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サブカル大蔵経705鈴木志郎康『萩尾望都マンガの魅力』(清山社)

わたしは、萩尾望都さんの作品を、雑誌に発表された時点で読んでいるわけではありません。/わたしは、作品集となった萩尾望都を読み、感じるよりは考えるという仕方に力を入れて、その作品の中に入って行かなくてはなりませんでした。この本を手にする人は、そのことをまず念頭に置いてください。p.187

作者にも読者にも敬意のある、あとがき。

鈴木志郎康は、たしか大学の集中講義に来て頂いた記憶があります。この本も今は亡き旭川の古本屋さんで購入したのですが、まさか鈴木志郎康が執筆していたとは。

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1978年発行。

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本書は、清山社の「マンガ漫画館・魅力」シリーズの一冊です。鈴木志郎康は、このシリーズでもう一冊著しています。対象の漫画家は、ジョージ秋山です。

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本書は、驚くほど、作品について、絵の引用がたっぷりとなされています。もう、萩尾望都の副読本のような趣きです。

鈴木志郎康のスタンスは、言葉の専門家として、真摯で、批評的で、あたたかく、迷い込む読者だけでなく、萩尾望都に対しても、解きほぐしてくれるような感じです。

つまり「トーマの心臓」はその舞台であるギムナジウムの閉じられた世界が、そのまま作品の閉じられた世界となっているのです。それだけに、読み続けて、作品の中に入ってしまうと、その世界の虜になってしまって、今度は抜け出すことがなかなかできなくなってしまうというわけです。p.103

 まさに、私が、そうでした。

つまりこれらのことばは、作中の人物がその物語の中の状況に応じてしゃべるセリフというよりは、作者自身のことばであって、絵に描かれている人物や背景は、そのことばを支えるものになっているのです。「トーマの心臓」はお話と言うより、物語詩といった方がふさわしいのではないか、と思えるのです。p.106

 トーマの心臓の特異性を言語化。

このあらそいを、包みこむようにして見ているのが、この学校では校長から特別な扱いを受けているオスカーなのです。/つまり、オスカーは罪の子であり、彼自身が不幸な存在であったわけで、そのために彼は謙虚なあたたかい愛情を示すことができる少年なのです。/オスカーの不幸をのり越えた言葉を聞き、ユーリは、神学校に転校する決心をすることになるのです。p.114-118

 オスカーの役回りを簡潔に再現。

きっと、このユリスモールが突き当たった愛というのが、どういうものであるのか、この段階では、萩尾望都さんにもよくわからなかったではないかと思います。少々口を悪く言えば、わからないから、ユーリを神学校へ放り込んでしまったのだと言えそうです。p.121

 萩尾望都を神格化しない書き方に信頼

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そして後半、いきなり萩尾望都インタビュー。今ならこういう謎解き本には著者が出ることは考えられないが、贅沢過ぎます。そして、ホントに本人?というくらい率直な萩尾望都。漫画業界以外の人の質問が心地よかったのだろうか。

たいへん自我が強く、何かに熱中しているとき、横から他人に口を出されるのがきらいで、ひとりで何もかもしていたいと思いました。p.151

 漫画家になろうとした理由

遺伝と環境の集約所p.159

 家族について

からだの線が出るものが好きです。p.160

 好きな洋服のシルエットについて

ザルツブルグ・奈良と京都・北海道などです。死ぬのは自分の家でないとすれば、死体のみつからないような場所がいいです。p.162

 「お好きな街はどこですか。たとえば自分が死ぬときには、この街で死にたいとか……そういう街がありますか。」という問いかけ


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