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サブカル大蔵経704『文藝別冊 萩尾望都』(河出書房新社)

〈少女マンガ界の偉大なる母〉

本人、漫画家、家族、城章子へのインタビュー。豊富な写真。

両親、姉、妹と、家族それぞれへの異例の個別インタビュー。

さまざまな行き違いや暴走をあっけらかんと述べる両親。

「小夜の縫うゆかた」と同名の姉、小夜。

「プライドが高い」と言われた妹・和歌子の冷静な分析。

萩尾望都は、この構成を許している。家族とのことを精算したからこそ、残された問題がクローズアップされて、『一度きりの大泉の話』の出版へと繋がったのでしょうか。

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萩尾望都二万字ロングインタビュー(インタビュー・ヤマダトモコ)

父が「なんで払うんだ、普通はお弟子さんがお金を持ってくるんだよ」。p.15

 会計事務を請け負ったが、アシスタント料を払おうとしない父。

ー竹宮さんと会われたのは、そのアシスタントの時が最初なんですか?
萩尾 昔のことなのでよく覚えていなくて。でもたぶんそうですね。p.23

 忘れなさいと言われたこととの関係。

萩尾 その後大泉には、ささやななえこさんが、半年もいらしたほか、いろいろな人がたずねてきました。伊藤愛子さんとか、佐藤史生さんも。ただ私も、北海道のささやさん宅に1カ月も行ったり、山岸凉子さんのアシスタントに行ったり、山田ミネコさんを訪れたりと、いろいろな人のところに行って会ってましたね。面白かったです。そのうち私の収入が安定したので、大泉は解散ということになって〈1972〜1973年頃〉。p.26

 大泉サロンにこもっていなかったことを強調。外に出た方が面白かったと。解散原因は、収入安定。ささやななえこ宅滞在は、10日間ではなく一ヶ月になっている。

大島弓子さんのカンヅメ現場にも、やっぱりベタ塗って帰ってきたり(笑)。私も、大島弓子先生に一度ベタ塗りを手伝っていただきました。p.27

 萩尾・竹宮より、萩尾・大島コンビ。

永井豪「いつも楽しげで…ふわフワ…」p.55

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 宙に浮き、笑う萩尾望都が妖艶過ぎる。さすが永井豪。

山岸凉子「あのサロンには、今思うと才能のかたまりの面々がひしめいていたのですが、その中でも、ひとり自分のカプセルにほっこりと入っているかのようなフシギな彼女が印象に残りました。/彼女は私が初めて出会った天才だったのですから。」p.58

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 山岸凉子から見ても宙に浮く萩尾望都。ホラーに描きそうで、なんか怖いです。

ささやななえこ「ああ、萩尾望都よ。何故君は男じゃなかったのか。そしたら絶対に結婚したのに。」p.70

 竹宮惠子、ささやななえこに、男性として求められる萩尾望都。…まさか?

 当たり前かもしれませんが、あらためて『大泉』でまだ描かれてないことはたくさんあるんだなと思いました。

〈萩尾望都仕事場インタビュー〉宮本秀夫

萩尾 1階がこたつのある四畳半で、2階に六畳と、三畳か四畳くらいの部屋があって。その隅っこに、父から譲り受けた座机を置いて描いてました。竹宮さんもいらっしゃったから、部屋の端と端に机を置いて、仕事をしていたような気がします。黙々と漫画を描いて寝るだけの日々でした。p.77

 端と端。ここには〈まんが道〉はない。

【妹 和歌子インタビュー】親は、「これをキャラクター化して売り出せば、漫画なんか描かなくても食べていけるじゃない」と思っていたようです。うちの母親は、そういう商才がある人なんですよ。でも望都さんはそういうことが嫌いで、大ゲンカしてました。それでまた母親が私に言うんですよ。「漫画なんか描かなくたってこれで一生食べていけるのに、なんでモーちゃんはわかんないんだろうね」って。間にはさまれた私は大変ですよ。/『イグアナの娘』の母親に甘やかされる妹は、たぶん私がモデルです。母親から嫌われる娘が望都さんだと思います。p.100.101

 萩尾望都に酷いことを言う母を〈商才がある〉と述べる妹の中立性。

城 当時の萩尾さんは仕事の依頼が殺到してて、でも仕事を断ったらその人がどんなに気を悪くするだろうって、考え込んで断れなくなってしまうタイプ。だから断り役で。p.156

〈断り役〉の集大成が、『一度きりの大泉の話』ということだったのでしょうか。

城 ひがまない、ねたまない。ある程度、人が持ってるような意地悪さが、ない。それは萩尾家の特徴かもしれない。もちろん人の好き嫌いとかはあるんでしょうけど、ホントに素直な一家なんですよね。p.159

 あの萩尾家すら客観的に語る城さん。

城 そのとき私は自分で、「こんなに好きだったのか、萩尾さんのことが」と自覚しました。
城 萩尾さんは、死にそうな目にあったんだから、これからは明るく生きようと決めたみたいですよ。人生楽しく生きようと思ったみたいです。p.160

 ロシアで乗っていた観光バスの交通事故が、二人にしか無い結びつきを与えたように思いました。

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