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『極私的ライター入門』

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ライター歴37年の私が約20年前に自分のサイト(すでに消去)に載せていた「ライター入門」を、少しずつ再録していきます。 時代の変化で内容があまりに古くなっている部分は、適宜アップ…
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#フリーライターの働き方

ライター必読本⑤本橋信宏『心を開かせる技術』

著者の本橋信宏氏は、風俗ルポからコワモテ人士(ヤクザ・闇金のドン・右翼・過激派など)への直撃取材まで、硬軟問わず精力的にインタビューを続けてきたベテラン・ライター。話の聞きにくい相手の心を開く達人である。 本書は、著者が豊富なインタビュー経験から編み出した、語り手の「心を開かせる技術」を開陳したものだ。 随所にちりばめられた、インタビューの舞台裏エピソードが抜群に面白い。また、インタビュー術の極意を明かしたハウツー本としてもすこぶる有益である。 私が「なるほど」と思った

たくさん読み、たくさん書くことの大切さ

文章修行の「王道」とは? 文章力をつけるためには、大量の本を読んで1つでも多くの名文に触れ、自らも大量の文章を書く以外にない。これだけが文章修行の王道であり、ほかに道はない。 もっとも、ここで終わってしまっては、「やせるためには、運動量を増やすか食べる量を減らすしかない」としか書いていないダイエット本のようで、芸がない。つけたりのようなことを少し書いてみよう。 たくさんの本を読むことがなぜ大切かといえば、文章のよし悪しを判断する力はそのことでしか磨かれないからである。よ

「手抜きの誘惑」に負けないこと

手抜きはいくらでもできるが…… 駆け出し時代に自分が書いた原稿を読み直すと、そのヘタさかげんに驚く。と同時に、わずかずつでも自分の技量が進歩していることを確認して、ホッとする。   書き続ければ、テクニックはおのずと上がっていく。10年書き続ければ10年分うまくなる。それは確かなことだ。 ただ、そこには一つの陥穽がある。それは、テクニックの向上が悪い方向に表れてしまうライターも多いということ。悪達者になり、手抜きばかりがうまくなってしまうのである。 ライターというのは、手

ライターにとっての「三拍子」とは?

ライターに要求される「3大資質」 野球の世界で「三拍子揃った選手」という場合、その「三拍子」の中身は、いうまでもなく攻・守・走――打撃力・守備力・走塁力である。 では、フリーライターにとっての「三拍子」とはなんだろうか? 私が思うに、それは文章力・取材力・幅広い教養の3つである。これらがライターに要求される「3大資質」であり、3つをバランスよく兼ね備えていればいるほど、有能なライターといえるだろう。   3つのうち、「文章力」は字義どおりの意味だが、「取材力」は情報収集能

ライターは「文体を持たない書き手」

「名文なんて事故みたいなもの」 駆け出しのころ、とある年長の編集者から言われた忘れられない言葉がある。   「ライターは名文を書こうなんて思わなくてもいいんだよ。名文なんて事故みたいなものだからさ。きちんとした普通の文章を書いてくれれば、それでいいんだ」 いま振り返っても、含蓄あふるる言葉である。 おそらく当時の私は、ライターとしての仕事をするにあたっても「名文」を書こうと焦っていて、その力みが文章にもにじみ出ていたのだろう。そこで、「もう少し力を抜いたほうがいいぞ」とい

ライターは著書を持って一人前?

著書を持つことへの“幻想”は禁物 駆け出しライターはとかく、著書を持つことに対して過大な“幻想”を抱きがちだ。「著書を出せば、それが評判になって原稿依頼が殺到するのではないか」というたぐいの幻想を……。 ほかならぬ私の駆け出し時代がそうだった。ある先輩――その人は何十冊もの著書を持つベテラン・ライターであった――に向かって「自分の著書が本屋に並ぶところを、夢にまで見ます」と口走って、「もっとクールに構えたほうがいいよ」と苦笑されたことがある。 そう、ライターは著書に対し

ライターはいつ独立すべきか?

