由業に対する誤解ともいえる。が、時間が自由に使える仕事などあるわけがない。 会社員のように、毎朝同じ時間に起きて、同じ電車に乗る必要がないのはたしかだ。朝寝坊できるのはフリーライターの(もしかしたら最大の)特権である。 しかし、フリーライターはしめきりという名の時間的制約につねに拘束さ

フリーは会社員の倍稼いで同等?

「剣道三倍段」ならぬ「会社員2倍年収」 武道の世界では「剣道三倍段」ということが言われるそうだ(※)。剣道とほかの武道、たとえば空手を比べた場合、空手三段の人と剣道初段の人が闘ってやっとトントンの勝負になる、ということだ。 (※私はこの言葉を『空手バカ一代』で知ったが、元の言葉は「剣術三倍段」で、「剣術が槍術と互角に相対するには三倍の技量が必要である」という意味なのだそうだ。本題から離れるので、ここでは措く) それに倣って、私は「会社員2倍年収」ということを言っている。

アポ取りとテープ起こしさえなければ……

テープ起こしが「クリエイティブ」? ウソつけ! 私は、文章を書くという行為自体が好きな人間なので、「書くのがつらい」と思ったことはほとんどない。たとえシメキリに追い立てられようと、苦手な分野の原稿だろうと、書くこと自体は苦痛ではない。 また、本を読むことも大好きなので、資料の読み込みも、たいていは楽しい。 取材も、未知の人に会って話を聞くというのは、基本的には胸躍る体験である。 では、ライターの仕事の中で何が苦痛かといえば、アポ取りとテープ起こしである。この2つは、何年経

ライターのここが素晴らしい!

※私が考える「ライターという仕事のよいところ」6点。20年前に書いたものだが、いまも考えは変わらない。 1.通勤ストレスがない 取材時間の都合などでたまにラッシュアワーの電車に乗ると、「サラリーマンって偉いなあ」としみじみ思う。毎朝毎晩満員電車に乗るなんて、いまの私にはとても耐えられそうにない。あれはもう「ストレスの坩堝」である。 昔、安住磨奈というライターのエッセイに、「通勤電車の中で、毎日少しずつ狂っていくサラリーマンたち」という印象的なフレーズがあった。言い得て妙

ライターの「職業病」は?

※いまなら「座り過ぎの生活自体が、さまざまな病気を引き起こす健康リスクである」という話を入れるところだが、これを書いたころにはそう言われていなかった。 腰痛・肩痛・痔・眼精疲労 フリーライターの「職業病」として最もポピュラーなのが、小見出しに挙げた4つであろう。いうまでもなく、座りっぱなしで、しかも悪い姿勢で長時間文章を打ちつづけることから起こる症状である。 さいわい私自身は腰痛とも痔とも無縁だが、眼の疲れはしょっちゅう感じるし、肩痛は一度ひどいのをやった。書籍仕事の追

「ライター適性検査」を考えてみた。

文章がうまいことは、ライターに求められる適性の1つではあっても、けっしてすべてではない。では、求められるほかの適性とは? 10問10答のかんたんな適性検査を作ってみた。配点は各問とも「はい」が10点、「いいえ」は0点、「どちらともいえない」が5点である。 Q1.子どものころから作文が得意でしたか?  はい/いいえ/どちらともいえない ●意外なことに、「子どものころから作文が得意だった」という人は、ライターにはけっして多くない。少年時代に「作文コンクールあらし」と呼ばれた私

どっと落ち込む「リテイク」と「ボツ」

「なんでボクばっかりイジメるんだよぉ!」 《疲れきった彼女の顔はこう語っていた! 「今度リテイクがもし出されたら・・・その時は終わりね・・・・・・あたしたち・・・」》 ――島本和彦の傑作マンガ『燃えよペン』の、印象深いセリフである。 「リテイク」とは書き直しのこと。 原稿を書き上げたあと、その出来が悪かったり、編集サイドの企画意図と合わなかったりすると、編集者からこれが言い渡される。すると、ライターは書き直しをしなければならない。1回で済めばよいが、場合によっては2回、3