ネコの探し方 book review
『夏に、ネコをさがして』
西田俊也・作
徳間書店
行方不明のネコはどうやって探すのか? 祖母のネコ、テンちゃんを探す物語だ。
夏休み、六年生の佳斗は両親と一緒に生前、祖母が住んでいた家に引っ越してきた。祖母の死は突然だったけれど、同居は去年から話題に上がっていた。両親は佳斗が中学に入る頃を考えていたが、少し早まった。
もともとノラネコだったテンちゃんは、祖母がエサをやり、外と家の中を自由に行き来するようになった。祖母亡き後は、仕事帰りお母さんがエサやりに通っていた。佳斗の住む町から、それほど遠くない距離だ。お母さんの実家でもあり、佳斗もよく遊びにきていた。テンちゃんのことも知っている。
引越し当日、テンちゃんは姿を見せなかったが、落ち着くとまた来るようになった。お母さんにエサをねだったり、佳斗にもなついてくれそうで嬉しかった。でも、その後ぱったりと姿を見せなくなった。
ネコはどれくらい遠くまで行くんだろう。もしかしたら祖母を探しに行って、迷子になったのかもしれない。
祖母が亡くなった次の日、テンちゃんは庭の塀の上でじっと空を見上げていた。もう会えないことをわかっていたのだろうか…。
この家は祖母の思い出が詰まっている。夏休み一人でいると、とりとめなく思い出す。
偶然、前を通った花屋の窓に『ネコをさがしています』と書かれたはり紙を見かけた。そのネコの写真はテンちゃんに似ている。聞けば、ネコはもう見つかったらしい。佳斗はお店の人が外したはり紙を譲ってもらい、自分も作ることにした。家族だけで探すのは限界がある。
お母さんが写したテンちゃんの写真と、佳斗が書いた文字を入れ、お父さんがパソコンではり紙を完成させてくれた。町内の掲示板にはる許可をもらいに、引越しの挨拶も兼ね、自治会長を訪ねた。
自治会長のおじいさんは、はり紙に許可のスタンプを押して、町全体の大きな地図をくれた。掲示板はそれぞれの公園の入口あたりにあるという。
一人で町を歩いていても、佳斗は祖母を思い出した。一緒に行った公園、初詣に行った神社、おやつを買ってくれたコンビニ。
公園で出会ったおばあさんに手をかしたことで、孫の欄と知り合った。彼は佳斗と同じ学校で同じクラスになるようだ。なぜかネコを探すのを手伝ってくれるという。
二人は公園で地図を広げ、探して歩いた場所にチェックを入れていった。欄はメモを持ち歩いていて、絵が上手く、ネコの種類や生態にも詳しい。
欄の描いたテンちゃんの絵は、今にも動き出しそうだ。手書きの文字や絵の方が、気持ちが伝わるのはなぜだろう。人の存在を感じるからかもしれない。
二人は、テンちゃんを見つけられるのか?
まだ馴染みのない住宅地を、ネコを探して歩いていると、不意に佳斗は祖母を知っている人たちや、そのまわりの人たちに出会う。いつの間にか友達もできた。テンちゃんを探さなければ、得られない体験だ。
蘭にも変化が起きる。彼にもネコを探す理由があった。
新たな環境と出会いだけで、人は変わらないと思う。何か感じたとき、心が動いたとき、思考と行動が必要だ。体験を通して初めて人は変われる。
もし、この物語が十年前でも彼らは同じ方法でネコを探したと思う。そして十年後も、変わらない気がする。
同人誌『季節風』掲載 2024 新春