見出し画像

渋谷の女の子

明け方の渋谷を、現金を抱えて走ってる女の子がいる。
急いでタクシーに飛び乗り隣駅の恵比寿へと向かった。

彼女の夢は漫画家だ。
宮城から1人上京してきて、フリーターで働いている。

好きなものはNANA。漫画が原作の作品。
原作が完結はしてないものの、アニメや実写映画にもなっている堂々たる作品。

彼女は、主人公ナナのように黒髪のショートカットでタバコを吸いながら鋭い目をしている。
耳にはたくさんの穴が空いていて、「べー」と舌を出すとそこにはピアスが3つ見える。

舌を出した時に見せた顔は小悪魔のようだった。

高校2年生の夏に学校を中退した。
顔にはたくさんのピアスを空け、ライブハウスに入り浸った。

みんなが学校から帰る時間に道を歩いていると、前の方で好きだった人が知らない女の子と手を繋いで歩いていた。

もう、学校で会うことも話しかけることもできなかった。


18の夏。
東京に比べて時給が100円も200円も安い宮城の田舎で必死に働いた。
100万円を貯めて、1人東京へ向かった。

色々なバイトを転々とした。
時給が高いのにつられ、深夜のバイトばかりをやった。

居酒屋からカラオケ、ガールズバー、面接が受かっては働いて2、3ヶ月で辞めるの繰り返し。
どれも半年以上は続かず、長続きしなかった。

そしてとうとう、今のお店でオープニングから働いて9ヶ月目。
気づいたら記録更新、半年以上続いていたのだ。

なぜ、ここでこんなに続いたのだろう。
答えは簡単。

好きな人ができたからだ。

高校を中退した頃の苦い失恋をして以降、好きになった人はいなかった。
久しぶりに好きになった人。

それは既婚者だった。
正しくは、既婚者になった。

オープニングでこのお店で働くことになって初めて出会った。
そのとき彼はまだ結婚していなかった。

彼女がいることは知っていた。
後に、今後結婚することを聞かされる。

彼女には自殺願望があった。
何度も自分の腕を傷つけた。

それはなぜだか分からない。
でも彼が精神安定剤となって、次第にそれはなくなった。

それでも現実は変わらない。

今日もその人の命令で、お店のお金を恵比寿に届けなくてはいけない。
まだ陽が少し登った時間の渋谷、たくさんの飲み屋からちらほら人が出てくる。

気分は少しウキウキだ。
なぜなら、さっきお店にはいない彼から電話があったからだ。

それはいつもの業務命令だけど、私にとってはそれが毎日の楽しみなのだ。
今日も言われたとおりに、彼のために一喜一憂しながら私は働く。



End

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?