「取引先一つ」で独立してはいけない 編プロや出版社、あるいはまったく畑違いの企業に勤務している人が、フリーライターとして独立するにふさわしいタイミングとは、どんなときか? これはなかなか難問である。個々の書き手の力量と立場によって違うとしか言いようがない。 「編集者の名刺が50枚集まったら独立してもいい」などと一律に線引きするわけにはいかないのだ。 私自身は、23歳のとき、編プロに入社して1年ちょっとでフリーになった。いまにして思えば、これはいささか早すぎた。というのも

ライター必携「レファ本」30選

ライターの書棚に何より必要なのは、さまざまなレファレンス(参考)用書籍である。 「調べものならネットで検索すればいい」と思う向きもあろうが、ネット上の情報は玉石混交で、おいそれと鵜呑みにできないこわさがある。 また、「事典のたぐいは総じて高いから、買うのはもったいない。レファレンス書籍には図書館であたればいい」と思う向きもあろうが、ライターたるもの、最低限のレファレンス資料は自分で所有すべきである。「図書館に行く時間すら惜しい」という状況にしばしば出くわすのがライターだし、図

「得意分野」は必要。ただし……

得意分野は「営業細目」である 「なんでもやります!」と元気いっぱい言う人に限って、何をやらせても満足にできない――どこの世界でもありがちなことだが、ライターの世界もまたしかり。 だいたい、「なんでもやります!」と言うライターは、ほぼ駆け出しだ。ベテランはけっして言わない。ある程度キャリアを積めば、自分の得意分野・苦手分野が、はっきり色分けされて見えてくるものだからである。 どんな分野でも完璧にこなす万能のライターなど、いるはずがない。だから、「なんでもやります」は「なん

フリーライターに対する“4大誤解”

誤解1.「時間が自由に使える」 フリーライターは、「フリー」という言葉の語感からか、ものすごく自由気ままに仕事をしているようなイメージを持たれがちだ。 いや、ライターに限らず、すべての自由業に対する誤解ともいえる。が、時間が自由に使える仕事などあるわけがない。 会社員のように、毎朝同じ時間に起きて、同じ電車に乗る必要がないのはたしかだ。朝寝坊できるのはフリーライターの(もしかしたら最大の)特権である。 しかし、フリーライターはしめきりという名の時間的制約につねに拘束さ

「1時間で1200字」がプロのスピード

キャリアを積めばおのずと速くなる 福田和也さん(評論家)の『ひと月百冊読み、三百枚書く私の方法』(PHP)という本がある。タイトルに謳うくらいだから、著者自身、「ひと月百冊読み、三百枚書く」ことが「スゴイこと」だと認識しているのだろう。 しかし、ライターの立場から言わせてもらえば、「百冊読む」ほうはともかく、月産400字300枚くらいはプロのライターならあたりまえにこなす量である。300枚といえば平均的単行本1冊分相当だが、ライターなら、正味1ヶ月あれば1冊の本が書けるも

ライターに立ちはだかる「40歳の壁」

※20年前――つまり私自身が「40歳の壁」を目前にしていたころに書いた文章をサルベージ。 40歳がライターの“分岐点” 周囲を見渡すと、40歳前後でフリーライターを廃業してしまう人が少なくない。社員編集者になる人、まったく畑違いの職種に転職する人など、パターンはさまざまだが、40歳前後での転身という時期は奇妙なほど一致している。 なぜ40歳なのか? 「不惑」を迎えて人生を考え直すということも少しはあるかもしれないが、もっと下世話な理由がある。40歳という年齢は、フリーラ

尾瀬あきら『みのり伝説』は、いまなお“最もリアルなライターマンガ”である。

#マンガ感想文 『みのり伝説』は、ヒット作『夏子の酒』などで知られるマンガ家・尾瀬あきらが、1994年から97年まで『ビッグコミックオリジナル』に連載した作品である。 主人公・杉苗みのりがフリーライターとして独立し、売れっ子になるまでの奮闘が、奇をてらわない素直なタッチで描かれている。 フリーライター・藤田千恵子のエッセイ集『愛は下剋上』(ちくま文庫)をベースに、多くの女性ライターへの取材もくわえて作られた物語はすこぶるリアルで、ストーリーマンガの形式を取った「ライター