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金木犀とわたしと




キンモクセイの香りがする。


一瞬、神経が研ぎ澄まされるような感覚になる。

ふっと、振り返る。
キンモクセイの木を探す。







キンモクセイの香りに気づく。
キンモクセイのことを考える。

そんなふうに、ん?と。
穏やかに、でも、集中して、
一瞬だけはそのことしか考えていない。

そんなふうに、何かを感じて、
そこから、「好き」の原点を探すみたいな、
そういう一連の流れが好きなのかもしれない。



見慣れた景色をぼーっと眺めていても、
キンモクセイを見つけることはできない。

その香りに気づくことがなければ、
わたしたちはその場所をただ通り過ぎる。




キンモクセイの香りを、
去年のわたしも好きだったんだろうか。

まったくと言っていいほど、覚えていない。

今年のわたしは、車を運転するときわざと窓を開けてしまうほどには好きみたいなんだけど。








今日もまた、その香りに気づく。

顔を上げる。振り返る。

こんなところにも。



同じような毎日の中。

心がざわざわと落ち着かない日々の中。

でも、

こんなふうに綺麗なものに気づけるわたしの心はすごく綺麗かもなんて自惚れる。




気づく。

見つける。

ときめく。


そういう一瞬の、ほんのすこしの心の動きを、
通り過ぎていくような毎日は嫌だ。


気づきたいよ。
見つけたいよ。

当たり前の中に紛れ込んだ、
今日のわたしのときめきを。